学費のピーク・大学も恐くない!

学校の授業料に塾や習い事の費用、さらに部活にもお金がかかる。実際のところ、教育費にはいくらかかるのか? そして、どのように用意すればいいのか? 数多くの家庭にアドバイスをしてきたファイナンシャルプランナーの前野彩氏に聞いた。

「総額」ではなく「月額」で考えよう

子供を持つ親にとって、教育費は何かと心配の種になりがちです。巷では「子供一人にかかる教育費は2,000万円」とも言われ、あまりに大きな金額に恐れをなす人も少なくありません。しかし、そのせいで「2人目、3人目なんて育てられない」と諦めてしまうのは悲しいことかもしれません。

なぜなら、教育費は、一度に必要になるものではないからです。保育園もしくは幼稚園から小中高まで、教育費は基本的には月ごとの支払いです。ですから教育費は、総額ではなく、毎月かかるお金として捉えるべき。月々の金額は、決して途方もないものではありません。

授業料などの学校教育費に習い事や塾代なども含めた教育費の平均月額は、以下の通りです。
 

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このように見てみると、高校までの教育費は、公立なら月4万円が目安です。日々の家計のやりくりで出せる金額でしょう。

ただし、その先に待っている大学は、教育費のピーク。文部科学省の調査によると、入学金と4年間の授業料の総額の平均は、国立で244万円、私立文系で428万円、私立理系だと589万円となっています。
 

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この費用は、コツコツと積み立てておくことが必要です。保育園・幼稚園から高校まで、月々4万円を出しながら、並行して大学の費用を貯める「2段構え」が基本となります。

児童手当を積み立てれば大学への備えになる

では、具体的には、どのようにして貯めればいいのでしょうか。

最もお勧めしたいのが、児童手当を積み立てることです。児童手当は4カ月に1度の振り込みとあって、収入として意識しづらいのですが、実は非常に心強い味方です。

児童手当の金額は、3歳までは月1万5,000円なので、3年間の総額は54万円。以降、中学卒業までの12年間は月1万円で、総額144万円。これらを足すと合計198万円です(所得制限限度額を超える場合は月5,000円、合計90万円)。正確な金額は誕生月により異なるものの、国立大学の費用の大半が賄えることになります。

とはいえ、日本の大学の8割は私立。私立大学への進学に備えるためには、子供が生まれたときから、毎月1万円ずつ積み立てましょう。18歳まで続ければ、216万円になります。これを児童手当の198万円と合わせれば414万円。私立文系なら、これでほぼ足ります。

今年10月からは、3~5歳の幼保無償化が始まります。給食費などを除いて、保育園や幼稚園に通わせるためのお金がほとんどかからなくなるのです。

これを、「かかったつもり」で貯めると、さらに上乗せできます。月3万円として、3年間で108万円。前述の414万円に足すと522万円になりますから、私立理系に手が届きます。
 

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「教育費は学資保険で」は今となっては過去の話

コツコツ積み立てればいいことがわかっても、実際にやろうとすると、なかなか難しいかもしれません。そこで、毎月、自動的に積み立てができる仕組みを作っておけば万全です。

方法はいくつかありますが、積み立てる金額を途中で変更できる、できないの視点から考えてみましょう。変更できるものには、金融機関の自動積立定期預金や会社の給料から天引きされる財形貯蓄、つみたてNISAなどがあります。

自動積立定期預金や財形貯蓄は元本保証です。つみたてNISAは値動きがありますが、今は金利が低い時代ですし、子供が小さい家庭では、大学資金が必要になるまでの運用期間が長いため、積み立て予定額の一部をつみたてNISAにするのもいいと思います。

一方、金額を変更できない方法の代表は、学資保険です。かつてはポピュラーな方法でしたが、今は元本割れするものも少なくありません。中には返戻率107%という商品もありますが、保険料の支払いから受け取りまでに18年間という期間を考えると、1年あたりの平均利回りは0.39%。途中で親が死亡すれば、その後の保険料を払わなくても満期のお金がもらえる保障機能はありますが、それなら、他の保険で親の死亡保障を充実させましょう。

無利息の奨学金は高1からの成績が要件に

大学の学費の準備として、積み立ての他にもう一つ心強い味方となるのが、奨学金です。

子供が高校に入学したら、本人と進路について話し合ってください。そして、私立大学など、お金のかかる進路を希望しているなら、奨学金制度について情報を集めましょう。

高校入学時に話し合うのは、1年生から勉強を頑張る姿勢を持ってもらうためです。なぜなら、日本学生支援機構の奨学金には成績要件があるから。

無利息の第一種奨学金を借りるためには、高校1年生から申し込み時までの成績の平均が3.5以上でなければならないので、3年生になってから勉強を頑張っても、もう遅いということもあります。

加えて、奨学金はいずれ返すものだと伝えることも重要です。大学の講師を務めた経験から、奨学金が借金であるという意識を持っていない学生がいることを実感しています。「奨学金が入ったから飲みに行こう」という会話が自然に交わされており、まるでお小遣い感覚。あとになって苦労するのを避けるためにも、しっかりと返済の意識を持ってもらうようにしましょう。

一方、親として注意するべきポイントは家計の収入基準。利息がつく第二種でも、4人世帯で、夫婦の給与収入の合計額が、1,100万円を超えると借りることができません。

共働きなら、収入基準を満たせず、借りられない可能性があるため、より貯蓄が重要になります。

日本学生支援機構の奨学金が借りられない場合は、各大学独自の奨学金制度や特待生制度を検討してみましょう。志望大学や奨学金の情報を集めたホームページをチェックしてください。

例えば、近畿大学は、入試で上位に入った学生の授業料を4年間免除する制度を設けています。地方出身者に奨学金を給付する東京の私立大学も多くあるため、早めに調べましょう。

なお、子供が医学部を志望したら、かかる費用は別格です。私立だと6年間で平均3,309万円。富裕な家庭でない限り、自力での捻出は困難です。そのときの頼みの綱は、本人の熱意と優秀さ。とにかく勉学に励んでもらい、特待生として学費免除などを狙うか、国公立を目指してもらいたいところです。

老後資金を考慮し教育費に上限を決めよう

教育費は、いくらでも出したくなるのが親心。「自分も親にそうしてもらったから」と話す親御さんも多くいます。

しかし、予算に上限を設けることを忘れてはいけません。

皆さんが子供の頃と今とでは状況が違います。

今は結婚や出産の平均年齢が上がり、親が定年を迎えても子供が学齢にある家庭も珍しくありません。退職金の平均額も2,000万円を切っており、子供にお金をかけすぎると、親の老後資金がなくなる恐れがあります。

老後資金が足りなくなると、結局、頼る先は子供になってしまいます。すると子供は、教育費をかけてもらった以上の負担を、10年後、20年後に背負ってしまう可能性も。

私のもとを訪れる相談者の中にも、高齢になった親の家計の援助に追われ、結婚もままならないと悩むお子さんがいらっしゃいます。

老後資金に支障をきたすほどの費用を教育に回してしまわないよう、両方同時に考えておきましょう。

見直すべきポイントは固定費とイベント支出

老後資金を貯めながら、教育費も出し惜しみしたくないという人は、家計の固定費を重点的に見直してください。

食費やお小遣いなどの節約は、手をつけやすいのですが、毎日意識しなければならず、ストレスになりがちです。それに対して固定費は、手続きに知識や手間がかかるものの、一度行動すればいいだけ。遺族年金や健康保険などの社会保険を活用して民間保険を見直す、格安スマホへ変更する、電力やガスの料金プランを変える、賃貸の住み替えや住宅ローンの借り換えなど、打つ手は色々とあります。

また、1年間のイベント支出を月ごとに書き出すのも有効です。1月は親戚へのお年玉、4月は歓送迎会、5月はゴールデンウィークと誕生日、8月は旅行……と書き出すと、イレギュラーと思っていた支出が実は定期的なもので、しかも、毎月のように何かしらあると気づけます。これらが年間でどの程度の支出になるかを計算し、節約できるポイントを検討しましょう。

外食などのちょっとした家族のイベント費用も、回数を減らして1回を豪華にするなど、工夫してみてください。

医療費控除をすると保育料が安くなる!?

人生のお金はつながっています。教育費だけに注目するのではなく、家計全体を視野に入れて、ムダを削ぎ、使いたいところにお金を集中させるメリハリが大切です。

さらに、税と家計とのつながりを知っておくことも重要です。

保険の見直しなら保険会社が、住宅ローンの借り換えなら銀行が教えてくれますが、税金の仕組みについては学ぶ機会がなかった人がほとんどでしょう。しかし、実はここに、教育費にも関係するポイントがいくつも隠れているのです。

例えば、医療費控除。一定額以上の医療費がかかった場合、確定申告をすれば、所得税の一部が還付され、翌年の住民税が減額される仕組みです。手間がかかる割に返ってくる金額が少ないと言う人もいますが、医療費控除を利用すると、保育料が安くなる可能性があります。保育料は住民税で決まるため、医療費控除で住民税が下がり、それにより、保育料の区分が下がれば、保育料が安くなるのです。

iDeCoや小規模企業共済の掛け金も所得控除の対象になりますから、医療費控除と同じメリットが期待できます。「iDeCo=老後の備え」と単純に捉えるのではなく、税との関係を把握することで、思わぬメリットが得られるのです。

配偶者控除も同様です。共働きの正社員夫婦は「自分たちには無関係」と思いがちですが、妻の産休や育休により、妻の給与収入が201.6万円未満の場合は、夫の扶養に入ることができます。出産手当金や育児休業給付金が口座に振り込まれると、収入だと思いがちですが、これらは非課税のため、所得にカウントされないのです。

なお、住民税が安くなる方法として知られているふるさと納税は、保育料には関係しません。しかし、高校の授業料が無償になるかどうかの判定の際は、判断材料になります。住民税をもう少し減らせば無償化の枠内に入るという人の中には、ふるさと納税を活用する人もいます。

このように、税の仕組みを詳しく知ることで、負担を減らし、使いたいところへ、賢くお金を回していくこともできるのです。

《取材・構成:林 加愛》
《『THE21』2019年9月号より》

前野 彩(まえの・あや)
ファイナンシャルプランナー
1974年生まれ。CFP(R)。〔株〕Cras代表取締役、FPオフィスwill代表。元中学校・高校の養護教諭という経歴を活かし、「こころ」と「お金」の両方を大切にしたアドバイスを行なう。年間400件を超える個人相談の他、テレビや新聞、講演などで「楽しくお金を使える知恵」を伝える。最新刊は『本気で家計を変えたいあなたへ〈第3版〉』(日本経済新聞出版社)。(『THE21オンライン』2019年10月03日 公開)

提供元・THE21オンライン

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