ふるさと納税で「ワンストップ特例制度」を利用すれば、面倒な確定申告は不要である。しかし、あえて確定申告をするほうが得になるケースがある。ポイントは、所得税と住民税のどちらの控除を受けるかだ。

ふるさと納税を行うと確定申告が必要になる理由

まずはふるさと納税を行うとなぜ確定申告が必要なのか、その理由について説明しよう。

ふるさと納税とは自分の意志で自治体を選び寄附できる制度

ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附を行った場合、寄附額のうち2,000円を超える金額を所得税と住民税から控除される制度だ。「納税」と銘打っているが、実態は税制上の「寄附」に当たる。

例えば、3万円のふるさと納税を希望する自治体に行った場合、自己負担額2,000円を差し引いた2万8,000円の税金が居住する自治体の所得税・住民税から控除される。支払った税金が還付されるため、納税者側からすると寄附をした自治体に納税をした形になる。それがふるさと納税と呼ばれるゆえんだが、寄附先は特に出生地などに限らず、返礼品目当てで選んでもかまわない。

ふるさと納税の還付を受けるには確定申告が必要

ふるさと納税のうち2,000円を除いた税金は自動的には還付されない。ふるさと納税をした事実を申告し、居住する自治体から税金の還付を受けるためには、確定申告が必要になる。確定申告は給与所得以外の収入を申告する場合や払い過ぎた税金の還付を受けるために行う。ふるさと納税を申告する寄附金控除もその1つである。これは、年末調整とは異なるので誤解しないようにしよう。

しかし、確定申告は自営業者や高所得者でない限り一般的になじみがないものだ。ふるさと納税の普及を目指す総務省は手続きの簡素化を図るため、特例の適用に関する申請書を提出することで確定申告を不要とする制度を導入した。それが「ワンストップ特例制度」だ。

ふるさと納税では「ワンストップ特例」を使えば確定申告は不要

2015年から始まったこの特例制度により、ふるさと納税の適用者は大幅に増え、2018年の受入額は導入前の10倍以上になっている。手続きがまったくなくなったわけではないが、ふるさと納税の普及に寄与したことは間違いない。

ふるさと納税のワンストップ特例を使うためには条件がある

「ワンストップ特例制度」を利用するには、ふるさと納税を行う先が5団体以内という規定がある。6つ以上の自治体に寄附した場合はワンストップ特例が使えず、自身で確定申告を行わなければならない。自治体の数が5つ以内なら、同じ自治体に複数寄附するなどしてふるさと納税の回数が6回以上になっても利用可能だ。

もう1つの条件は、確定申告を行う必要のない給与所得者であることだ。会社員は給与所得者に当たる。自営業や個人事業主はもともと収入を確定申告する必要があるため、ワンストップ特例は利用できない。

確定申告が必要な給与所得者とは、例えば給与所得が2,000万円を超える人、2ヵ所以上の会社から一定以上の給与がある人、副収入が年間20万円以上ある人だ。医療費が10万円以上、セルフメディケーション(自主服薬)が1万2,000円以上かかった人は医療費控除を行うだろうが、その場合も対象外だ。

ふるさと納税のワンストップ特例と確定申告の違い

ふるさと納税をどちらの方法で申告するのが有利なのだろうか。確定申告であると所得税・住民税両方の控除が受けられ、ワンストップ特例では住民税のみが控除される。ワンストップ特例の住民税は所得税があった場合と控除額が同じになるように計算されるので、いずれの制度を利用しても戻ってくる税金に差額はない。違いはどの税金が戻ってくるかだ。金額に違いがないのであれば、手続きがシンプルなワンストップ特例のほうが良いかも知れない。

しかし、手続きが複雑な確定申告を選択するほうが税制的に有利になるケースがある。例えば、控除上限額を超えてふるさと納税をしてしまった場合だ。

ふるさと納税の控除上限額を超えた場合は確定申告したほうが得

まず、控除には所得税および住民税の基本分と特例分があることを押さえておこう。

⑴所得税の寄附金控除
⑵住民税の寄附金税額控除の基本控除
⑶住民税の寄附金税額控除の特例控除
⑷住民税の寄附金税額控除の「申告」特例控除

特例分は申告方法によってそれぞれの控除額が算出され、上限額がある。確定申告をした場合、⑴⑵⑶の控除が受けられ、ワンストップ特例の場合は、⑵⑶⑷の控除が受けられる。

原則として⑴と⑷は同じ金額になるようになっているが、⑶が控除の上限額を超えてしまうと、ワンストップ特例を利用するほうが不利になってしまう。なぜなら、⑷は超過分を切り捨てられて少なくなった⑶を基に算出されるからだ。

控除額を算出する式は、以下のようになる。

⑴所得税の寄附金控除

【計算式】(ふるさと納税額-2,000円)×所得税率
【上限】総所得金額等の40%

⑵住民税の寄附金税額控除の基本控除

【計算式】(ふるさと納税額-2,000円)×10%
【上限】総所得金額等の30%

⑶住民税の寄附金税額控除の特例控除

【計算式】(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-基本控除率10%-所得税率)
【上限】住民税所得割額の20%

⑷住民税の寄附金税額控除の「申告」例控除

【計算式】③×所得税率÷(100%-基本控除率10%-所得税率)

これらの計算式に当てはめると、例えばふるさと納税額が20万円、年末調整時の所得税率が20.42%(復興特別税を加味)、調整控除を差し引いた住民税所得割が50万円とした場合、それぞれの申告方法で控除額は次のようになる。

確定申告をした場合=16万230円
ワンストップ特例の場合=14万9,150円

確定申告したほうが、ワンストップ特例制度を利用するよりも1万1,080円も得をしている。このように、控除上限額を超えてしまった場合は確定申告が得策というわけだ。

確定申告で住宅ローン控除をするならふるさと納税ではワンストップ特例のほうが得な場合も

ワンストップ特例制度を利用するほうが、得になるケースもある。住宅ローン控除を受けている場合だ。

住宅ローン控除は所得税が対象だ。確定申告によってふるさと納税と住宅ローンの両方を所得控除することは可能だが、金額を合わせることで所得控除の上限を超えてしまい、節税効果を100%享受することができない可能性がある。

一方、ワンストップ特例制度は住民税のみが控除対象となっている。所得税が対象の住宅ローン控除の影響を受けることはない。

住宅ローン残高が高額で、所得税で控除しきれなかった分は住民税控除にあてられるが、ふるさと納税の控除上限額を算出する際の住民税所得割は、住宅ローン控除を反映する前のものが使われるため問題ない。

住宅ローン控除で確定申告が必要なのは、初年度だけだ。2年目以降は年末調整で手続きできるため、他に必要がなければワンストップ特例を利用できる。

ふるさと納税に必要な手続きや書類

ふるさと納税をした後、どのような手続きが必要となるのか。確定申告とワンストップ特例の場合をそれぞれ解説する。

確定申告による申告方法

給与所得者が確定申告により、ふるさと納税の手続きをする方法は以下の3つだ。

⑴「国税庁ホームページ」で作成した確定申告書を印刷し税務署に提出
⑵e-Taxにより確定申告書データを電子送信
⑶手書きで作成した確定申告書を税務署に提出

自営業などで常に電子申告をしている人でなければ、⑵のe-TaxはカードリーダーやIDの用意はないことが多い。⑶の手書きが面倒なら、⑴の方法が最も使いやすい方法だ。

<用意するもの>

  • 勤務先からの源泉徴収票
  • ふるさと納税先からの寄附金の受領書
  • マイナンバーカード(ない場合はマイナンバー通知カードと身元確認書類)

<提出期限>
翌年3月15日

確定申告は複雑であると思われているが、一度行っておくと作業はそれほどでもない。国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」で作成する場合、給与所得者専用の所得税申告書を選択し、ガイダンスに沿って必要事項を入力する。ふるさと納税の適用を受ける控除は「寄附金控除」を選択する。あとは源泉徴収票と受領書の金額を該当項目に入力するだけだ。

印刷した申告書に寄附金の受領書と本人確認書類の写しを貼付し、最寄りの税務署に提出する。1~2か月後には還付金が指定した口座に振り込まれるはずである。金額と入金日は郵送されて来る「国税還付金振込通知書」に記載されている。

ワンストップ特例制度による申告方法

ふるさと納税のポータルサイトなどで好きな返礼品を選び寄附を申し込んだ際、寄附申込画面には「特例申請書の送付を希望」にチェックする欄がある。チェックを入れて送信するとふるさと納税先の自治体からワンストップ特例申請書が届く。申請書にはマイナンバーを記入する欄があり、さらにマイナンバーカードの写しまたは通知カードと身分証明書の写しも貼付する必要がある。

<用意するもの>

  • ワンストップ特例申請書
  • マイナンバーカード(ない場合はマイナンバー通知カードと身元確認書類)

<提出期限>
翌年の1月上旬(2019年分は2020年1月10日)

申請書がない場合は総務省やポータルサイトのホームページでダウンロードが可能だ。前年の1月1日から12月31日までに行った寄附は翌年の1月10日までに必着になっている。

申請書類はふるさと納税をした回数分必要だ。同じ自治体で2回の場合は2枚提出しなければならない。ワンストップ特例申請書を提出した後で確定申告をしてしまうと無効になるので注意しよう。

ふるさと納税の控除上限額を知る方法

控除上限額を超えると、確定申告のほうが得であると説明した。控除上限額は単に年収で決まるわけではなく、家族構成や住んでいる自治体によって異なる。結局いくらまでならふるさと納税ができるのかは、直近の源泉徴収票や確定申告書をもとにシミュレーションして目安を計算するほかない。

総務省のふるさと納税ポータルサイトに「寄附金控除額の計算シミュレーション」が用意されているが、Excelなので少々使いにくいので、ふるさと納税の返礼品を注文できるサイトで試算するといいだろう。ただし実際の所得とは異なる可能性があるので、あくまでも参考程度にとどめておきたい。

文・篠田わかな(フリーライター、ファイナンシャル・プランナー)

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