米国ではFacebookの個人情報の漏えい問題が起こり国内でも話題となった。これとは対象的に保有金融資産100万ドル以上を顧客に持つ「プライベート・バンカー」の顧客情報の管理に対する感覚は非常に高い。

顧客情報が語られない、プライベート・バンクの「フルフラット的組織」とは?

私が過去在籍した金融機関では定例的に営業の会議が行われ、営業員ごとに売上見込みの確度とともに顧客の資産状況等が会議の参加者に共有されていた。役職者の仕事は部下のマネジメント、計数管理が職務とされているから仕方ないことだろう。

一方、プライベート・バンキングを展開している組織の中には、フルフラット的な組織を展開しているケースもある。マネジメント階層は組織図上では上司ということになるが、実質はバンカーが働きやすい職場運営を追求する。そして顧客想いのバンカーは、自らの顧客の名前が公に語られることを嫌う。

富裕層顧客は企業に魅力を感じて取引している場合だけでなく、「プライベート・バンカー」との取引を目的としている場合もある。「金融機関」の看板に顧客が魅力を感じているよりも、転勤、担当替えのない金融の執事、「プライベート・バンカー」との取引を望んでいるケースをイメージするとわかりやすいだろう。富裕層顧客は「金融執事」との取引重視をしている結果、バンカーが転職や独立した時にバンカーに付いていく場合があるということだ。

見込み先の計数管理は営業が複数出席する「営業会議」形式ではなく、「マンツーマン」で行われる。自分の顧客情報が語られることを嫌悪するプライベート・バンカーにマネジメントが配慮をしているのだ。

バンカーも職務として「マネジメント階層」を選択せず、顧客とのリレーションの継続のために「バンカー」としての職務にこだわるケースも多い。バンカーがマネジメント層と同様の重要な扱いを受ける理由がここにあるのだ。

著名人ほど個人情報の管理体制を重要視する

ある芸能人が賃貸マンションを探すにあたり、「このマンションには芸能人は住んでいますか」と聞くという。その不動産業者が誇らしげに「○○さんが住んでいます」という発言をした場合には、その業者とは取引をしないという。

その理由は、自分がそのマンションに住んだ時にはその業者が「私が芸能人○○にこの物件を紹介して、今住んでいる」という営業トークに使われてしまうからだ。芸能人や著名人の顧客情報を使って営業トークを用いる者には、あなたの情報も営業トークに使われると考えたほうが無難であろう。

「有名人」「著名人」の情報を明かすような行為を本当のプライベート・バンカーや、金融の執事は行わないと筆者は考えている。文章やSNSでそれとわかるような表現はしない。

隣の担当者が誰を担当しているか明かさない守秘義務、イニシャルを使用

欧州系のプライベート・バンキングに勤務していた時に、隣のバンカーが担当している顧客の名前をフルネームで語ることは無かった。同僚と親しくなったとしても、夜の宴席でもお互いに顧客の名前を語ることは無かった。

ある時に日系企業から転職してきた「営業員」が顧客名を誇らしく語り、「○○が客で」との話題がのぼったことがある。お客様を「客」と呼ぶ姿勢にも違和感を感じたが、情報管理の重要性に気付いていない営業員だとの印象を持った。

最近自らをプライベート・バンカーと名乗る者が、海外の保険を紹介する文章を見かけるが、こういった事例は無登録の脱法行為の可能性が高い。著名人で海外移住している事例を引き合いにしており、海外の優位性を強調している。引き合いに出された著名人が喜んでいないであろうこと、その著名人が実際は顧客でないであろうことは想像できる。「プライベート・バンカー」を語るイメージ戦略・営業戦略なのであろう。その事例では富裕層の運用が保険とレバレッジを採用しているかのような文章であるが、富裕層の運用がこのような形ばかりでないことを断言しておく。

具体的な事例紹介は割愛するが、過去に無登録で募集を行う脱法行為などで、関東財務局から業務停止処分・行政処分を受けた事例は同局のHPからも確認できる。投資家はトラブルに巻き込まれないように注意して欲しい。

筆者が以前、欧州系のプライベート・バンクに勤務していた時には著名人、有名人の顧客からの電話を取次ぐ際には、名字では無くイニシャルで取り次ぎをするルールをアシスタントやパートナーと共有していた。真のプライベート・バンカー、金融執事であろうとする者は顧客情報にも細心の注意を払っている。

文・安東隆司(あんどう・りゅうじ)/ZUU online

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