退職金制度は企業により千差万別だ。金額の決め方や支給方法などの違い、また確定拠出年金や確定給付企業年金、厚生年金基金導入の有無が、退職金制度の多様性を広げているためだ。その全体像を整理すれば、確定拠出年金への理解はより深まる。

退職金制度の仕組み 企業に支払いの義務はない

まず退職金とは、一定の年齢に達した従業員に支給する金銭だ。従業員の老後生活の保障を1つの目的としている。一時金と年金の形で支払われるが、支給形式は最初から2つあったわけではない。

退職金はもともと、退職時に金銭を一括して一時金という形で支払われていた。しかし時代の変化により、退職金を分割し、利息分を足して定期的に支払う退職年金という考え方が登場したのである。やがて退職年金は企業年金として国によって制度化されていった。ちなみに企業年金の基本は年金形式での給付だが、一時金の形で受け取ることも可能だ。

なお退職金は法律で絶対に支払うよう義務づけられているわけではない。就業規則や退職金規定に退職金についての定めがある場合、企業側に支払う必要が生じるものである。

多くの企業は就業規則などによって退職一時金制度を定め、同時に退職年金制度として国が整備した企業年金を導入し、併用している。企業によってはどちらか一方のみを設けていたり、自社独自の退職年金制度を構築している場合もある。

企業年金の構造と加入対象者

代表的な企業年金には確定給付企業年金、厚生年金基金、確定拠出年金がある。

確定給付企業年金は主に規約型と基金型に分かれている。規約型は企業側と従業員が合意した規約に基づいて企業側が保険会社などと契約を結び、積立金を運用するタイプだ。基金型は企業とは別に企業年金基金を設立し、その基金で積立金を管理、運用するタイプである。

厚生年金基金は基金型確定給付企業年金と似て、単独または複数の企業が設立した基金にて積立金を管理、運用する。確定給付企業年金と厚生年金基金の場合、それを実施する企業で働く従業員は、要件を満たしていれば原則加入することになる。

そして確定拠出年金には個人型と企業型がある。それぞれの運営主体は個人型だと国民年金基金連合会、企業型だと制度を導入した各企業だ。

加入対象となる人は個人型と企業型で異なっており、個人型は国民年金保険料免除者など一部を除き、日本在住の20歳以上60歳未満ならどのような立場の人でも基本的に加入できる。例えば自営業者やフリーランス、また会社員、公務員などだ。企業型はその企業の従業員でなければ入れない。

どの企業年金も掛金を積み立てて、運用し、それを将来の給付に充てるという仕組みは共通である。だが誰がどうその仕組みに関わるかという点において、制度による違いがある。

各年金で掛金はどう違うか

掛金で違いがみられるのは、誰が掛金をどれぐらい支払うのかという点においてである。

確定給付企業年金と厚生年金基金、企業型確定拠出年金では、掛金は会社側が負担する。基本的に従業員側が企業年金に対する掛金を追加で支払う必要はない。だが、規約に定めがある時など、場合によっては加入者も追加で掛金を支払える。一方、個人型確定拠出年金では加入者自身が掛金を払う。

そして支払う金額についても、その決まり方に違いがある。確定給付企業年金と厚生年金基金の場合、掛金額は給与の一定割合などのルールのもとで決まり、金額自体にかかる制限はない。しかし確定拠出年金には、企業型と個人型どちらにも金額の上限があり、その範囲で掛金額は決まる。

例えば企業型であれば、他の年金に加入しているかどうかで上限額は変わる。加入していると、その上限額は加入していない場合より低くなる。

個人型だと加入する人の立場が上限額に影響する。上限額が最も高いのは自営業者やフリーランスといった立場の人たちだ。会社員は個人型でも企業型と同様に、他の年金に加入しているかどうかによって上限額が変わる。

各年金で運用方法はどう違うか

運用方法における違いは、誰が運用するのかという点にある。

確定給付企業年金と厚生年金基金では主に企業が設立した基金や委託を受けた組織が運用を行う。だが確定拠出年金では個人型、企業型ともに加入者自身が運用する。つまり運用リスクは利用者自身が負うことになる。この運用方法の違いは制度間における大きな違いだ。

確定給付企業年金と厚生年金基金は将来加入者が受け取る給付額が加入期間などに基づいて予め決まっている。このことから、拠出する掛金額自体が決まっている確定拠出年金に対して、確定給付型と呼ばれている。

確定給付型だと加入者にとっては老後の生活設計がしやすいが、企業側にとって給付額が決まっているということはデメリットにもなる。運用の失敗などで積立金不足が生じた場合、企業側が追加で掛金を支払わなければならないからだ。

このようなデメリットにより、確定給付型の企業年金は運営状態が厳しくなった。そうした背景もあって新たに設けられた確定拠出年金では、そのデメリットが利用者自身に及ぶ。

確定給付型と比較して確定拠出型と呼ばれる確定拠出年金では、給付額は運用の成果次第で決まる。つまり確定拠出年金制度の利用者は、運用の仕方によっては給付額を増やすこともできるが、運用に失敗すれば逆に給付額は減ってしまうのである。

例えば定期預金や保険といった元本確保型か、投資信託といった元本変動型が運用結果は変わってくる。元本確保型なら安全性は高いが見込める利益が少ない。元本変動型だと多くの利益を得られる可能性はあるが、その分マイナスになる可能性も高い。

さらに運用商品を複数選ぶなら、掛金をどの商品にどの程度配分するか、といったことも決める必要がある。こうした運用全般について、利用者自身が責任をもたなくてはならない。

給付の種類と金額の決定方法

各制度から受けられる給付は、いずれも原則60歳以降に受け取れる老齢給付金が基本だ。給付金は年金か一時金、もしくはそれらを組み合わせた形で受け取れる。

給付の基本となる老齢給付金の金額は、確定給付型か確定拠出型かでまず異なる。確定給付型なら各企業が定めたルールのもとで給付額は決定され、確定拠出型であれば給付額はその運用成績で決まる。

そのほかの給付には、遺族給付金(死亡一時金)、障害給付金、脱退一時金がある。遺族給付金は加入者など死亡した時に遺族に支払われる給付、障害給付金は障害を負ってしまった時に支給される給付だ。脱退一時金は短期間で制度から脱退する時に支払われる給付である。それぞれ定められた要件を満たした場合に受け取れる。

確定給付型の企業年金の場合、遺族給付金、障害給付金は任意であり、設定しているかどうかは企業による。ただ障害給付金を設けているケースは少ない。確定拠出年金においてはどの給付も設けられているが、脱退一時金の要件は厳しく、受給は難しい。

退職金額の決定方法

退職金額の主な決定方法としては、基本給連動方式、定額方式、ポイント制方式、別テーブル方式がある。基本給連動方式は算定の基礎となる給与額に勤続年数に応じた一定の支給率を掛けて計算する、いわば年功型の方法だ。基礎とする給与額は加入期間の平均額であったり退職時の給与額であったりと、企業によって異なる。

一方、定額方式、ポイント方式、別テーブル方式は、基本給および勤続年数と退職金額が直接関係しないような仕組みになっている。

定額方式は給与額に関係なく、予め退職金の支給額を定額として決めておくやり方だ。ポイント方式では勤続年数や職能、役職などの評価要素をポイント化し、その累積ポイントに1ポイントあたりの単価を掛けて算出する。別テーブル方式は、給与体系とは別の体系に則って退職金を算出する方法である。

各企業は基本的にそういった金額の決定方法、支給要件や支払い時期などを勘案し、自企業に合った制度を設計している。

実際の退職金額はどうなるか

実際に確定拠出年金と他の制度を比べると、計算方法と金額はどうなるだろうか。個人型の確定拠出年金に加入する会社員A氏と、基本給連動方式を採る退職一時金制度の対象者である会社員B氏のケースを比較する。A氏とB氏の制度加入期間はともに30年間とする。

A氏の会社には企業年金がなく、加入しているのは個人型確定拠出年金のみである。この場合、毎月拠出できる掛金額の上限は2万3000円だ。

A氏はその上限額を毎月、30年間、運用利率1%で運用したとする。そうなると積み立てた掛金総額は828万円、運用益は137万1,449円で、合計額は965万1,449円だ。これが退職金の原資となる。

B氏に適用される基本給連動方式は、退職時の給与額に勤続年数に応じた乗率を掛けて金額を決めているとする。B氏の退職時の基本給は60万円、勤続年数は30年で、この勤続年数に応じた支給率は15.0と定められている状態だ(厚生年金)。

この場合、退職金として受け取れるのは60万円に15.0を掛けた額、900万円になる。

文・MONEY TIMES 編集部

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