2020年注目の一台となるホンダの新型フィットが2月にデビューする。すでに当サイトでは試乗レポートをお伝えしているが、今回は新型フィットの特徴をお伝えしよう。

新型フィットに求められるもの

フィットがグローバルモデルであることは言うまでもないが、新型フィットで四代目を数え、これまでホンダの基幹車種としての役割も担ってきた。特に2001年に初代がデビューしたときは、燃費の良さ、室内の広さ、シートアレンジの多彩さなどが支持され、年間販売台数でホンダ車初の1位を獲得している。
 

AUTO PROVE
四代目フィットはドラスティックな変更を数多く取り込み、ホンダの絶対的エースへの期待がかかる(画像=AUTO PROVE)

二代目は正常進化と位置づけ、マイナーチェンジでハイブリッドモデルを追加。年間15万台レベルの販売を記録し、フィットブランドが確立していくわけだ。三代目は現行モデルのハイブリッドでi-DCDという、1モータータイプのハイブリッドで燃費NO1を目指したモデルだ。

この3世代で累計の販売台数は268万台を数え、国内での保有台数が183万台だという。これはホンダ車の中の20%弱を占める割合で、こうしたデータからも基幹車種であることがわかる。

 
そして四代目がまもなくデビューするが、このグローバルモデルを日本発として展開し、国内市場を重視する視点で開発している。国内の絶対的エースに育てたいという背景を背負ってデビューしてくるのだ。もちろん国内でのコンパクトカー市場は各社のエース級モデルがひしめき、特にトヨタのヤリス(ヴィッツ)も同時期にデビューするので、ユーザーとしてはライバル比較ができる絶好のチャンスとなる。

感性価値を重視

そしてこれまでと大きく異なるのが、スペックに拘らず、感性価値に注力した開発をしてきたことだ。従来は燃費NO1にこだわり、数字を追いかける側面を持って開発されていたが、この四代目は人の感性を重視しているという。そして開発のコンセプトには心地よい、感性に響くことを大切にしているという。
 

AUTO PROVE
NESSグレード。ライフスタイルでモデルを選べるようにグレード構成を変更。「フィット・ネス」か?(画像=AUTO PROVE)

これは最近の国産モデルに多く見られる傾向で、「人間中心」とか、「感性価値」といった言葉で表現されることが多く、運転していて気持ちいいとか、楽しいということを真剣に考えたモデルが増えてきているということになり、トレンドの一つとも言えるだろう。

そうしたことからも、新型フィットの開発ベンチマークにドイツ車を置いていないようだ。官能評価で高い評価を受けることの多いフランス車の研究をしたと、開発責任者の田中健樹氏は話していた。こうしたことからも、これまでにない新しい価値を持ったモデルであることが伝わってくる。

シリーズハイブリッド中心e:HEV

こうした背景を背負った四代目はホンダ独自のハイブリッドシステムであるi-MMDをパワートレーンとして搭載した。これは駆動モーターと充電モーターの2つのモーターを持ち、ガソリンエンジンは充電用発電機としての役目をメインにして搭載している。そして高速走行時はモーターより効率のよいエンジンを直結させて駆動するという方式のハイブリッドだ。
 

AUTO PROVE
1.5Lエンジンと2モーターが組み合わされるe:HEV(画像=AUTO PROVE)

これは以前からアコードに搭載されているシステムと同じであるが、今回コンパクトカーに搭載するため、ユニットを小型化している。そしてその名称もわかりにくかったi-MMDを改め、e:HEV(イーエイチイーブイ)とした。

モーターはホンダ浜松工場で自社生産され、従来のモーターよりステータを薄型化したサイズのモーターになっている。ただし巻線コイルのヘアピンスロットは従来と同じ72スロット構造のままで、生産効率も落とさず製造できることになる。
 

AUTO PROVE
高速走行ではモーターより高効率なエンジンで駆動するため、ギヤを1つ持っている(画像=AUTO PROVE)

制御は搭載するバッテリー容量が小さいため、バッテリー走行できる領域が狭く、エンジンを稼働させて充電する場面が多いという。そのため、モーター走行感を出したかったものの、エンジン始動の回数も多いことから、エンジンの回転数とアクセル開度の無関係性を、あたかも関係しているかのように制御にし、実際に走行してみるとエンジン走行しているような錯覚をするほどきれいに作り込まれていた。

 
ちなみに新型フィットのパワートレーンはこのe:HEVと1.3LDOHCアトキンソンサイクル+CVTを組み合わせたユニットも用意されている。

そしてグレード構成はBASIC、HOME、NESS、LUXE、CROSSTARがあり、CROSSTARのみ車高が30mm高くなっている。このCROSSTARとNESSをライフスタイルで選ぶと位置づけ、LUXEをライフステージで選ぶと位置付けているグレード構成だ。つまり、従来の上級グレード、エントリーグレードというヒエラルキーをやめ、HOMEを中心として、ユーザーの価値観に合わせたグレード展開を設定したことも異例なことだ。

心地よいインテリアデザイン

デザインでは、なんと言っても視界の良さが最大の特徴だと思うが、インテリアでは心地よく使える、毎日が楽しくなる、心地よい形、心地よく過ごせるといったことに注力している。そこにはワンモーションフォルムのエクステリアを考えたときに、Aピラーがどうしても視界に入るため、Aピラーを無くすことができないか?というまさに異例のアイディア検討から始まったという。
 

AUTO PROVE
極細のAピラーは異次元の視界の良さを体感する(画像=AUTO PROVE)

そして極細のAピラー構造が完成し、インテリアではその細いAピラーを引き立てるようなインパネ周りのデザインにしたという。メーターは液晶とすることでメーターフードを無くすことができ、インパネ正面がフラットで、ボリュームの圧迫感を減らし、窓への映り込みも減らし、明るい空間の心地よさを狙ったインテリアに仕上げている。

また、液晶メーターはデジタルゆえに、なんでも表示させることが可能で、派手な演出も可能になるが、あえて「本当に心地よいのだろうか?」という原点を思い出し、多くの情報は表示せず、本当に必要な情報が必要に応じてポップアップしてくる方式にしているという。
 

AUTO PROVE
ダッシュボード周りがすっきりとして、2本スポークのステアリングも斬新だ(画像=AUTO PROVE)

もうひとつ目を惹くのが2本スポークのステアリングだ。インパネのボリュームを落とすことができたため、足元の開放感が作り出せたという。だが、3本スポークのハンドルだとその空間を感じにくいということで、あえて2本スポークにチャレンジしたということだ。

センターコンソールでも電動パーキングブレーキにしたため、サイドブレーキのレバーはなくなりセンターコンソールはすっきりとしている。そこのスペースを有効に使うために何かの操作系スイッチを設置するのではなく、小さめのカバンがスッとおけるスペースとして残すという考えにした。そのため一番使いやすいフラットな形状を維持させ、何かを盛り込むことはしなかったという。

家族の存在を目指すエクステリアデザイン

エクステリアのデザインについてデザイナーによると、フィットという意味をよく考え、ホンダのコンパクトカーであり、世界から見て日本らしいとかを感じられるように、そして心地よいと思われるように柴犬をイメージしているという。一緒に遊んで楽しく、家族のような存在にしたかったというのが、エクステリアデザインを担当したデザイナーの思いだ。

これまでクルマのデザインは「カッコよくする」ことを目標にしてきたが、フィットでは「乗っている人がカッコよく見える、街を明るくしたい、社会全体をどうやって明るくするか、そういう思いもフィットにはある」という狙いでデザインしたという。

剛性感としなやかさを狙った乗り心地

Aピラーを極細とし、衝撃吸収はロワメンバーからAピラーへ逃す従来の方法から、ロワメンバーからダッシュアッパーサイドメンバーへ力を伝えるという伝達経路を変更することで、Aピラーの極細化を実現している。
 

AUTO PROVE
ホットプレス材を使うなどしてボディ全体の剛性を上げ、衝突エネルギーの伝達経路を変えて極細Aピラーが完成している(画像=AUTO PROVE)

そしてホットプレス材の1500MPa級の鋼材を使い、ボディ全体の剛性をアップさせている。またNVHにも配慮し、ダッシュボードロワと言われるトーボード面を0.8mm厚から1.4mmまで厚さを上げて、NVH対策と剛性向上をしている。これはいわゆるバルクヘッドと言われるエンジンルームとキャビンとの隔壁の板厚をあげているということだ。
 

AUTO PROVE
バルクヘッド。ブルーの板厚を変更することで、ボディ剛性向上とNVH対策としている(画像=AUTO PROVE)

シートも新開発されている。現行と新型では使っているウレタンの硬さが手で触るだけで硬さが異なっていることがわかるほどで、厚さも30mm厚くなっているという。もちろんフレームの変更ができているので、こうしたスポンジの変更も可能にしているのだ。
 

AUTO PROVE
シートは面構成することで骨盤をさせる新設計。ウレタンもソフトは低反発系を採用している(画像=AUTO PROVE)

新型フレームは、面構造のフレームが人の骨盤を支えるようにしてあり、長時間でも疲れないシートを実現している。またリヤシートも従来通りダイブダウン、チップアップという使い勝手を活かしながら、座面のパッド厚をあげることができており、アコードクラスのソファ的な座り心地のよいシートに仕上げている。

細部をチューニングしたサスペンション

サスペンション形式でフロントはストラットでリヤはトーションビーム構造。ボディ剛性を上げることができたため、サスペンションも動くアシとして設計をし直している。冒頭書いたようにフランス車を研究したというように、比較的ロールはあるほうだ。とはいえ高速走行での安定感はしっかりある仕上がりになっていた。

動くアシとは、入力のいなし方を工夫していることだ。シビックではすでに採用しているが、コンパクトカーには初採用の入力分離タイプのダンパーをクラス初採用している。
 

AUTO PROVE
リヤダンパー取り付け方法を2点留めに変更し、入力分離タイプの構造を採用した(画像=AUTO PROVE)

従来、リヤサスペンションで小さい入力はダンパーで減衰したものを、ラバーを通してボディに伝えていたが、ラバーをしめあげてしまうので、フリクションとして感じてしまい、美味しいところが使えていなかったという。それをボディ構造の一部を変えて、ダンパートップを2点締めに変え、アルミの分厚いブラケットを使って剛性を上げる方法に変更している。そうしたことで、ラバーを締め上げることなくきちんと減衰させることができたということだ。

こうした変更はボディ剛性が高まったことから可能となったことで、その結果、フロントも従来スプリングのフリクションが高かったというが、そこも今回動かせるようになったという。

フロントのスプリング配置をオフセットさせたレイアウトにすることで、横力の影響を受けずに縦方向の減衰がきちんとできるようになったという。またスタビライザーのブッシュにも工夫を凝らし、横ずれ防止のブッシュストッパー構造として、ロワアームブッシュのヒスを防ぐためにカラーを追加し、しなやかさを作り出すといった細かなチューニングが行なわれている。

装着するタイヤは15インチと16インチがあるが、15インチは転がり抵抗を重視した仕様で、上記の乗り心地への配慮や工夫をした効果を感じるのは16インチのほうだと説明されたが、こうしたあたりは、実際の公道で走行してみないと評価できない。次回は公道試乗レポートをお伝えしよう。

提供元・AUTO PROVE

【関連記事】
メルセデス・ベンツ GLE400d 4MATIC スポーツ 【試乗記】(9速AT/4WD)
【待望】ジープ 「ラングラー・ルビコン」2ドア・ショートホイールベースの限定車
レクサスLS 2019年次改良モデル より高みを目指して【試乗記】
日産 GT-R 2020年モデル 変更ポイント詳細解説
そそられるBMW「駆けぬける歓び」を深掘り