個人年金保険は老後に向けた資産形成のための代表的な金融商品だ。多くの保険会社が販売しているため、保険の種類も多く特徴もさまざまである。個人年金保険を選ぶ際のポイントやおすすめ商品を、メリットやデメリットを絡めながら紹介する。

個人年金保険は貯蓄に特化した保険

個人年金保険は「保険」に分類される商品だが、死亡した時への備えを目的とした金融商品ではない。一般的に60歳や65歳といった年齢まで保険料を払い込み、そのお金を年金として受け取る商品だ。

個人年金保険に払い込んだ保険料は将来受け取る年金のための貯蓄に回っている。多くの場合、保険は何らかの保障を得るために加入するが、個人年金保険は貯蓄に特化しているのが特徴である。

また払い込んだ保険料は単に積み立てられていくわけではなく、保険会社の手数料や経費などが引かれた後、お金を増やすために保険会社によって運用される。

個人年金は運用方法により大きく分けて2種類ある

  • 定額個人年金保険
  • 変額個人年金保険

    定額個人年金保険も変額個人年金保険も貯蓄を目的とした運用商品である。主な違いは、将来受け取る年金額が確定しているかどうかである。

    定額個人年金保険では払い込まれた保険料が安全性の高いもので運用され、原則として契約時に年金原資が確定する。定額個人年金保険は加入時の金利によって運用利回りが固定され、低金利の日本ではお金を増やすことは期待しづらいが、リスクを考えれば定額個人年金保険のほうが安心だ。

    一方で、変額個人年金保険は払込保険料が株式や債券で運用され、解約時でないと年金原資が確定しない。元本保証ではないものの、長期運用することで大きく増える可能性もある。

個人年金保険の受取方法は基本的に2タイプ

個人年金保険は大きく分けて一定期間受け取るタイプか一生涯受け取るタイプの2つに分かれる。

  • 確定年金(一定期間受け取るタイプ)
  • 終身年金(一生涯受け取るタイプ)

    確定年金は被保険者の生死に関わらず、年金受取開始年齢から年金原資を5年、10年と分割して受け取っていく。その途中で死亡しても遺族に残りの年金が支払われる。

    終身年金は生存中の間に限って受け取れるが、確定年金と比べて1回の受取金額は小さくなる。長生きしないと受取金額が払込保険料を下回ることもあるため注意が必要だ。

個人年金保険のそれ以外の受取方法

個人年金保険の受取方法は、他にもいくつかの受取方法がある。

  • 保証期間付有期年金
  • 保証期間付終身年金

    どちらもあらかじめ保証期間が設定されており、その期間中の年金は生死に関わらず本人または遺族が受け取れる。保証期間後は有期年金の場合、契約時に決めた一定期間の生存中に限り、終身年金の場合は生存している限り年金が支払われる。

    一般的に年金が一生涯支払われるタイプは長生きすれば得になるが、確実な受け取りを考えるなら確定年金のほうが良い。受取方法は契約時に決めるのが基本なので、将来のことを考えて慎重に考慮したい。

外貨建てで運用する個人年金保険もある

個人年金保険の中には外貨建てで運用する商品がある。外貨建てで運用する場合、定額個人年金保険といえども為替変動の影響を受けるため将来の年金額は確定しない。海外のほうが金利は高いので、運用利回りも高くなりやすいというメリットがある。しかし外貨ベースで増えても、円高の時に日本円に戻すと払込保険料を下回る可能性があることには注意したい。

個人年金保険に加入する際は、商品性の違いをよく理解して加入を検討しよう。

個人年金保険と貯蓄型の生命保険の違いは保障の大きさ

個人年金保険は大きな保障準備には弱いが、貯蓄には向いている商品だ。一方で、個人年金保険以外にも貯蓄型と言われる生命保険がある。代表的なのは「終身保険」だ。個人年金保険との違いは保険料の払込期間中に死亡した場合、決まった保険金が支払われるか否かである。

終身保険は契約時に1,000万円など死亡保険金を設定しておき、万が一の時には保険期間のどの時点でもその保険金が支払われる。個人年金保険も死亡給付金が支払われるが、支払った保険料相当額かそれよりも少ない金額の払い戻しがほとんどだ。

終身保険は保障と貯蓄を同時にできる点が優れているが、どちらか片方だけを使うことはできないので気をつけたい。例えば長年保険料を支払い、貯蓄されたお金を取り崩すには契約を解約しなければならない。解約すると保障も同時になくなるため、使い勝手がよいとは言えないのだ。保障を残しておきたい場合には、保障と貯蓄は別々に検討したほうがいいだろう。

個人年金保険の3つのメリット

個人年金保険の種類によっても内容は変わるが、一般的なメリットは以下が挙げられる。

個人年金保険のメリット1……貯蓄が苦手でも続けやすい

積立型の個人年金保険は毎月決まった保険料が自動的に引き落とされるため、知らずしらずのうちに貯蓄が増えていく。貯蓄の基本は余ったお金を貯めるのではなく収入から先取りすることであり、自動的に引き落とす仕組みは貯蓄の苦手な人でも続けていきやすい。

預金と違い簡単に引き出せないことも、お金を強制的に貯められると考えればメリットになる。

個人年金保険のメリット2……変額個人年金保険は大きく増える可能性がある

契約時に利回りが確定する定額個人年金保険は、金利の低い日本においては数十年運用してもほとんどお金は増えない。それに対して変額個人年金保険は、リスクを取って運用する分だけ将来的に大きく増える可能性がある。

損をする可能性も決して否定できないが、投資は運用期間が長いほどリターンが安定しやすいことが過去のデータからわかっている。

個人年金保険のメリット3……個人年金保険料控除で所得税が軽減される

個人年金保険は単に貯蓄ができるだけでなく、払い込んだ保険料が所得控除の対象になり所得税を軽減できる。すべての個人年金保険が対象になるわけではないが、以下の条件を満たしていればよい。

  • 年金受取人が契約者またはその配偶者
  • 年受取人が被保険者と同一人物
  • 保険料の払込期間が10年以上
  • 年金受取開始が60歳以降かつ受取期間が10年以上

    控除できる金額は平成23年以前の「旧契約」と平成24年以降の「新契約」で異なり、旧契約は最高5万円、新契約は最高4万円が上限だ。所得税は累進課税のため実際の軽減税額は人によるが、仮に4万円を所得控除し所得税率10%なら年間4,000円が安くなる(2019年9月時点)。収入があり保険料を払い込んでいる間は毎年税金の軽減があるため、普通に貯蓄するよりもお得になりやすいのだ。

個人年金保険の3つのデメリット

個人年金保険のデメリットを知っておくことはメリット以上に大切である。加入後にやめたいと思っても損になる可能性があるからだ。

個人年金保険のデメリット1……急に資金が必要になっても引き出しにくい

個人年金保険の強制的に貯蓄できる仕組みは貯蓄が苦手な人にとってメリットだが、突発的に資金が必要になった場合にはデメリットになる。現金化することは解約に当たるため、契約そのものがなくなってしまうからだ。個人年金保険は将来のための大切なお金であり、加入後はなるべく解約を避けるようにしたい。

個人年金保険のデメリット2……途中解約は元本割れの可能性が高い

個人年金保険の途中解約は可能な限り避けたいが、どうしても解約しなければならない状況では元本割れも覚悟して解約しよう。中でも10年未満など短期間での解約は諸費用として解約控除がかかり、解約返戻金も通常より少なくなる。10年以上が経過していても、定額個人年金保険の途中解約では払込保険料を超えることはほとんどないため、途中解約は最後の手段にしたい。

個人年金保険のデメリット3……定額個人年金保険はインフレに弱い

変額個人年金保険には当てはまりにくいが、定額個人年金保険は継続的に物価が上昇していくインフレに弱い特徴がある。定額個人年金保険は契約時に利回りが確定し、インフレで金利が上昇しても契約した商品の利回りは変わらないからだ。低金利の時に加入するとその金利がずっと続くため、インフレのリスクを回避したいなら運用利率が変動する商品や変額個人年金保険など他の選択肢も検討しよう。

個人年金保険のおすすめの選び方

個人年金保険の商品は多くの保険会社が販売しているが、おすすめの選び方として以下の2つを参考にしてほしい。

おすすめの選び方1……個人年金保険は返戻率の高いものを選ぶ

個人年金保険は基本的に保障がなく貯蓄機能に特化するものが多いため、返戻率の高さで選びたい。返戻率は払込保険料に対し受取総額がどのくらいあるかを表す数値だ。

返戻率=年金受取総額÷払込保険料総額×100

100%を超えていれば払込保険料よりも受取金額のほうが大きくなる。返戻率は同じような加入条件でも商品によって差が出るため、比較してなるべく高い返戻率の個人年金保険を選ぶのがおすすめだ。変換率は変額個人年金保険や運用利回りが変動する商品の場合、市場実勢を受けやすいが、運用イメージを比較する指標として注目しよう。

おすすめの選び方2……個人年金保険料控除ができる個人年金を選ぶ

個人年金保険料控除を受けるには条件を満たす必要があるが、そもそも変額個人年金保険はその対象にならない。変額個人年金保険も所得控除は可能だが、その保険料は主に死亡保険を対象にする「一般生命保険料控除」に該当するのだ。一般生命保険料控除の上限控除額は個人年金保険料控除と同額であり、別々に利用できる。

変額個人年金保険に加入する場合、他に死亡保険に加入していれば、それらの保険料を合算して一般生命保険料控除を利用することになり個人年金保険料控除は使えない。控除枠には上限があるため、片方だけの控除より両方の控除枠を活用したほうが、税金は安くなる。死亡保険に加入中または加入予定があるなら、個人年金保険料控除のできる商品を選ぶのがいいだろう。

税制優遇を受けながら運用したい場合はNISAやiDeCoといった制度もあり、投資に興味があるなら変額個人年金保険以外の選択肢として一緒に検討したい。

個人年金保険のおすすめの3選

上述した選び方をもとにおすすめの個人年金保険を3つ紹介する。前提条件は異なるが、ホームページに掲載されている想定シミュレーションも記載するので参考にしてほしい。

おすすめの個人年金保険(1)……JA共済「予定利率変動型年金共済ライフロード」

円建ての定額個人年金保険の中では返戻率が高い。運用利回りのもとになる予定利率は当初5年間が0.5%で、6年目以降は0.75%を最低保証予定利率として毎年見直される。2019年度の予定利率は1.47%であり、翌年以降下がったとしても下限があるのは嬉しい特徴である。そのため、インフレによる金利上昇に対応しやすいのが「ライフロード」の魅力だ。

保険料……月額1万円
返戻率……108.6%
加入者年齢……25歳男性
保険料払込期間……60歳払済
年金支払期間……10年
予定利率……当初5年0.5%、6年目以降0.75%

おすすめの個人年金保険(2)……ソニー生命「5年ごと利差配当付個人年金保険」

「ライフロード」と比べて返戻率は劣るが、保険料の一部を使った運用が予定した運用益を超えた場合、6年目以降5年ごとに配当金が支払われる。その他に所定の高度障害状態・身体障害状態になると、それ以後の保険料が免除されるのは安心できる仕組みだ。

保険料……月額3万2010円
返戻率……104.1%
加入者年齢……35歳男性
保険料払込期間……60歳払済
年金支払期間……10年
年金額……年100万円

おすすめの個人年金保険(3)……マニュライフ生命「こだわり個人年金(外貨建)」

払い込んだ保険料が米ドルまたは豪ドルで運用されるため、円建てと比べて高い運用利回りが期待できる。積立利率は直近120ヵ月の平均で緩やかに変動し、1.5%の最低保証積立利率が設定されているのがポイントだ。為替変動リスクはあるが、日本円で毎月一定額を払い込んでいくことで投資タイミングを分散でき、高値づかみを避けやすい。途中で円高になっても長期的な視点で続けていくことが大切だ。

保険料……月額1万円
円換算の返戻率(20年経過時点)……米ドルは156.9%、豪ドルは204.3%
加入者年齢……40歳男性
保険料払込日……毎月1日

個人年金保険は加入前に商品性をしっかり理解する

個人年金保険は大きく定額と変額に分かれるが、自分のリスク許容度や将来の受取のことをイメージすれば商品を絞りやすくなるだろう。大きく増えなくても銀行預金よりメリットを得たいなら、円建ての定額個人年金保険がいいかもしれない。変動があっても長期的に増やしていきたいなら変額個人年金保険も選択肢に入れてみよう。

個人年金保険は種類によって商品性が大きく変わり途中解約もしにくいため、どの個人年金保険を選ぶにしても特徴をしっかり理解してから加入しよう。

文・國村功志(資産形成FP)
 

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