医療費控除という言葉、聞いたことはあっても実際に活用できているだろうか。医療費控除を利用するには申告する必要があるが、少しの手間で節税できるお得な制度であり活用しないのはもったいない。医療費控除で申告できる医療費の金額や戻ってくる還付金、セルフメディケーション税制についてもおさえておこう。

医療費控除とは

医療費控除とは、医療費として支払った金額が所得から控除され、納める税金を減らせる制度である。医療費控除のメリットを受けるには申告する必要がある。申告は確定申告の際にすることができ、確定申告不要な会社員などは確定申告とは別に申告することもできる。

払った医療費の中でも、対象になるものと対象外のものがある。また対象となる医療費が全額控除されるわけではない。医療費控除による節税メリットを受けるためにこれらを理解しておく必要がある。

医療費控除はいくらから節税メリットを受けられる?

まずは医療費控除で節税メリットを受けられる医療費について確認したい。自分や生計を一にする家族のために支払った医療費が、基本的には年間(1月から12月)10万円を超えた場合に医療費控除の節税メリットを受けられる。ただし所得金額が200万円未満の人は、この基準額の年間10万円の代わりに「所得金額の5%」の金額が用いられる。

医療費控除として所得から控除される金額の計算は、実際に支払った医療費から10万円の基準額を引き、さらに保険金などの「補填額」も引かれる。保険金などの補填額とは、生命保険で支給される入院給付金や健康保険で支給される高額療養費・家族療養費・出産一時金などである。控除の対象となる金額は次のように計算される。

所得金額200万円以上……年間の医療費−基準額10万円−補填額=控除対象額
所得金額200万円未満……年間の医療費−基準額(年間所得金額の5%)−補填額=控除対象額

また医療費控除の最高額は200万円であり、いくら医療費を払ってもこれより多く控除されることはない。

医療費控除の仕組み

医療費控除を受けるには申告が必要である。「確定申告」する人は確定申告に医療費控除を含めて申告する。確定申告が必要ない人は「還付申告」として医療費支払年の翌年1月1日から5年間申告できる。かなり遅れても還付申告できるが、住民税額などに影響するため翌年3月までに申告することをオススメする。

申告手続きについて、2017年分から医療費控除の明細書を作成して提出すれば領収書の提出が不要となった。さらに医療費通知を添付すると明細書の記入を省略できる。医療費通知とは、健康保険組合などが発行する「医療費のお知らせ」などが該当する。

なお、申告手続き変更の経過措置として、2017年分から2019年分までは、医療費控除の明細書や医療費通知の添付の代わりに、医療費領収書の添付または提示でも可能である。

税務署が医療費控除の申告内容を確認するため、確定申告期限翌日から5年間は医療費の領収書の提示や提出を求められることがある(医療費通知を添付した場合を除く)。よって領収書は5年間保存しておくことが求められる。

医療費控除の申告後、所得税の減額分は還付金として受け取ることになる。住民税の減額分は通常翌年の住民税額で調整される。医療費控除の確定申告については「医療費控除 確定申告」を参照のこと。

医療費控除で対象と対象外になる医療費は?

医療費には控除の「対象」と「対象外」がある。医療費控除を正しく申告するためにそれらを確認しておこう。

医療費控除の「対象」になる主なもの

  • 医師や歯科医師による診療や治療の費用(入院時の部屋代や食事代も含む)
  • 治療や療養に必要な医薬品(かぜ薬など)の購入費用
  • 通院のための交通費や医師などの送迎費
  • あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の費用(治療目的に限定される)
  • 保健師、看護師、准看護師又は特に依頼した人による療養上の世話にかかる費用
  • 助産師による分べんの介助の費用
  • 介護福祉士などによる一定の喀痰吸引や経管栄養の費用
  • 介護保険制度で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額
  • コルセットなどの医療用器具等の購入代金
  • 医師などによる診療や治療を受けるために必要な義手、義足、松葉杖、補聴器、義歯などの購入費用

医療費控除の「対象外」になる主なもの

  • 自家用車で通院した際のガソリン代や駐車場代
  • 健康診断や人間ドックの費用
  • 医師などに対する謝礼金
  • 病気の予防や健康増進のための医薬品(ビタミン剤など)の購入
  • 入院で使う寝巻きや洗面具などの身の回り品の購入費用
  • 本人や家族の都合だけで個室に入院した際の差額ベッド代

セルフメディケーション税制とは

セルフメディケーション税制とは医療費控除の特例であり、特定の医薬品に払った金額を所得控除できる制度である。医療費控除とセルフメディケーション税制の両方を申告することはできず、どちらか片方を選択して申告する。

セルフメディケーション税制を申告するには条件がある。条件とは、その年に健康診断や予防接種などを行っていることである。セルフメディケーション税制も医療費控除と同様に、自分だけでなく生計を一にする配偶者や親族の分を加えて申告できる。

セルフメディケーション税制で控除できる金額は、特定の医薬品を購入した金額から1万2千円の基準額を引いた金額になる。控除の最高額は8万8千円である。

セルフメディケーション税制の対象となる医薬品は、スイッチOTC医薬品といわれるものだ。「OTC」とはOver The Counterの略で、カウンター越しにアドバイスを受けた上で購入することが由来であり、OTC医薬品は調剤薬局やドラッグストアなどで処方箋なしに購入できる薬である。スイッチOTC医薬品とは、医療用から一般用に切り替え(スイッチ)したOTC医薬品を意味し、医療用と成分が同じことから薬剤師による服薬サポートが大切になる。対象となるスイッチOTC医薬品の例は、かぜ薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬などの一部である。

OTC医薬品を購入する時にセルフメディケーション税制対象かを確認するには、医薬品のパッケージの「セルフメディケーション税控除対象」識別マークで判別できる。ただし、識別マークが付いていなくても対象となるOTC医薬品もあるため、店頭で確認するのが良い。購入後にセルフメディケーション税制対象かを確認するには、レシートや領収書の税制対象品目の記載で判別できる。

医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを選択するかは、シミュレーションして控除額が大きい方にすると良い。

医療費控除による還付金シミュレーションと還付金が戻るタイミング

医療費控除によりどのくらいの還付金を受け取れるのだろうか。ここでは還付金の計算をして具体的な金額を確認する。また還付金を受け取れる時期についても紹介する。

医療費控除による還付金の計算シミュレーション

医療費控除による実際の還付金額を計算する。例として年間所得が500万円の人でシミュレーションを行う。年間所得500万円での所得税は20%になる。住民税は所得金額に関わらず10%である。所得金額ごとの所得税は次のようになる。

課税される所得金額……所得税率
195万円以下……5%
195万円を超え、330万円以下……10%
330万円を超え、695万円以下……20%
695万円を超え、900万円以下……23%
900万円を超え、1800万円以下……33%
1800万円を超え、4000万円以下……40%
4000万円超……45%

この人が病気で入院と通院をしたケースを考える。入院治療費が20万円、入院の際の個室の差額ベッド代が4万円、通院治療費が5万円、通院のための自家用車のガソリン代として5,000円を使ったとする。また医療保険で5万円が補填された。

このケースで医療費控除の対象にならないものは、差額ベッド代とガソリン代であり、それ以外は対象に含まれる。対象金額は入院治療費と通院治療費の25万円となり、基準額10万円と医療保険による補填額5万円を引くと10万円が控除対象額となる。

所得税の減税額は10万円の20%で2万円。住民税の減税額は10万円の10%で1万円になる。

次に医療費控除とセルフメディケーション税制の選択についてシミュレーションする。年間所得が500万円の人が、医療費控除対象となる医療費に20万円、セルフメディケーション税制対象の医薬品に12万円を年間で使ったとする。なお保険による補填はなしとする。

医療費控除額……医療費20万円−基準額10万円−補填額0円=10万円
セルフメディケーション税制控除額……12万円−基準額1万2000円=10万8000円(最高8万8000円が適用)

このケースでは、セルフメディケーション税制の控除額は最高8万8千円が適用されるため、医療費控除の対象となる10万円を選択したほうが良いことになる。

医療費控除により還付金が戻るタイミングや受け取り方法

医療費控除により軽減された所得税は還付金という形で戻ってくる。所得税の還付金は、申告をe-taxで提出した場合には3週間程度で、それ以外の場合は1カ月から1カ月半程度で戻ってくる。

医療費控除により軽減された住民税は、通常は申告年分の翌年の住民税で調整される。この場合は還付金として戻るわけではなく、これから納める住民税が減ることになる。なお前年より過去(一昨年など)の医療費控除を申告した場合には、住民税が還付金として戻ってくることもある。

医療費控除による還付金の受け取り方法は、預貯金口座への振込みか、ゆうちょ銀行・郵便局で受け取る方法を選べる。受け取り方法は申告の際に指定する。

最後に、医療機関での診療や医薬品の購入などは、一回あたりの金額が少なくても年間で合計するとかなりの金額になることがある。医療費の領収書やレシートを保管し、年間の支出金額を計算することで医療費控除による節税メリットがあるかを確認できる。今までやっていなかった人は是非、医療費控除のシミュレーションをして欲しい。

文・松本雄一(ビジネス・金融アドバイザー)

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