(厚生労働省「医療費の動向調査」)

 前回の本欄で、コロナ禍で外来受診を控えたり、予定していた入院を延期したりする人が増えた問題について、年齢別では20歳未満の受診抑制が目立つことを指摘した。こうした受診抑制の状況は、診療科別や病院の病床規模別でも異なっており、診療所や病院の中には、医業収益が前年比で大幅なマイナスとなり、経営が厳しくなっているところもあるようだ。
 図表1は、前年同月と比較した診療科別の診療所の医療費である。新型コロナの感染者数が急増した2020年4~5月でも、皮膚科や内科、産婦人科などが一定程度のマイナスにとどまったのに対し、小児科や耳鼻咽喉科では4割以上も減少した。これは、未就学児を中心とした子供の年齢層で、受診が大幅に控えられたためだろう。コロナ禍以前のデータを見ると、小児科はもちろん、耳鼻咽喉科でも全体のレセプト件数(実患者数)に占める未就学児の割合がほかの診療科と比較して大きい。
 また、図表2には、病床規模別に病院の医療費を前年同月比で示した。200床未満の中小規模の病院と比較して、200床以上の大規模病院のマイナス幅が大きい。この背景には、体制が整備されている大きな病院ほど新型コロナの入院患者を多く受け入れ、医療資源をコロナ患者に集中させたり、院内感染が発生すれば一時的に病棟を閉鎖せざるを得なかったりしたことから、予定していた手術や入院が減ったためと推察される。
 新型コロナ患者に積極的に対応している医療機関の経営が不安定になることで、医療従事者の疲弊を拡大させる事態は避けなくてはならない。医療提供体制を維持するための支援策の強化は不可欠だ。
 だが一方で、コロナ禍の影響が長引き、支援も長期化することが見込まれる中では、コロナ禍が収束するまでの施策という視点だけではなく、先行きの人口減少なども踏まえて真に必要性が高い医療機関に対象を絞るなどの観点も必要だろう。
 それぞれの地域が将来に向けて最適な選択をするためには、足元の受診抑制状況だけでなく医療機関経営に関わるデータを広く示し、さまざまな角度から分析することが欠かせない。データに基づく政策決定が今こそ求められる。

 

きんざいOnline
(画像=きんざいOnlineより引用)

文・大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
提供元・きんざいOnline

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