コロナ禍で進化を遂げている外食企業がある。スシローもそのひとつだ。ネット、アプリからの予約、店内での座席案内、注文、会計まですべてが非接触で可能。また、温度管理された専用ロッカーは決済済みのテークアウト商品をセルフで取り出すこともできる。「非接客サービス」を進めながらホスピタリティは持ち続けるスシローの営業スタイルを紹介する。

(画像=MD NEXTより引用)

海外にも展開、回転すし業界最大手のスシロー

この度の新型コロナウイルス(以下、コロナ)禍は、飲食業のそれぞれにあるべき方向性の気づきをもたらしている。その大まかなポイントは「店内販売以外の商売を備えること」ということではないか。テークアウト・デリバリーやECは少なくとも売上をつくることができて、これからも自社の看板商品を磨き、発信していくことの重要性を認識させた。コロナはこれからどのような影響を及ぼすか想定はできないが、ウィズ・コロナ時代の対策はそれぞれに問われていくことだ。

さて、コロナ禍での飲食業の動向を探っている中で、回転すし「スシロー」の業績回復が比較的に早いことを知った。そのポイントを調べていくと「非接触サービス」というキーワードが出てきた。これが、どうして業績回復につながっているのか語ることにしよう。

ちなみにスシローの店舗数は2020年8月末段階で国内556、海外35(台湾19、韓国9、香港4、シンガポール3)となっている。これは回転すし業界の中では最大の規模を誇る。株式会社スシローグルーバルホールディングス(HD)の2020年9月期第3四半期連結累計期間(2019年10月1日~2020年6月30日)では、コロナ禍を経験していながら売上高1,506億6,100万円、営業利益は86億1,900万円となっている。

テークアウト新商品で売上が昨年の2倍以上に

スシローグローバルHDが発表している月次情報の「スシロー全店および既存店前年同月対比実績」は次のようになっている。自粛要請が出た3月の既存店売上高は86.3%、既存店客数83.9%、既存店客単価102.8%、以下、数字の表記は同じ順番で、4月が55.6%、45.3%、122.7%、5月が81.4%、65.4%、124.5%、6月が97.9%、89.2%、109.8%となっている。7月の既存店売上高は96.5%と前年に近づいてきている。

この4月度、5月度の既存店客単価が大きく伸びている要因は、テークアウト需要が伸びたことに他ならない。その象徴的な商品が「スシロー手巻セット」1,980円(税別、一部店舗では価格が異なる)である。販売休止していたが4月に急きょ販売を再開した。

スシロー手巻きセットとは、のり、しゃり、ネタをそれぞれ個別の容器に入れて持ち帰り、自宅で手巻き寿司が楽しめるセットメニューである。4月の販売再開時には店舗にある器、ネタ、海苔、しゃりを使用した。従来の手巻セットの器は間仕切りが設けられた専用のもので、ノリのサイズもそれに合わせたものを使用していた。それを「お客さまに1日も早くテークアウト商品を提供する」ということを優先させ、従来店にあった容器を使用することで柔軟に取り組んだ。

この頃はリモート勤務する人が増えたこともあり、テークアウトの需要が飛躍的に増えた。4月度単月ではテークアウトの売上は前年の4月度実績の2倍以上に増えた。同商品のネタは「まぐろ」や「サーモン」「えび」などスシローで人気上位の10種を詰め合わせたもので、スシローの手巻きすしセットだけではなく、家庭の冷蔵庫の中にある納豆やアボカドなどを組み合わせた食べ方を楽しんだ人も多いのではないか。さらに豪華ネタを集めた「スシロー特上手巻セット」を4月末から、これが好評となり「手巻追いネタ8種セット」などを5月下旬から、さらにニーズに合わせて、しゃりがしゃり玉に形成されているの「手巻セット」を6月上旬より販売した。

急きょ販売を再開した「スシロー手巻セット」がテークアウト売上げを押し上げた(画像=MD NEXTより引用)

アプリを充実、「自動土産ロッカー」も設置

さて、ここからがスシローの「非接触サービス」である。

まず、従来から行っているのは「自動案内」。お客が専用システムでチェックインすると、機械がお客を席まで案内してくれるもので、席は店内アナウンスで教えてくれる。待ち時間が発生する場合は、システムの近くにあるモニターに順番が表示される。

「自動案内」と「セルフレジ」によってお客の誘導から精算までスムーズにしている(画像=MD NEXTより引用)

さらに「セルフレジ」。お客が食事を終えて、席で会計をした後に渡される会計札(QRコード)をレジにかざすことによって無人で支払いができる。レジでスタッフを待つことがなく、人との対面を減らすことができるために、支払いをスムーズに済ますことができる。

非接触、無人で会計できるセルフレジ(画像=MD NEXTより引用)

4月に入りテークアウトが活発化したことを前述したが、これを支えたものはデジタルの活用を進展させたことだ。同店ではテークアウトのオーダーをスマホアプリやインターネットからできるようになっているが、この4月にこれまで以上に簡単かつ便利に使えるようリニューアルした。インターネット・アプリでは受け取る待ち時間が一目で分かるようになっていて、受取日の店舗の空き状況を確認できるようになっている。また、店舗でも受け取り時間を指定できるために、受取をスムーズに行うことができる。

その画像が①トップページ、②店舗選択、③受取日を選択、④商品を選択の一連である。また、お客がスシローアプリで予約して、店頭で受付をすると、プッシュ通知機能で連絡があるので待ち時間が近づくまでは駐車場の車の中で待つこともできる。

4月にリニューアルした「ネット注文サイト」の流れ(画像=MD NEXTより引用)

さらに店舗の中に「自動土産ロッカー」を導入している店舗もある。これは、温度管理機能が整ったロッカーを使用しているもので、①お客が「店内で予約」「電話ないしFAXで予約」もしくは「スマホアプリ・ネットで予約」すると、お客にQRコードが発行され、そのQRコードをかざすことによってロッカーから商品を取り出すというもの。アプリやネットで予約すると事前に支払いをすますことができと、メールでQRコードが届くので、指定された時間に店舗に行き人に接することなく商品を受け取ることができる。このロッカーは昨前に兵庫県の店舗ではじめて導入しているが、今年のコロナ禍でSNS上で大いに話題となった。

「自動土産ロッカー」によって人と接することなくテークアウトできる(画像=MD NEXTより引用)

 スシローの店舗に入ると、他の回転すしの店にはない空気感がある。それは「テーマパーク」である。店の空間は広く、客席では高校生のグループから、三世代家族まで思い思いに回転すしを楽しんでいる。イレギュラーなことがない限りに従業員と会話をすることはないが、従業員はお客が回転すしを楽しむためのフォローに尽くしていることは十二分に伝わっている。スシローの「非接触サービス」とは、顧客満足をもたらす技法といってよいのではないか。

著者プロフィール

千葉哲幸
チバテツユキ
1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。

提供元・MD NEXT

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