(写真=SEVENTIE TWOより引用)

 百貨店アパレルのナンバーワン企業であるオンワードホールディングスは1月8日に人事異動を発表し、業界を驚かせた。同社の廣内武最高顧問(78)が退任したのだ。1997年に中核の事業会社であるオンワード樫山の三代目社長就任以来、実に23年間にわたしトップの座にあった。オンワードの顔としてまた日本アパレル業界のドンとして君臨して来た人物が55年間勤めたオンワードHDを去るのだ。さらにオンワード樫山の二代目社長である馬場彰名誉顧問(85)も同時に退任する。馬場氏は激戦の後任社長レースで廣内氏を抜擢した人物で、廣内氏も頭が上がらない存在ではあったが、2007年に持株会社オンワードホールディングスを設立後はワンマン体制を築きあげて権勢をふるって来た。

 2015年に保元道宣氏(55)にオンワードHDの社長を譲った後は、代表取締役会長、さらに2019年には名誉会長、2020年には最高顧問に就任していた。この間オンワードホールディングスの業績悪化は著しく、その責任をとる形で馬場彰名誉顧問とともに同社を去ることになった。創業者の樫山純三氏の跡を継いで現在のオンワード樫山の形を作った二代目社長の馬場彰氏、そしてそれを受け継いだ三代目社長の廣内武氏がいなくなったオンワードHDを率いる保元社長は、廣内氏が残していった負の遺産をどうやって払拭するのか。馬場、廣内両氏ともカリスマ的な人物だったが、保元カラーが今後どれだけ出てくるのかがポイントだろう。

一般的に一度ダメになってどん底まで叩き落とされたトップ企業が這い上がってトップステージに戻るという例はきわめて少ない。ましてや流行り廃りを扱うファッション&アパレル業界である。連結ベースでは8000人以上を抱えるオンワードグループだが、その平均年齢は40歳を超えているはずで、若い企業でもない。「時代」というものに見捨てられれば、それがリ・ボーンして、もう一度受け入れられるというのはさらに難しいと思えるのだが。

 廣内最高顧問の退場は少しばかり遅かったようにも思われる。廣内氏がプロジェクトリーダーとして力を注ぐはずだった2019年4月オープンの「カシヤマダイカンヤマ(KASHIYAMA DAIKANYAMA)」はすでに賃貸物件としてテナント募集中だと聞く。

 オンワードHD、ワールドに続く大手アパレルメーカーのTSIホールディングスでも、代表取締役の2人が取締役に降格した。三宅正彦代表取締役会長(86)と上田谷真一代表取締役社長(50)だ。三宅会長は創業家の一人で、東京スタイルと合併したサンエー・インターナショナルを軌道に乗せた人物だが、さすがに高齢のための代表取締役返上と見られる。上田谷氏は2017年5月に社外取締役としてTSIHDに入社し、2018年5月に社長に昇格していたが、わずか1年5月という短命政権だった。コロナ下とは言え赤字転落となかなか改善しない収益構造の責任をとったものと見られる。前任の齋藤匡司社長(54)は2015年5カ月に社長に就任し、2018年5月に3年の任期で退社していた。齋藤氏、上田谷氏ともに三宅正彦会長の肝入りで外部からスカウトされた人物であった。2人とも成果を出せずに解任されたというのが真相だろう。齋藤氏は化粧品業界、上田谷氏はバーニーズジャパン社長の経験はあったが、いわゆる投資会社出身だった。アパレル業界以外の人材に活路を求めた三宅会長の抜擢にはむしろ賛同の意見が多かったが、やはり2人続けて成果が上がらないところを見ると、日本のアパレルメーカーあるいは業界そのもののもっている構造的な問題の根は相当深いのではないかと思わざるを得ない。三宅会長が代表権を返上したのは高齢の他にこの人選の責任をとったこともあるかもしれない。上田谷社長の後任は、TSIHDが買収した上野商会の社長で現在はTSIHDの営業本部長の下地毅氏(56)。果たしてどんな手腕を見せてくれるのか。

 1月8日、1月13日に発表された大手アパレル企業2社のアパレル業界のドン2人の現場からの退場というトップ人事を見ると、時代の流れを感じると同時に、今のアパレル大不況が抜き差しならないレベルのものであることを実感する。オンワードの廣内武最高顧問は日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)の最高顧問である。またTSIHDの三宅正彦会長は日本ファッション・ウィーク推進機構の理事長を務めている。本業でも現業から退場したように、こちらの団体からも退場されて遠目から業界を御覧になられてはいかがだろうか。あまり長く首を突っ込んでいると、日本の「ファッション&アパレル業界をダメにした男」などという有難くないレッテルを貼られかねないと思うが。

文・久米川一郎/提供元・SEVENTIE TWO

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