英語力を高めるメソッドには様々なものがありますが、その中でも特に有名なトレーニング方法の一つが「シャドーイング」です。シャドーイングとは、英語の音声を聴いた後、即座に聞こえてきた音声を復唱し続けるトレーニングのことを指します。シャドーイングは主に通訳トレーニングの方法として知られています。

シャドーイングは主に英語のリスニング力向上に役立つと言われていますが、なぜシャドーイングをすることでリスニング力が高まるのか、その理屈までは理解していないという方も多いのではないでしょうか。そこで、ここでは第二言語習得の観点から、シャドーイングがリスニング力の向上に役立つ理由について分かりやすく解説したいと思います。

リスニングの2プロセス「音声知覚」と「意味理解」

シャドーイングの効果について考える前にまず理解しておくべきことは、私たちはどのように英語をリスニングしているのかという点です。第二言語習得研究においては、リスニングは大まかに分けると下記2つのプロセスがあると考えられています。

1. 音声知覚(Perception)
2. 意味理解(Comprehension)

音声知覚とは、耳から聞こえてきた音声がどのような音声なのかを判定し、それを自分で操作可能な音声の形式へと変換することを指します。そして、意味理解とは、知覚した音声を手がかりとして、自分が持っている頭の中のデータベースにある単語や語彙、文法、発音、文脈などの知識と照合し、その音声がどのような意味なのかを理解することを指します。分かりやすく言うと、音声知覚とは「何を言っているのか」が分かり、意味理解とはそれが「どんな意味なのか」が分かるということです。

つまり、リスニング力が高いということは、音声が正しく知覚できており、正しいデータベースに基づいて正しい意味の理解ができているということを意味します。逆にリスニング力が低いということは、音声知覚、意味理解というプロセスのどこかに課題があるということです。

「音声知覚」と「意味理解」は脳内のメモリで競合している

ここでの大事なポイントは、実は脳内のワーキングメモリ(作業記憶)のなかで「音声知覚」と「意味理解」は競合しているという点です。ワーキングメモリとは、情報を一時的に記憶し、保持する能力のことを指しますが、このワーキングメモリの中には一定量の情報しかとどめておくことができません。

そのため、英語をリスニングしているときに、英語を正しく聞き取ろうと意識を集中することで音声知覚(何と言っているのかを把握すること)にメモリ資源をたくさん消費してしまうと、そのぶん意味理解(どんな意味なのかを把握すること)に使用できるメモリ資源が少なくなってしまい、結果としてうまく聞き取れなかったということが起こります。

つまり、リスニング力を高めるためには、できる限り音声知覚に使用するメモリを減らし、意味理解にたっぷりとメモリを使える状態にすることが重要となります。そこで役立つのが「シャドーイング」のトレーニングなのです。

シャドーイングによるメモリ消費の変化イメージ(写真=English hubより引用)