セブン-イレブンが現行の3便体制を2便体制に切り替える方針を示した。一般マスコミには、ほとんど取り上げられなかったが、長年、コンビニを取材している立場からすると少なからずの「衝撃」を覚える戦略転換といえる。

(写真=MD NEXTより引用)

お客様の立場を突き詰める=多頻度配送

もう昔のことなので知らない人も多いと思うのだが、セブン-イレブンは、1日3便体制を4便体制に改めた時期もあった。1989年5月より東京23区で4便体制を実施している。当時、常務取締役だった岩国修一氏は次のような説明をしている。

製造から販売するまでには、“作って陳列されている”時間がある。ならば、コストさえ合えば、こまめに配送した方がいい。朝食、昼食、夕食、夜食という1日4食の需要を考えれば、より鮮度の高いものを提供できる体制を組み上げる。製造から販売まで2時間のリードタイムを目標にしたい、といった内容だ。(『食品商業』1989年8月号参照)

この4便体制は、店内オペレーション上難しかったのか、ほどなくして3便体制に戻されたが、要は実質創業者である鈴木敏文氏が理念として訴え続けてきた「すべてはお客様の立場で」を突き詰めると、最大限、鮮度の高い商品をお客様に届けるためには、4便でも、5便でも、多頻度配送が良しとされるのだ。

1日70台のトラックが納品に来た創業期

では、弁当、おにぎり、パスタ、ドリア、サンドイッチ、といったデイリー商品の1日3便体制は、どのような経緯で始まったのか。

セブン-イレブンは1974年5月に東京・江東区の豊洲に1号店を開設した。大手メーカーを主軸とする指定問屋制度とルートセールスにより、当初は1日70台前後の配送トラックが30坪の店へ納品していた。在庫がバックルームはもちろん、自宅の居間にまで積み上がり、「欲しい商品を、欲しい時に、欲しい量だけ」お客に提供できる状況にはなかった。

これを多頻度少量の配送に切り替えるために、集約化と共配のシステム化が図られていった。その発展形が温度帯別の共同配送となった。その過程において、セブン-イレブンは1987年3月、米飯共同配送による1日3便配送体制をスタートさせた。

おにぎりや弁当は、コンビニの主力商品である一方で、納品されてから販売期限は1日しかなく、加盟店の中には廃棄ロスを嫌がり、販売期限前に売り切ってしまう量しか発注をしない店も多かった。

一方のチェーン本部は、廃棄ロスを恐れる気持ちは分かるが、欠品こそが店の評価を下げる最大要因であるとした。欠品の多い店は、いつも売場がスカスカな店だと印象を持たれ、店の評価を下げていく要因となる。廃棄ロス撲滅にだけ注力すると店が「縮小均衡」に陥るとチェーン本部は危惧していた。

その解決策が1日2便体制から3便体制への変更である。コンビニの販売ピークは、朝、昼、晩の3回あり、朝は6時まで、昼は12時まで、晩は18時までに配送できれば、各々のピーク時に欠品している「機会ロス」を削減できるとチェーン本部は考えたのだ。

続いて1993年にはチルド温度帯も従来の2便から3便体制に切り替えた。

デイリーの70%以上が店着後24時間以上販売できる

時は2019年9月、この春商品本部長に就任した、執行役員商品本部長の高橋広隆氏は商品戦略に関する会見で次のように述べた。

「(1日3便体制を敷いた)1987年当時、24時間以上の販売期限があるデイリー商品はゼロだった。しかし今は、納品から24時間以上、並べられるようになった商品はデイリー商品の70%を超えている。なのに、同じサプライチェーンのまま、同じ仕組みを続行している。これを考え直していいのではないか」

この春、石橋誠一郎氏に替わり商品本部長に就任した高橋広隆氏(写真=MD NEXTより引用)

確かに定温弁当は20度で管理され、15時間程度の販売期限だった。その多くを5度で管理するチルド弁当に置き換えることで、販売期限をプラス48時間延長できた。温度帯だけではなく、さまざまな技術革新により、24時間以上、店着後に販売できるデイリー商品が7割を超えた現状、仕組みを変える時が来たというのだ。

技術革新により定温からチルド化に進む弁当類(横浜市の店舗)(写真=MD NEXTより引用)

背景としてグループが推進する環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」がある。食品ロスを2030年までに半分に低減、2050年には75%削減する目標を掲げている。

沖縄での2便体制を全国に拡大

本年7月11日、沖縄県に初出店したセブン-イレブン(那覇市国際通りの店舗)(写真=MD NEXTより引用)

そこで2便体制に臨んだ地が、本年7月11日に初出店した沖縄である。

「ここを先鋭的なアンテナエリアとしてスキームを走らせている」(高橋氏)

セブン-イレブンが、ドミナントを拡張するときに、既存の専用工場が製造するキャパシティを超える、あるいは規定の配送時間を超えると予測できる場合は、新工場をベンダーが建設する流れになる。ただし、新工場を1店、5店で回していくと、スタート直後は赤字になるので、隣接するエリアの既存店への配送を新工場に付け替える措置がとられる。そうすると、立上げから100店、200店の製造ロットで回せるという仕組みである。この場合は、新工場も既存のスキームを踏襲するしかなく、新しい仕組みを試すことはできない。

しかし、沖縄の場合は、隣接エリアの協力は物理的に得られないので、いちから立ち上げることができる。

まずデイリー商品の製造アイテム数を、既存の120から80~100アイテムに絞り込んだ。発注締め時刻を11時から9時に前倒し、既存では可能だった2便、3便の追加修正発注を「不可」にした。そしてデイリー納品便体制を(おにぎりとサンドイッチを除いて)2便制としたのだ。簡単に言えば、製造から販売に至るサプライチェーンの仕組みをシンプルにしたということだ。その結果、1日9台の店舗への納品が沖縄では6台まで合理化できた。

1日1店舗9台の配送車を6台にする実験を沖縄で実施している(画像は東京・杉並区)(写真=MD NEXTより引用)

製造工場、配送会社、そして店舗も、人手不足であり、特に深夜に関して人手不足はより顕著になっていく。お客への影響は軽微だと考えて踏み切った措置であろう。

サプライチェーン全体の負荷を軽減すべく、四国エリアでは定温弁当のさらなるチルド化を推進、北海道と長野では、新商品の納品日を火曜日に集中させるのではなく、各曜日に平準化、北海道では、通常の一品一品の検品を、通い箱ごとの検品で済ませる仕組みが構築できないかのテストを続けている。

チルド惣菜はレトルトパックのセブンプレミアムも加わり充実度を増している(那覇市の店舗)(写真=MD NEXTより引用)

高橋氏は「沖縄スキームがきちんとはまったら全国2万店に早急に普及させたい」とサプライチェーンの変革を推進する構えだ。

戦後、日本商業の指導的な役割を担った倉本長治は「店は客のためにあり、店員とともに栄える」と商業者にメッセージを残した。

その言葉をお借りすれば「店は客と、そこに関わる全ての人のためにあり、地球環境とともに栄える」になっていくのかもしれない――――。

著者・梅澤聡

提供元・MD NEXT

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