住宅ローンが低金利である状態は利用希望者にとって都合が良い。しかし、だからこそ起きる問題もある。例えば、もし月の返済額が比較的楽だからといって借入額を増やせば、将来それが自分の首を絞めかねない。借りる前にそういった危険性を把握しておくことは大切である。

低金利なら返済負担は減るけれど

住宅ローンの選定に、金利は大きな影響を及ぼす。住宅金融支援機構の2017年度民間住宅ローン利用者の実態調査(第2回)によると、住宅ローンを選ぶ際の決め手の1位は「金利の低さ」であった。

実際、住宅ローンの金利が低ければそうでない場合と比較して返済額は減り、負担も小さくなる。だが、それが問題を引き起こす可能性もある。例えば次に挙げる5つのケースだ。

・返済額が少ないからといって借入額を増やす
・金利上昇前に借入を急ぎ、頭金の分も借入額に加える
・変動金利を借りた後、金利を確認しない
・変動金利で借りて、後々固定金利への切り替えを図る
・金利が確定している期間を考慮せずに借りる

いずれも住宅ローン検討の際、当面の金利だけを見ていたために起こる問題である。このようなケースでは、かえって返済の負担は増えかねない。

返済額が少ないからといって借入額を増やす

住宅ローンにおいて、毎月の返済額は借入額、金利、返済期間で決まる。仮に借入額と返済期間を同条件とした場合、金利が低いほうが返済額は少ない。例えば3,200万円を年2%の金利で35年返済で借りたとしたら、毎月の返済額は約10万6,000円となる。もし金利が1%でほかが同条件なら、毎月の返済額は約9万円まで下がる。

しかし、ここでもう少し返済額が増えても構わないと考えて借入額を増やすと、後々の返済に支障をきたす可能性は高まる。

2018年7月時点の三井住友銀行の変動金利では、その引き下げ幅が最大となった場合、保証料を含めなければ適用される金利は0.625%となる。住宅ローンをこの変動金利0.625%、返済期間35年、借入額3,200万円、ボーナス返済なしの元利均等返済で借りると、毎月の返済額は約8万5,000円だ。

もし利用者が家賃12万円ほどの部屋を借りており、現在と同程度の返済額になるまで借りようとしたら、その借入額はどれくらいになるか。返済額を約11万9,000円とすると、借入額は4,500万円になる。

借入額3,200万円の場合の総返済額が約3,564万円となるのに対し、4,500万円だと総返済額は約5,011万円だ。保証料や手数料といった費用、金利の上昇などを考慮しなくても、35年間でおよそ1,400万円以上の差が生じることになる。

返済額の差は収入が減る定年後の生活にも影響することもある。35歳で住宅ローンを借り入れたとしたら、60歳で定年を迎えた頃の残高は借入額3,200万円だと約987万円、借入額4,500万円だと約1,387万円で、その差は400万円ほどだ。このことを考えても、多額の借入はデメリットになり得る。

金利上昇前に借入を急ぎ、頭金の分も借入額に加える

低金利の時期には、今後の金利上昇リスクを気にしてさらに借入額を増やしてしまうケースもある。例えば頭金が十分に用意できていない状態で住宅ローンの借入を検討している時だ。

住宅ローンの借入時に用意しておくべく頭金の目安は、一般的に住宅購入価格の20%ほどである。ただ頭金を貯めようとしていても、その間に金利が上昇する可能性はある。そんな時、頭金の分を借入額に上積みして借りると、結果的に返済にかかる負担は大きくなってしまう。

一例として、住宅取得価格が4,000万で、その時点で用意している頭金が目安の800万円あった場合とゼロの場合の返済額を比較してみる。利用する住宅ローンはフラット35の全期間固定型で金利は2018年7月時点での年1.34%、返済期間は35年で、ボーナス返済なしの元利均等返済だ。各種費用は含めない。

頭金が800万円ある場合、月の返済額は約9万5,000円、総返済額は約4,011万円だ。一方で頭金を用意せず4,000万円を借り入れる場合は、まずそれだけで金利自体が上がってしまう。

フラット35では融資率が9割以下か9割超かで金利が異なり、前者なら最低は1.34%だが後者だと1.78%になる。1.78%の金利で4,000万円を借り入れれば、月の返済額は約12万8,000円、総返済額は約5,377万円に上昇する。月の返済額は約1.3倍、総支払額の差額は約1,366万円だ。

この返済額は融資率9割以下で、固定金利を1%上げて3,200万を借りた場合より高い。借入額3,200万円、固定金利2.34%でも月の返済額は約11万2,000円、総返済額は約4,690万円と、4,000万円を1.78%で借り入れた場合よりは低くなる。

変動金利を借りた後、金利を確認しない

変動金利は、基本的に固定金利よりも低く設定される。2018年7月時点の三井住友銀行だと、最も低い適用金利は変動金利の0.625%である。固定金利選択型や全期間固定型の適用金利はプランによって変わるが、0.625%を下回ることはない。

しかし変動金利には金利が上昇するリスクがあり、金利の見直しは通常半年に1回行われる。ただ返済額の見直しは5年ごとに行われるため、金利を定期的に確認していないとその変動は実感しづらい。例えば元利均等返済だと、通帳で確認していてもそこに記載される返済額は変わらない。

しかし金利の変動は返済額の内訳である利息と元金の割合に影響を及ぼす。返済額は利息額と元金充当額で構成され、金利の変動がなければ利息部分は徐々に少なくなっていく。ただ元利均等返済において、返済額が変わらないなかで金利が上がると利息分の割合は増え、元金分の割合は減る。

すると住宅ローン残高の減少ペースも鈍るなどの影響が現れ、そのままの状態が続けば当初決めた期間では返済を終えられなくなってしまう。そうなるとどこかで繰上げ返済をするか、最終回に一括で残額を支払う必要に迫られる。

変動金利で借りて、後々固定金利への切り替えを図る

通常、変動金利は途中で固定金利選択型に切り替えられる。そのため住宅ローンの検討時、最初は最も金利が低い変動金利で借り、後々金利が上がったら固定金利に切り替える、という手段をとることも可能だ。

しかし、変動金利が上昇する状況では、固定金利もすでに上昇しているだろう。固定金利は一般的に変動金利より高いため、切り替えたとしたらその返済負担はより大きくなってしまう。

仮に3,200万円を変動金利0.625%、35年、ボーナス返済なしの元利均等返済で借りた場合、毎月の返済額は約8万5,000円になる。同時期のほかの金利は固定期間3年の適用金利が1.0%、5年が1.2%、10年が1.5%だったとすると、10年の固定期間選択型であれば、その期間の毎月の返済額は約9万8,000円だ。

ではその5年後、全ての金利が1%上昇したらどうなるか。変動金利は1.625%、3年固定は2%、5年固定2.2%、10年固定2.5%になる。金利上昇後の変動金利においては、残り返済期間30年だと毎月の返済額は約9万8,000円と、金利上昇前の10年固定と同程度になる。

もし金利に更なる上昇が見込まれ、そのタイミングでの切り替えを検討したとしても、すでに固定金利は上がっている。10年固定の金利2.5%を返済期間30年で借りると、毎月の返済額は約11万円だ。

切り替えたとすれば、返済額が月に約2万5,000円増加、年にして約102万円から約132万円で約30万円増加することになる。このように、金利が上がったら変動金利から固定金利へ、という手段は有効だとは言い難い。

金利が確定している期間を考慮せずに借りる

変動金利において金利の見直しは半年ごとに行われるため、特定の金利が確実に適用される期間は6カ月間だけということになる。2018年7月時点における三井住友銀行の変動型の適用金利は最も低くて0.625%だ。

一方、金融機関によっては一定の固定金利期間中の金利を特に大きく引き下げられるプランもある。例えば三井住友銀行には固定金利選択型を対象に、、10年固定の場合最低で1.15%まで下がるプランがあるのだ。

そして6カ月が過ぎれば変わる可能性がある変動金利と10年変わらない固定金利を10年という期間で比べると、場合によっては10年固定のほうが返済負担は少なくなる。

3,200万円を35年、ボーナス返済なしの元利均等返済、金利は保証料などを含めず0.625%で借りた場合、月の返済額は約8万5,000円になる。0.625%が5年間適用されたとして、その間の返済額は合計で約509万円である。

月の返済額は5年間変わらないが、金利が変動するタイミングはその間に10回ある。10年間でみれば20回だ。そのうちに金利が上がり、例えば6年目以降の適用金利が1.2%上がって1.825%になると、月の返済額は約10万円、5年間の返済額は603万円に上昇する。この場合、10年間の返済額は1,112万円となる。

一方、10年固定を金利1.15%で借りた場合、月の返済額は約9万3,000円だ。だが10年の間、適用される金利は確定される。そして10年間の合計返済額は約1,111万円と、途中で金利が上がった変動金利の場合よりはやや低くなる。

ただ10年固定でも、10年経過後に金利の引き下げ幅が小さくなるケースがあるため注意は必要だ。しかし、当初の金利の低さだけで変動金利に決める前に、金利が確定している期間も踏まえた別の選択肢を検討してみても損はないだろう。

文・ZUU online編集部

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