月刊マーチャンダイジングでは、毎年10月号で上場ドラッグストア企業の決算を特集しています。今回は2020年の売上高ランキングと、2021年の予想売上高ランキングを読み解きます。

アゲインストとフォロー両方の風が吹き荒れた

ドラッグストア(DgS)業界の2019年度は以下のようなアゲインストとフォローの風が吹き荒れた年になりました。

・消費増税(2019年10月)
・診療報酬の改定(2019年10月)
・新型コロナウイルス感染症拡大の影響(2020年2月以降)
①インバウンド需要の激減
②外出自粛による化粧品・季節品の不振
③感染予防関連商品・食品の需要拡大

そうしたなかで売上高ランキングを見ると、売上高を伸ばした企業が多く、上場14社すべてが増収増益という結果となりました。

売上高が伸長した企業に共通するのは以下のような点です。

①積極的な出店
②調剤部門の伸張
③食品強化

(図表参照、クリックで拡大)
 

MD NEXT
(写真=MD NEXTより引用)

2019年決算では売上高7,000億円企業が2社誕生。ツルハHDがウエルシアHDを抜いて首位に立ったことが、大きなエポックとして取り上げられました。

2020年は、ツルハHD、ウエルシアHD両社の売上高が8,000億円を超え、ウエルシアHDが、売上高で11.4%増の8,682億円とトップに返り咲きました。

ウエルシアHDの売上増は、調剤併設店舗数の増加によるところが大きいようです。調剤併設店舗は前年から155店舗強増え、調剤部門の売上高も19.8%増となりました。また、2018年12月に子会社化した岡山県の化粧品専門店MASAYAの売上が通年で寄与したこと、2019年6月に岡山県のドラッグストア金光薬品を子会社化したことも売上を押し上げる要因となりました。

2位となったツルハHDも8.5%増の8,410億円と業績は好調です。ほぼ計画通りの129店舗を新規に出店し、63店舗の閉店で国内店舗数が2,150店舗となったこと、既存店売上高も通期で4.2%増となったことが業績を支えています。

5月以降決算は好調な業績続く

ツルハHD同様、5月以降に決算期を迎えたDgSは、2月以降の新型コロナによる需要増が影響し、売上を伸ばしたところが多くみられました。

売上高で3位のコスモス薬品は、12.0%増の6,844億円と、4位以下を引き離しにかかっています。

9位のクリエイトSD HDは11.6%増の3,195億円、10位のクスリのアオキHDが19.6%増の3,001億円と、両社の売上高は3,000億円を超えました。

Genky DrugStoresは、19.0%増と20%増に迫る勢いで、前期から約200億円伸ばして1,236億円となっています。

全体では6位のスギHDも、11.0%増と2桁以上の伸びとなり、5,419億円と5,000億円の大台に乗せました。特に売上高構成比で88.5%のスギ薬局事業の既存店売上高が通期で5.9%増、全店で13.8%増の4,794億円と売上を伸ばしたことが影響しています。

なお17位の薬王堂HD(2月期)の決算は、前期から連結決算となったため増減比は前年の単独決算との単純比較ですが、11.1%増の1,020億円と1,000億円を突破しました。

苦戦する都心部立地のDgS

業界全体では好調に見えるDgS業界だが、全体から見て伸び悩んだ企業もあります。

売上高ランキングで4位のサンドラッグの伸び率は5.1%増。5位のマツモトキヨシHDは2.5%増。7位のココカラファインは0.8%増。ひとつランクを落として11位となったカワチ薬品は1.7%増。同様にランクを落として14位となったキリン堂HDは2.8%増。18位のサツドラHDは5.5%増でした。

要因は各社それぞれですが、3月決算のサンドラッグ、マツモトキヨシHD、ココカラファインなどは、都心部立地の店舗が多いために、2月以降の新型コロナによるインバウンド需要の激減と、外出自粛による化粧品・季節商品が伸び悩んだことも影響しているようです。3社とも3月の既存店売上高はマイナスで、とくにマツモトキヨシHDは10.6%減と2桁のマイナスでした。

2020年度、ウエルシアとツルハ9,000億円突破確実

MD NEXT
(写真=MD NEXTより引用)

上場DgSの2021年度の売上高予想では、各社とも新型コロナによる影響を見極めることが困難として、控えめな発表が多くみられました。

そのなかで公表している限り、ウエルシアHDが9,350億円と9,000億円を突破。ツルハHDが続いて8,600億円としています。

ただしツルハHDは通期予想に、2020年5月に子会社化したJR九州ドラッグイレブンの売上を含んでいません。JR九州の決算によるとJR九州ドラッグイレブンの2020年2月期の売上高は約522億円としており、単純に合計するとツルハHDの売上高予想は9,122億円。ウエルシアHDに並んで9,000億円台となることは確実です。両社の差は200億円強で、新型コロナや今後のM&Aの影響を考えると誤差の範囲といえます。業界をリードする2社の動きに注目したいところです。

なお、新型コロナによる影響がしばらく続くと推定したうえで、コスモス薬品は7,000億円台に、スギHDは6,000億円台の売上を見込んでいます。

マツキヨ、ココカラはマイナス予想

一方、マツモトキヨシHD、ココカラファイン、サツドラHDなどは、2019年度の業績の伸びが小幅だっただけでなく、2020年度はマイナス成長としました。

新型コロナにより業界全体にフォローの風が吹くなかで、外出自粛による影響で客足が伸び悩んでいることや、化粧品の売上が伸び悩んだことが影響しています。

さらに、インバウンド需要がほとんどゼロに近くなり、インバウンド需要を見込んで出店した店舗は売上を大きく落としています。

特に2021年10月に経営統合を発表しているマツモトキヨシHDとココカラファインに関しては、3月から直近の6月まで連続して既存店売上高がマイナスを続けています。マツモトキヨシHDは、2020年度売上高ランキングでもスギHDに抜かれて6位となりそうです。

業績の落ち込みが、今後の経営統合に向けたロードマップにどのように影響するのかが注目されます。
 

MD NEXT
(写真=MD NEXTより引用)

今後は他業態を巻き込んだ再編も

現在、DgS業界を牽引するのがウエルシアHDとツルハHDの2社です。両社ともイオンのハピコムグループに属しますが、それぞれ傘下に企業を持ち、2つのグループを形成していると言ってもよいでしょう。

その中に割って入る、2021年10月に経営絵統合するマツモトキヨシHDとココカラファイン。数年後には1兆円規模のDgSが3つ誕生しそうです。そして、この経営統合を契機に、大型再編が進むと予想する業界関係者は少なくありません。

再編には、DgSや薬局だけでなく、食品スーパーマーケットと提携したり、傘下に収める動きも出てきました。

主な動きだけでも、サツドラHDと生協のコープさっぽろが、2019年12月に包括業務提携を契約。クリエイトSDHDは2020年2月、子会社のクリエイトエス・ディーが食品スーパーマーケット「ゆりストア」を運営する百合ヶ丘産業を買収しました。

ウエルシアHDは、同じくイオングループの食品スーパーマーケット、ユナイテッド・スーパーマーケット・HD(U.S.H.D)と今年3月に業務提携。ヘルスケア、ビューティケア、家庭消耗品等の商品の共同調達などに取り組むことで合意しています。

クスリのアオキHDも食品スーパーマーケットのナルックス(石川県)を2020年6月に子会社化して、大型店にナルックスの強みである鮮魚部門をテナントとして入居させる予定です。

業界再編は今後、食品スーパーマーケットなどの他業態を巻き込みながら進んでいきそうです。

提供元・MD NEXT

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