つみたてNISAは2037年まで毎年40万円の投資枠が付与され、投資枠毎に最長20年間の非課税期間が設けられる制度。老後のために40代から資産形成を始めようという人にも便利だ。今回は老後資金の形成を目的に、40代からつみたてNISAを始める人を想定し、ファンドの選び方を説明していこう。
つみたてNISAでのファンド選びの前にすべきこと
ファンドを選ぶ前に、まずは投資の目標設定を行うことが重要だ。いつ何のために必要な資金であるかといった目的の整理も重要であるが、今回は「40代の人が20年後に必要となる老後資金を運用する」という前提を置いて、考えていこう。
元本は毎年40万円(毎月3.33万円)、2037年までの18年間拠出するとし、残り2年間は新規の積み立ては行わないものとする。
目標設定は、20年後にいくらを目指すかといった形で決めていく必要があるが、闇雲に決めてはいけない。次の2つの基準を目標設定の目安としたい。
銀行預金で運用した場合
まずは銀行預金で運用した場合だ。普通預金の金利を年利0.001%、毎月3.33万円を18年間拠出し、残り2年間は新規の積み立てなしで運用したとすると、最終的な運用結果は719.4万円となる。拠出した元本が719.3万円であるため、運用益は20年間でたった1,000円程度の計算だ。
仮に年利0.1%の定期預金があったと仮定した場合でも、最終的な運用結果は727.2万円、運用益は8万円足らずとなる。
つみたてNISAの目標を設定する際は、銀行預金で運用した場合のこれらの金額を下限に置き、少しでも運用益を高めるように考えていきたい。
年金資産と同様の運用をした場合
もう一つの基準は、われわれの公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と同じ運用をした場合である。GPIFは運用目標を名目賃金上昇率+1.7%と置いている。
仮に、名目賃金上昇率を無視し、年率1.7%で運用したとすると、最終的な運用結果は841.4万円だ。拠出した元本は同じく719.3万円であるため、運用益は20年間で約122万円になる。また、名目賃金上昇率がプラスで推移すれば、実質のリターンはさらに増える。
つみたてNISA で40代から老後資金を形成していく場合、運用目標の決定にはこのGPIFの利回りを参考にするとよいだろう。GPIFは基本ポートフォリオも開示しているため、ポートフォリオと利回りのバランスを掴みやすい。
ここから自身の目標を決定し、目標が低ければ、株式資産や海外資産の割合を減らしたり、目標が高ければ、株式資産等の割合を増やしたりといったアレンジを行うのがよい。
では、目標が決まった所で、具体的なファンドの選び方を4つのポイントで説明していこう。
つみたてNISAのファンドの選び方⑴……分散投資を意識する
つみたてNISAにおいて最も重要な点は、分散投資を意識することだろう。40代から老後資金の形成を行う場合、投資期間は10年を超えることになり、その間の経済状況予測することは不可能に近い。
「卵は一つのカゴに盛るな」という投資格言があるように、相場に賭けるのではなく、どのような経済環境にも対応できるようにリスクの分散を意識する必要がある。
ファンド選びで分散投資を考える際は、次の2つの段階での検討が必要だ。
ポートフォリオ内での分散効果
一つ目はポートフォリオ内での分散を考えることである。ポートフォリオ内で、株式や債券といった資産クラスの分散や海外資産の保有といった地域の分散を積極的に図っていきたい。参考までに、GPIFの基本ポートフォリオは以下の割合となっている。
国内債券……35%
国内株式……25%
外国債券……15%
外国株式……25%
この割合を参考に、不動産資産であるリートを組み入れる、海外資産は先進国と新興国に分散させる等の工夫を凝らしたい。
なお、ファンド自体が分散投資を行っているバランス型ファンドに投資するのも手だ。その場合、必ずファンドのポートフォリオを確認し、どのようなコンセプトで分散がされているかを理解する必要がある。
ファンド内での分散効果
ポートフォリオ内での分散を考えた後は、ファンド内での分散効果にも目を向けたい。同じ資産に投資するにあたっても、投資銘柄が多いほうが分散効果は大きくなる。国内株式に投資を行う場合、日経平均株価をベンチマークとするファンドよりも、TOPIXをベンチマークとするファンドのほうが、より多くの銘柄へ投資を行っていることになる。同じ資産クラスのファンドを選ぶ際には、こうした比較を行って検討したい。
つみたてNISAのファンドの選び方⑵……インデックスファンドへの投資が大原則
つみたてNISAで老後の資金形成を行う場合は、インデックスファンドへの投資が大原則である。
つみたてNISAの対象商品には多くのインデックスファンド以外に、数こそ少ないがアクティブファンドも採用されている。ただ、つみたてNISAの性質を考えると、長期投資でドルコスト平均法を活用できる事もあり、インデックスファンドの相性がよい。
特に40代からの老後資金形成を行う場合、投資期間も十分にあるため、分散投資でリスクを分散しつつ、インデックスファンドで市場リターンを得る運用が望ましい。
リスクを取って、短期間での値上がり益に期待する場合はアクティブファンドも選択肢に入るが、その場合は、つみたてNISAではなく、通常のNISAの活用も視野に入れるべきだろう。
つみたてNISAのファンドの選び方⑶……信託報酬に極端な差がないかをチェック
ファンド選びに際し、気になるのはコストであろう。ファンドのコストは安いに越したことはない。特につみたてNISAにおいては、長期投資となる場合がほとんどであり、コストの差はリターンの差へとつながっていく。
つみたてNISAでは、対象商品の要件が定められており、購入時手数料はかからないファンドのみが対象となっている。そのため、つみたてNISAで重要視すべきは、日々の信託財産にかかる信託報酬である。
ただし、つみたてNISAでは信託報酬にも一定の基準を下回るよう対象要件が定められている。つみたてNISAの対象商品である事自体が優良ファンドのお墨付きであるといえるのだ。
その中で、さらにコストの低いファンドを探していく方法も1つのファンド選びの方法だ。運用状況によって異なるが、毎月3.33万円を18年間拠出し、残り2年間は新規の積み立てなしで運用したとすると、信託報酬が0.1%違えば運用益は10万円弱の差がつく。
ただし、信託報酬については、検討中のファンドを比べ、信託報酬に極端な差がなければ、無視してしまっても構わない。0.1%程度の差であれば、運用誤差の範囲と割り切ってもよいだろう。信託報酬にこだわる余り、ファンド選択の幅を狭めることのないようにしたい。
ファンドによっては、売却時に信託財産留保額というコストがかかるものがある。コストは1%未満であることがほとんどであり、売却時のみかかるものである。しかし、このコストがかからない商品も多いため、なるべく信託財産留保額のかからないファンドを選択するようにしたい。
なお、ファンドのコスト比較は原則として、同じ資産クラスの商品同士で比べる必要がある点は押さえておきたい。
つみたてNISAのファンドの選び方⑷……インデックスファンドはベンチマークとの連動をチェック
ファンドの選び方として、インデックスファンド個々の運用実績を検討する視点も紹介しよう。
インデックスファンドは、ベンチマークとの連動を目指したファンドである。その運用成績を判断するには、いかにベンチマークと同じ動きをしているかが重要である。
ファンドの運用報告書を見ると、ファンドの値動きとベンチマークの値動きを表示したチャートがあるはずだ。ベンチマークときれいに重なっているインデックスファンドは、運用がうまくできているといってよいだろう。
ベンチマークを下回る運用となっているファンドは、コストが高い、運用が正確に行われていないなどの問題がある可能性も考えられる。一方で、ベンチマークを上回っていた場合でも、インデックスファンドの本来の目的とは異なるため、運用が正確に行われていないという問題を疑うべきである。
アクティブファンドでアクセントを加える手も
最後にアクティブファンドの話をしておこう。つみたてNISAにおけるファンド選びの大原則はインデックスファンドであるという話をしたが、ポートフォリオ内のアクセントとしてアクティブファンドを加える方法もある。アクティブファンドを加えることでポートフォリオ内のリスクは高まるが、リターンを高めることができるため、目標が高い場合には検討の価値がある。
ファンド選びの原則は先に説明してきた4つのポイントであるが、原則を押さえながらもアレンジを凝らすことで、オリジナルのポートフォリオを組むことができる。
投資は、自身の考えで選択を行うことにおもしろさがある。もちろん、つみたてNISAに回す資産は大切な使途のある資金であるケースが多いため、まずは大原則を掴み、堅実な運用を行う必要がある。
ただ、その枠組みの中で、自分なりのアレンジを工夫すれば、より投資が身近な物になるだろう。つみたてNISAを老後資金のためと割り切らず、折角の資産運用を楽しんでみてはいかがだろうか。
文・樋口壮一(金融フリーライター)
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