「スマホやテレビ、パソコンなどテクノロジー機器が常に手放せない」状態だけではなく、インターネットを介して特定の活動(ゲーム、賭博、SNSなど)に固執する傾向も指すテクノロジー依存症。これがテクノロジー依存症が原因で「年間540億ドル相当の生産力が失われている」という調査報告も聞かれる中、GoogleやFacebook、Mozillaの元社員が「Center for Humane Technology 」という団体を立ち上げ、「テクノロジー依存症」に警告を発するキャンペーンを始めた。

インターネットやテクノロジーから子どもや家族を保護することを目的とする非営利団体「コモン・センス・メディア」と提携し、「中毒性のある侵入的な商品やサービスの開発・販売」を大手IT企業などに再考、再設計させるよう訴えかけている。

若い層を中心に広がる「デジタル依存症」とは?

GFKが2017年6月に発表した報告書 では、世界17カ国・地域2.2万人の消費者(15歳以上)の34%が、「デジタル機器を利用してはいけないと分かっている時でも、実行するのは難しい」と回答。「難しくない」という回答者(16%)の2倍以上だ。

こうした依存傾向は若年層に多く見られ、60歳以上が15%であるのに対し、15~19歳は44%、20~29歳は41%にものぼる。

具体的にはどのような状態が依存症と見なされるのか。「平均よりゲームが好きなだけ、スマホやパソコンをさわっている時間が長いだけ」という域を超え、「ゲームをしていないと落ち着かない」「人と会っていてもメールやSNSを常にチェックしている」など、社会とのコミュニケーションや日常的なタスクをデジタルデバイスで遮断している状態だ。 逆にインターネットやゲームに接する時間が長くても、社会とのコミュニケーションに積極的で、日常生活に支障をきたしていないのであれば―つまり自分の意思でデジタルを遮断できるのであれば、依存症ではないと判断される。

過剰なデジタル生活は「脳の構造自体を変化させる」?

ノースカロライナ州立大学のクリスティン・グレゴリー博士 いわく、テクノロジー依存症の原因は解明されていない。薬物やアルコールの使用によって脳内に分泌される「ドパミン」という神経伝達物質が、テクノロジー依存症の脳内でも分泌されているとの説が、様々な調査の中では最も説得力がある。またある調査からは、「脳の構造自体を変化させている」ことも報告されている。

テクノロジーに依存する状態が続くと、やがて精神的・肉体的な支障がでてくるという。そう鬱、不誠実感、罪悪感、孤独感、恐怖感といったネガティブな感情が強まり、不眠症や片頭痛など肉体的な問題に悩まされるそうだ。(PSYCOM2017年12月4日付記事 )。

これの症状が進めば、日常生活に支障をきたすのはいうまでもない。ランキングサイト「Vault.com」は、「テクノロジー依存症によって年間540億ドル相当の生産力が失われている」と見積もっている(CNBC2017年8月29日付記事 )。また世界保健機構が2018年1月 、ビデオゲームがやめられない症状を「国際疾病分類」と見なすとの発表を行ったほか、米国立衛生研究所が初めて、コネチカット医学大学部による「インターネット中毒に関する調査」に資金を提供するなど、事態の深刻さにようやく世界が気付いたものと思われる。

「テクノロジーを人類の最善の利益にために調節する」

想像以上に社会をむしばむテクノロジー依存症については、大人はもちろん、子どもへの影響も懸念されている。1歳にもならない乳児にがまでスマホやタブレットで動画を見せていること親も珍しくない近年、これらの商品・サービスを提供しているIT企業に社会的責任を呼びかけると同時に、消費者がテクノロジーの過剰な侵入を認識し、管理することも重要となる。

「人道にかなったテクノロジー」の確立を目指すCenter for Humane Technologyが、キャンペーン活動によって達成しようとしているのは「消費者の注意がデジタルに偏る状態をくつがえし、テクノロジーを人類の最善の利益にために調節する」ことだ。

ウェブサイトには、「人間社会はテクノロジーにハイジャックされている」 という強いメッセージが掲載されている。しかしそれは決して大げさな表現ではないだろう。

立ち上げメンバー はGoogleのデザイン倫理学者だったトリスティン・ハリス氏やMozillaのユーザー経験部門責任者アザ・ラスキン氏、Facebookの立ち上げに携わったロジャー・マクナミー氏、NVIDIAでアワードを受賞した数々のプロジェクトを手掛けたランディマ・フェルナンド氏など、IT産業の強者ぞろいだ。

テクノロジーに潜む危険性に詳しいこれらの専門家は、中毒性がおよぼす社会影響に警告を発している。一例を挙げるとマクナミー氏は2016年頃から、「Facebookが潜在的な影響の要因であることに対し、いかに無責任であるか」について懸念を強めていたという。

テクノロジー依存症の危険性を訴えかける声に、IT企業がどこまで応答するかは分からない。これらの企業にとっては、中毒性の制限は利益減少の原因となりかねない。しかし消費者が潜在的な中毒性を認識し、防止に必要な、あるいは回復に必要な知識を身につけるだけでも、なにかが少しづつ改善されていくかも知れない。

コモン・センス・メディアのジェームズ・ステアーCEOは、活動の目的は「反テクノロジー」ではなく、あくまで「適切でバランスのとれたテクノロジーの利用促進」であると述べている。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online

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