ご無沙汰しておりました。ファイナンシャルプランナーの長尾義弘です。

今回は、さらにパワーアップしてお届けします。内容は、みなさんが「おトクだ!」と思っていたことが、意外にも「損をしている」というお話しです。「それってヤバクないですか?」そうです。まさに「ヤバイお金」の話をします。

10年前の冷蔵庫を買い替えると電気代が年間1万2955円安い

突然ですが、お宅にある冷蔵庫は購入して何年目ですか?

内閣府の調査で冷蔵庫の平均買い替え年数は10年です。10年前の冷蔵庫と最新の冷蔵庫を買い替えた場合、電気代にどのくらい差が出るかを調べたデータがあります。

2015年のデータから、容量500リットル前後の冷蔵庫を比較してみましょう。

□10年前の冷蔵庫は、年間消費電力は約680kWh
□最新の冷蔵庫は、年間消費電力は約180 kWh
□電力量料金を1 kWhあたり25.91円で計算すると
▽10年前の冷蔵庫=年間1万7618円
▽最新の冷蔵庫=年間4663円

年間に1万2955円も差が出るということになります!

ヤバッ、そんなに差が出るのですね。500リットルの冷蔵庫が15万円ぐらいですので、ランニングコストや環境のことを考えると早めに買い換えた方がいいかもしれません。

「他店で1円でも高い場合…」に隠された甘い罠とは?

ということで、冷蔵庫を買い替えに家電量販店へ行きました。

さて、ここからが本題になります。家電量販店へ行くと「他店よりも1円でも高い場合はその場で値引きします!」という「うたい文句」をよく聞きますね。もちろん1円でも安く買いたいのが、消費者の心理ですから、これほど素敵な提案はありません。まさに庶民の味方ですよね。

「よし、家電量販店の『Yカメラ』と『Z電気』の両方で値段を聞いて、値引き交渉をしてみよう!」などと意欲が湧いてきます。

ところが、これは消費者にとって不利益なのです。本当は販売店にこそ有利なように考え出された提案なのです。

「マジ? それってヤバイ!」と思いませんか。さて、それでは例をあげて説明をしていきましょう。

本当は損をしているのに「得した気分」になってしまう

家電製品は、どこで購入しても同じです。それなら少しでも安い方がいいですね。たとえば、YカメラとZ電気の両方とも同じ製品を売っています。メーカー保証も同じ1年。当然、消費者は安い方を購入します。

ですから、Yカメラが店頭価格15万円なら、Z電気は14万8000円で対抗します。ここで価格競争が起こります。Z電気の価格を見たYカメラは、14万7500円で対抗します。するとZ電気は、14万7000円……というように価格競争が激化して、YカメラとZ電気の価格がどんどん値下がりして、消費者にとっては良い効果が生まれます。

もし、仕入れ原価が13万円とすると、14万円までは値下がりするかも知れません。しかし、YカメラとZ電気にとっては、そこまで価格を下げてしまうと販売店の利益率がとても悪くなってしまいます。

そこで、YカメラとZ電気は、共に店頭価格を15万円に固定しようという「話し合い」をしたいところです。もちろん、あくまで「仮の話」ですが、それが実現すれば両店は同じ価格になりますね。当然、消費者にとってはどちらを選んでも同じ結果ですから、仕方なく15万円で購入することになります。本来であれば、価格競争でもっと安い価格で購入できるはずですから、実質的には高い買い物をして損を被ります。一方、販売店側は利益率がよくなって喜びます。

しかし、このように販売店同士が「話し合い」で価格を一緒にするというのは、独占禁止法違反になります。いわゆる談合にあたり、逮捕されるのです。そこで登場したのが「他店で1円でも高い場合はその場で値引きします!」という店側の知恵だったのです。

つまり、「その場」で他店と比べて値段を下げるわけですから、同業者同士、腹の探り合いをしてギリギリまで値段を下げ続ける必要がないわけです。

店頭価格を他店とだいたい同じ値段にしておけば、他店の方が安くても、それより少し値引きをすることで、消費者にはその値段に満足して買ってもらえます。もちろん、これなら談合にはなりません。

値引き交渉に満足していたあなた、トクしたと思っていたことが、実はそうでもないのかも知れません。

「今買わないと損!」は損失回避を促す甘い罠?

そんなことを考えながら、ジッっと価格表示を見つめていると、店員が近づいてきました。「ちょうどキャンペーン期間中ですので、今、買わないと損ですよ」とその店員は言います。

「限定10台限り」「今、買わないと損ですよ」という言葉に、私たちはどうしても反応してしまいますね。人間心理の弱いところです。

だれしも損得を計算しますが、それが必ずしも合理的とは限らないのです。なぜなら、人は多くの場合「利益より損失の方を強く感じてしまう」からです。

つまり1万円トクをするより、1万円損をするインパクトの方が大きいのです。人は利益よりも、損失を恐れます。これを心理学では、プロスペクト理論といいます。

プロスペクト理論は、次の問題を考えてみるとよくわかります。

【質問 (1)】
あなたは、AまたはBどちらのクジを引きたいと思いますか?
A:100万円がもれなく当たるクジ
B:50%の確率で当たりが出ると200万円がもらえる、しかし50%の確率でハズレだと0円になるクジ

【質問 (2)】
あなたには借金が200万円あります。さて、あなたはCまたはDどちらのクジを引きたいと思いますか?
C:借金を無条件で100万円減額してくれるクジ。借金は100万円残ります。
D:50%の確率で、当たりが出ると借金の200万円がすべて相殺されるクジ。しかし、50%の確率でハズレが出ると借金の金額はそのままになります。

質問(1)で、多くの人は、Aを選んだのではないでしょうか。私もAを選択します。質問(2)はどうでしょうか……少し悩まれましたか? Dを選んだ人も多いのではないでしょうか。

質問(1)も(2)も期待値は100万円と同じです。しかし、先に述べたように人は利益よりも、損失を恐れます。借金を減らしたいと願うあまり、結果としてギャンブル性の高い方を選択することもあります。これが損失回避の行動です。

「今買わないと損」「限定10台限り」に心を揺さぶられるのは、まさに損失回避の行動といえるでしょう。

しかし、そういったことを色々考えていると、冷蔵庫が買えないですよね。そろそろ決断を。

文・長尾義弘(NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP)/ZUU online

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