地方の活性化を妨げるのが、人口の減少の問題です。全国に点在するニュータウンもその影響を受けています。急増する住宅需要に応えるために建設され、一時は人気を博した新しいまちが、若い世代の流出などで活気を失い、「オールドタウン化」しているんです。

でも、自治体や住民が力を合わせ、人が住める魅力的な環境をつくろうという前向きな動きも見られ、若返りを果たしたケースもあります。

このコラムでは、
 

・ニュータウンとは何か
・ニュータウンがオールドタウンになってしまう理由
・再生に向けた具体的な取り組み

についてご紹介します。

そもそも、ニュータウンってどんなまち?

ニュータウンはざっくり言うと、「たくさんの住民を受け入れるため、郊外につくられたまち」のことです。2018年度時点で、全国に約2000箇所のニュータウンがあります。

国土交通省のホームページには、

「1955年度以降に着手された事業」
「計画戸数1000戸以上または計画人口3000人以上の増加を計画した事業のうち、地区面積16ha以上であるもの」
「郊外での開発事業」

と定義されています。

「3000人以上の増加を計画」の言葉からも、相当な規模であることがわかりますね。

中でも有名なのが、東京都にある「多摩ニュータウン」、大阪府にある「千里ニュータウン」、愛知県にある「高蔵寺ニュータウン」です。これらは日本三大ニュータウンと呼ばれています。

住民の高齢化や若者の流出でオールドタウンに…。

ニュータウンは、なぜオールドタウンになってしまうのでしょうか?大きな原因は、「住民の高齢化」と「建物の老朽化」です。

ニュータウンには、開発と入居が一斉に行われるという特徴があります。つまり、住民と建物が一緒に年齢を重ねていってしまうわけです。

「子ども世代が住み続ければ問題ないじゃないか」と思うかもしれませんが、親世代と子ども世代とでは人生観もライフスタイルも違います。親と同居するよりも核家族化が進んでいます。それに、一緒に住もうとしてもひと世代前の間取りでは狭いケースがあります。

また、ニュータウンは郊外にある特性上、都心へのアクセスがよくありません。共働き世帯が多くを占める中、近くに保育施設がなかったり、距離があったりするのも魅力的ではありませんね。

このように若者が流出して、高齢者が残ることになります。立地が悪く新たな入居が見込めないと判断し、開発する動きが弱いのです。

オールドタウン化は都心でも深刻です。大阪府の千里ニュータウンでは、65歳以上の高齢者の比率は21.0%と、大阪府全体の15.7%を上回りました。愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンでは、賃貸住宅の空き家が増えたほか、高齢化率は約30%に上りました。

大都市にあるニュータウンでも、高齢化や人口減少の影響を強く受けています。

昔ながらの団地を高層マンションに建て替える

では、まちの人気を高めるためにどのような取り組みをしているのでしょうか。まず、三大ニュータウンのケースから見ていきます。

多摩ニュータウンでは、最も高齢化が進んでいるエリアで、5階建て23棟(640戸)の低層団地を、11階・14階建て7棟(1249戸)の高層マンションに建て替えました。これによって、街並みを一変させたわけです。

さらに車道と歩道を完全に分け、歩行者用の道を多数つくり、安全性を確保しました。緑も取り入れ、ジョギングや子育てにいいと、若い世代の呼び込みに成功しています。

ほかにも、無印良品とURと力を合わせ、若い世代をターゲットに団地をリノベーションする動きもあります。

千里ニュータウンの魅力は、梅田駅まで地下鉄で約20分で行ける抜群の立地です。そのメリットを生かして、高層マンションを建設。若い世代の入居が進み、ニュータウン全体が若返りました。住みたいまちランキング(2019年、関西)では、10位にランクインしています。

高蔵寺ニュータウンでは、URが空き室の改修を手がけて、若い世代への家賃優遇策を打ち出しています。ニュータウンがある愛知県春日井市と住民が連携して、まちづくり会社をつくり、再生に向けて動き始めています。

行政と住民が協力、リノベや工夫でまちに活気を

独自のアプローチをして、まちの活気を呈したニュータウンを2つご紹介します。ひとつめは、大阪府にある「泉北ニュータウン」です。

ここでは、行政と大阪府住宅公社が協力して、以下のような取り組みを行なっています。

ニコイチ

2戸を1戸につなげて90平米の広さにリノベーション。高い人気を得て、2017年には、グッドデザイン賞を受賞しました。ニュータウン内で最初に住宅を供給した団地では、広さ45平米の住戸がメインでした。これを2つ合わせ、広さを確保しようというアイデアです。
 

また、リノベ45という取り組みも。単身世帯や若年夫婦に向けて、45平米の広々としたワンルームを持つ住居にリノベーションしました。

このほか、住民同士で話し合い、集会所を新たなコミュニティスペースとして改修する「みんなの集会所づくりプロジェクト」も。行政と住民が協同して再生に取り組んでいます。

行政も積極的です。ニュータウンを有する大阪府堺市は、一定の条件を満たした子育て世帯で月額2万円の家賃補助を最長で5年間行う、「住まいアシスト補助(家賃補助)」を実施しています。

戸建物件のリノベーションを呼びかけたり、補助金を交付したりする動きのほか、ニュータウンに住む女性やシニアの起業支援も実施。

共働き世帯が増えているので、大阪中心部への通勤は大きな負担です。起業して職住近接の暮らしを実現してもらおう、という取り組みです。さらに、近畿大学医学部がニュータウンへ移転することが決まっていて、2020年以降に着工する見込みです。

まちに電車を走らせ、住民の移動を楽にする

ふたつめは、千葉県佐倉市にある「ユーカリが丘ニュータウン」です。開発したのは、不動産会社の山万という会社です。

他のニュータウンと違うのは、開発を一時期に集中させず、時期をずらして行なっている点です。あるエリアで先に入居を始め、その住民が高齢化した時には、受け皿となる施設をニュータウン内の別のエリアにつくる。空いた住居はリノベや建て替えをし、新たな入居ニーズにこたえる、というサイクルを持たせています。

まちには、認可保育所や子育て支援施設もつくり、利便性を向上。2011~2015年で9歳までの子どもの数は約600人増え、高齢化率は全国平均よりも低いんです。

また、ニュータウン内の交通利便性を高めるため、ユーカリが丘線を走らせて、どこに住んでいても好アクセスを住民に提供しています。都心へは1時間ほどかかるものの、住民の満足度は高いニュータウンです。2018年には、まちづくりのグッドデザイン賞を受賞しています。

ニュータウンで快適な暮らしができる

ニュータウンがオールドタウン化してしまう理由や、再生に向けた対策をご紹介しました。

単に住居を用意するだけでなく、現代のライフスタイルにマッチした住まいや環境を整えることで、入居を促しています。制度面でも、金銭的な心配がある若年層に家賃補助するなど、ニュータウンでの暮らしをサポートする施策も合わせて行っています。

ニュータウンに住む大きなメリットは、コミュニティーが形成しやすいこと。子育て世帯どうしが集まれば、お互いを助け合ったり、会話が生まれやすかったりしますよね。歴史あるまちであれば、違った年代の住民と触れ合うことができます。

交通利便性についても、テレワークなどで通勤の必要性がなくなっていけば、暮らしの支障になりにくくなります。家族や地域との時間をたくさん持ちながら、快適な生活が送れますね!

文・Yuichi Sonobe/提供・Fledge

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