渡航先と学校でどこまで変わる?

教育に関心が高い人なら、子供を海外留学させることも考えているだろう。親にそのつもりがなくても、子供が留学したいと言い出すこともある。いったい、留学には、いくらかかるのだろうか? 1971年以来、留学のサポートを続けてきた実績を持つ留学ジャーナルの東京本店支店長・早本吉宏氏に教えてもらった。

官民協同の支援制度で今は留学のチャンス!

当社にご相談に来られる方の中には、子供の海外留学に関心を持っている親御さんも多くいらっしゃいます。

子供を留学させたいと考える理由の一つは、将来の仕事です。日本の市場は縮小しているので、これからは日本だけで働いていくのは難しい。だから、日本の良い大学を出るよりも、留学を経験してグローバルな人材になり、世界の市場を相手に働いてほしいと考えているのです。

一方で、実際に留学をする日本人の数は増えていません。若年層の人口自体が減っていることの影響もありますが、ピーク時に比べるとかなり減っています。

例えば、米国の高等教育機関で学ぶ留学生は約109万人いますが、そのうち、日本人は約1.8万人。国別でベストテンには入っているものの、全体の2%にも満たない人数です。1990年代には、米国への留学生は日本人が最も多かったのですが、大きく落ち込んでしまいました。

ちなみに、1位は中国、2位はインドで、この2国で全体の約50%を占めています。

こうした背景もあって、文部科学省は2013年から、グローバル人材育成のための「トビタテ!留学JAPAN」というキャンペーンを行なっています。留学生に返済不要の奨学金を給付するなど、官民協働で海外留学を支援する制度で、20年までに、短期留学を含め、高校の留学生を3万人から6万人に、大学の留学生を6万人から12万人に増やそうとしています。

留学希望者には追い風が吹いている状況だと言えるでしょう。

企業が留学経験者を評価する本当の理由

海外の大学へ留学する場合、受け皿が圧倒的に多いのが米国で、約4,000校あります。

英国とカナダは約100校、豪州は41校、ニュージーランドは8校しかありません。

近年は大学の交換プログラムで中国や台湾の大学に留学する人も増えていますが、私費や奨学金での留学となると、やはり米国が多いです。

海外の大学への留学生というと、比較的裕福な家庭の子供だというイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。裕福でなくても、日本学生支援機構などで奨学金を借りて留学する人は多くいます。

地方の学生の場合、東京の私立大学に進学して一人暮らしをするとなると、4年間で平均約1,200万円かかります。留学先の大学によりますが、これは海外留学をするのとあまり変わらない金額です。それなら奨学金を借りて留学させたほうがいい、と考える親も少なくないわけです。

近年は、交換留学や認定留学(留学先で取得した単位が認められる制度)を利用したり、大学を休学したりして、半年間や1年間の留学をする人が増えています。4年間、海外の大学に通うよりも親の負担が少なくて済みますし、企業も、きちんと勉強してくるのであれば、大学卒業に5年かかっても、グローバルな人材として高く評価するところが増えています。

企業が留学経験者を評価するのは、単に語学力が高いからではありません。それよりも、日本とはまったく違う文化や思考のクラスメートとディスカッションをしたり、チームプレーをしたりした経験です。

米国では、教育は投資だという考え方が強いので、アイビー・リーグ(ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学)のように年間の学費が5万ドルほどもする大学でも、学生ローンを組んで入学する学生が多くいます。努力次第で、卒業後に、それだけの学費に見合った収入を得られるからです。子供の留学を考える日本人にも、そのような考え方の人が増えてきたように思います。

国内の私大に通う費用とそれほど変わらない!?

米国の特徴は、州立大学と私立大学の学費の差が大きいことです。

日本だと、国公立大学で年間約60万円、私立大学でもだいたい100万~150万円です。ところが米国だと、州立大学が1.5万~2万ドルくらいなのに対して、私立大学は4万~5万ドルもします。

ですから、費用を抑えて米国の大学へ留学するとなると、州立大学を選ぶことになります。

米国で教育レベルが高い大学は、東部だと、アイビー・リーグやニューヨーク大学、ボストン大学と、ほとんどが私立ですが、西海岸だと、私立でレベルが高いのはスタンフォード大学とカリフォルニア工科大学くらいしかなく、他は州立大学です。この他の州にもそれぞれ、各州を代表する、全米でトップ100に入る州立大学があります。

州立大学の中でも学費が安いところを選べば、授業料が年間150万円、生活費も年間150万円で、300万円×4年の1,200万円ほどに抑えることもできます。

日本私立大学教職員組合連合が発表している東京都の私立大学の費用(自宅外通学者)が年間約297万円ですから、先ほどもお話ししたように、大学によっては日本の私学に通うのとそれほど変わらないわけです。

もっと費用を抑えるのであれば、まずは短大に入学してから、4年制大学に編入するという方法もあります。

日本の短大と違い、米国の短大には、職業訓練コースと大学への編入コースがあります。編入コースで2年間、一般教養の勉強をしてから、大学の3年次に編入するのです。米国の大学は、日本の東京大学やICU(国際基督教大学)と同じように、1~2年生では一般教養を学び、3~4年生で専門課程の勉強をします。

例えばカリフォルニア州の短大なら、授業料が年間1万ドルを切るところもあります。

実際、この方法で米国に留学する人は増えていますし、米国人でも、この方法を取る人は多くいます。

豪州やニュージーランドは、短期の語学留学であれば授業料も生活費も安いので人気なのですが、4年制大学だと国立でも意外と授業料が高い。場合によっては米国の州立大学よりもお金がかかります。また、そもそも大学の数が少ないので、狭き門です。
 

THE21オンライン
(画像=THE21オンライン)

帰国子女枠を狙って高校で留学する方法も

高校への留学には、卒業を目的として3年間留学する人もいれば、異文化体験のために1年間だけ留学する人もいるなど、色々なパターンがあります。

卒業が目的でも、3年間留学すると費用が高くなるので、1年生は日本の高校に通い、2~3年生で留学する、というような人も多くいます。

海外の高校に一定期間以上通って卒業すると、日本の難関大学を帰国子女枠で受験できるので、それを目的として留学するケースもあります。多くの大学では、帰国子女枠だと試験科目数が少なくなるのです。小論文だけで入学できる大学もあります。

高校の場合は、大学と違って、米国へ留学する人はあまりいません。私立高校だと授業料が高いですし、公立高校だと現地の人でも子供を通わせるのを躊躇うほど学力や治安の点で不安があるところも多いからです。

人気の留学先は、カナダ、豪州、ニュージーランドの公立高校です。

これらの国は、国を挙げて、留学生を呼んでいます。日本にある大使館でも頻繁にイベントを行なうなど、力を入れています。

私立高校への留学となると、学力や語学力が一定の水準に達していないと入学させてもらえませんが、公立高校なら、英検3級か準2級の語学力があれば問題ありません。高校で英語の補習授業をしてくれるところがほとんどだからです。

いきなり現地の高校生と同じ授業を受けるのは難しいので、初めのうちは一部の教科だけ現地の生徒と同じ授業を受け、他は留学生だけで英語の補習授業を受けます。そして、徐々に英語の授業が減っていき、最終的にはすべての科目を現地の生徒と一緒に受ける、というような仕組みになっています。そのため、日本人の留学生も卒業しやすいのです。
 

THE21オンライン
(画像=THE21オンライン)

大学院でのマスター取得は英国なら1年で可能

大学院へ留学する場合は、米国か英国を選ぶ人がほとんどです。

英国の場合、1年間でマスター(修士号)を取ることができます。そのため、留学費用を400万円程度に抑えることができます。

一方、米国のトップレベルの大学院でMBAを取得するとなると、2年間で1,000万円以上かかります。

ただ、米国の場合は、就学後にOPT(Optional Practical Training)の制度があり、1年間、米国で仕事ができるチャンスがあります。

日本学生支援機構は、大学院へ留学する人のために、「海外留学支援制度(大学院学位取得型)」という返済不要の奨学金を出しています。採用人数は年間約100人ですが、最大で総額約250万円を支給してくれます。
 

THE21オンライン
(画像=THE21オンライン)

短期の語学留学先は費用だけで選んでいい?

当社は年間1万2,000人ほどの留学相談者をサポートしていますが、その半数以上が短期の語学留学です。夏休みや春休みを利用する人が多いです。

留学先として最も人気なのは、カナダです。留学生の受け入れに積極的なうえに、治安や交通の便も良く、清潔であるなど、日本人が抱いているイメージが良いからでしょう。国内にフランス語圏があることから、きれいな英語を教育することにこだわってきた国でもあります。

カナダへの短期留学は1カ月で約30万~40万円。半分は生活費です。

豪州やニュージーランドも人気ですが、これらの国だと、1カ月で約30万円台。

米国の場合は、マンハッタンなどの一等地にある学校に留学すると、1カ月で57万円ほどもかかります。

短期の語学留学の場合、カリキュラムの内容よりも、学校の場所によって、学費も生活費も大きく違ってきます。同じ費用で少しでも長く留学したいのなら、費用の安い国を選ぶといいでしょう。

欧州に留学したい場合、英国だと1カ月40万円台と少し高いのですが、アイルランドだと30万円台で済みます。

ただ、語学留学とはいえ、得られるものは語学力だけではありません。語学だけなら、留学をしなくても、英会話教室やオンライン英会話を使って、日本にいながら質の高い勉強ができます。

留学ならではのメリットは、留学先の文化も学べることでしょう。米国や英国の文化に触れるために、多少学費が高くても、米国や英国に留学させるという考え方もあります。
 

THE21オンライン
(画像=THE21オンライン)

《取材・構成:桃山 透》
《『THE21』2019年9月号より》

早本吉宏(はやもと・よしひろ)
〔株〕留学ジャーナル東京本店支店長
1米国・フェアリーディキンソン大学卒業後、1999年に〔株〕留学ジャーナルに入社。米国への語学留学と大学留学、中国への語学留学の経験を持つ。2012年より現職。(『THE21オンライン』2019年09月26日 公開)

提供元・THE21オンライン

【関連記事 PR】
iDeCo(イデコ)を40代から始めるのは遅いのか
iDeCo(イデコ)をSBI証券で始める場合の手数料は?他の証券会社と比較
楽天証券でiDeCo(イデコ)を始めるメリット
クレジットカード「VISA」はどんなブランドなのか?
ポイント還元率の高いクレジットカード11選