長年、万年筆作りに携わってきた職人たちが、こだわりの手作り万年筆を提供する『中屋万年筆』。昔ながらの職人技を生かし、使う人のクセに合わせて調整するその書き味は一度味わうと、もうほかには変えられない凄い逸品なのである。

19世紀の初頭に、その原型が考案された筆記具の王・万年筆。筆記具の多様化やパソコンの台頭で、一時は衰退していたが、秀逸なデザインや使いやすさで、手作り万年筆が注目されている。

昔ながらの職人技が隅々に生かされる『中屋万年筆』

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右から順にペン先の細さが太くなっている。(画像=男の隠れ家デジタルより引用)

国産万年筆といえば、パイロットコーポレーション、セーラー万年筆、そしてプラチナ萬年筆が三大メーカーといわれている。その中のプラチナ萬年筆は1919年(大正8)に、岡山県で輸入万年筆の販売を手がけていた中田俊一が、自ら万年筆の製造販売をする『中屋製作所』を設立した。その後、社名に金属の王様とも呼ばれるプラチナを冠した。

そんなプラチナ萬年筆の製造工場に長年務めた職人が集まり、2000年に開いたインターネットの手作り万年筆ショップが『中屋万年筆』である。その名称は、職人たちの出身会社であるプラチナ萬年筆の、発祥当時の屋号を使用している。
 

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もはや単なる筆記具というより、完成された工芸品の域。(画像=男の隠れ家デジタルより引用)

「もともとはプラチナ萬年筆の社内ベンチャーのような形で、1999年からスタートしました。熟練の職人さんたちが定年で社を去ってしまうと、手作り万年筆の技術が失われてしまいます。それを継承することが目的のひとつだったのです」

と、中屋万年筆ペンデザイナーの吉田紳一さん。ひと口に手作り万年筆といっても、その製造工程は少なくても150は下らない。さらにメッキなどの表面処理、装飾なども加えると、300以上にもなる。それらの工程をほとんど工場で作り、ペン先の調整を手で施しているものでも、一般的には手作り万年筆と呼んでいる。
 

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使う人のクセに合わせてペン先を調節する。(画像=男の隠れ家デジタルより引用)

「万年筆は、使い込むうちに書き方に応じて自然に手に馴染むものです。昔はそれが普通でした。ただ、現代の生活様式の中では万年筆を使う時間が激減してしまい、馴染むまでにかなりの時間を要してしまいます。弊社ではこの馴染むまでの時間を短くする手伝いをする意味で、調整を行なっているのです」

自信を持って語る吉田さん。その仕事の一端を見せていただいた。

使い手のクセも反映した手作りならではの味を実現

中屋万年筆では、注文時にデザイン(ベースになる型、軸の種類)、ペン先、クリップを選ぶ。それと共に、注文書には使用する人の筆記時のクセを記すカルテもあるので、これも忘れずに記入する。この筆記カルテをもとに、ペン先やペン芯などの調整を行うのだ。

万年筆のペン先は純金と銀やニッケルなどを溶解し、合金を作る作業から始まる。その後、型抜き、穴あけ、イリドスミン付け、先端研磨など、55もの工程を経て出来上がっている。その耐久性は500~600万文字といわれている。それだけ長く使用するものだけに、使う人の手に馴染むように調整するのだ。
 

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ペン先の調整を行う吉田さん。繊細な作業だ。(画像=男の隠れ家デジタルより引用)

「ペン先とペン芯を合わせた際に、微妙な隙間ができます。それを湯通ししてくっつけます。中心が合っているか、ルーペで確認しながら行う、とても細かな作業です」

そして筆圧や筆記速度に応じてペン先の寄せ具合を調整する、と吉田さんは語る。合わせの後、先端部分のエッジを砥石で磨く。さらに書き方に合わせてオイルストーンで先端を整える。こうした細かな努力が、中屋万年筆の手作りの良さを支えているのだ。

さらにもうひとつ。万年筆の軸に使われる伝統的素材エボナイト。この硬くて光沢を持つゴムを、職人が一本一本手挽きで製作している。こうした一人ひとりの卓越した技術が、本当の手作りの味わいを生み出すのである。

文/野田伊豆守 写真/起定伸行

男の隠れ家デジタル編集部
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提供元・男の隠れ家デジタル

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