「相対株価」をご存知だろうか。日経平均と比較して相対的に「その株価」がどう動いたのかを見る方法で、ファンドマネージャーには一般的な手法である。たとえば過去10年、5年、3年における不動産セクター指数の「相対株価」は日経平均を下回っていたが、過去1年、半年では日経平均とほぼ同じ、そして直近3カ月は日経平均を5%ほど上回り始めている。筆者はその背景に「地価の上昇」があると考えている。

「株価は経済の鏡」とも言われるが、不動産セクターも同じである。中でも住友不動産 <8830> は地価やマンション動向に対する感応度が高く、「不動産市場の鏡」とも呼べる銘柄だ。果たして、その鏡は不動産市場のどんな未来像を映し出すのだろうか。

地方圏の地価が26年ぶり上昇

3月27日、国土交通省発表の2018年1月1日時点の全国の公示地価は前年比0.7%の上昇となった。インバウンド増によるホテルや商業施設需要の増加が地価を刺激した結果、商業地の上昇が1.9%と住宅地の0.3%を上回った。東京圏は1.7%の上昇で三大都市圏(1.5%の上昇)を牽引している。このほか、特筆すべきは地方圏が0.041%の上昇と小幅ながら「26年ぶりの上昇」となったことだ。とりわけ、地方の中核4市(札幌、仙台、広島、福岡)は4.6%の上昇と三大都市圏の上昇をも大きく上回っている。

また、日銀短観によると、2017年12月時点の不動産業のDIは大企業で33%ポイントと全産業の14%、非製造業の18%を大きく上回った。先行きDIに関しても27%ポイントと全産業の13%、非製造業の16%を上回っている。中小企業の不動産業DIも13%ポイントと全産業の2%、非製造業の2%を上回っており、不動産業の景況感の高さが際立っている。

ちなみに、中小企業の不動産業DIは9月比では5%ポイント改善している。地方の不動産市況、貸家建設需要を反映しているのだろう。ただし、大企業の不動産業DIは2%ポイント低下しているほか、先行きDIも現況より低下している。これはマンション販売戸数や契約率の低下を反映していると考えられる。今後のDIがどちらに向かうか気になるところであるが、まずは4月3日発表の3月時点の短観が注目されよう。

住友不動産は過去最高益の見込み

ところで、バブル崩壊後の日本経済は長きにわたりデフレに悩まされてきたが、そうした状況下でも不動産大手はタワーマンションや都市再開発などで業績を伸ばしてきた経緯がある。住友不動産も例外ではなく、リーマンショック時には減益となったが、2010年3月期以降は営業増益を続け、2018年3月期の営業利益は7.9%増の2030億円と8期連続の増益になるとともに過去最高益を更新する見込みだ。

2月21日に不動産経済研究所が発表した、2017年の全国マンション市場動向では、全国年間販売戸数は0.5%増の7万7363戸と4年ぶりに増加している。平均単価は4739万円と前年比3.9%アップで過去最高を更新、販売総額は3兆6660億円と前年比4.4%増となった。なお、2018年の発売は1.5%増の7万8500戸となる見通しである。

ちなみに、2017年の事業体別供給戸数の首位が住友不動産の7177戸だ。2位が近畿圏に強いプレサンスコーポレーション <3254> の5267戸、3位が野村不動産ホールディングス <3231> の5158戸、4位が三井不動産 <8801> の3787戸、5位が三菱地所 <8802> の3101戸だった。住友不動産はここ数年マンションの年間トッププロバイダーとしての位置を不動にしている。

不動産市場の2つの「2019年問題」とは?

一見して絶好調に見える不動産・マンション業界であるが、懸念材料がないわけではない。その一つが「2019年問題」だ。

「2019年問題」には2つの懸念がある。一つは日本の世帯数が2019年をピークに減少に転じるというものであった。2013年1月、国立社会保障・人口問題研究所は『日本の世帯数の将来推計』で世帯総数が2019年をピークに減少に転じるとの見解を示していた。日本の人口は2008年をピークに減少に転じているのであるが、2019年には世帯総数もピークアウトするとの見立てだった。世帯数が減少すれば当然、空き屋が増えてくる。これが「2019年問題」の懸念材料の一つとされていた。

もっとも、今年1月に見直された同調査では「2023年の5419世帯でピークアウトする」との推計に変更している。背景には一人世帯の増加があり、ひとまずこの問題は先送りされた形となっている。

中国富裕層の「爆売り懸念」も

問題はもう一つの「2019年問題」だ。それはタワーマンションの「爆売り懸念」である。これまでマンション業界の好調を支えていたのはタワーマンションだった。タワーマンションの上層階はプレミアムがつくほどの人気があるのに、不動産評価としては上層階も下層階も一緒だったため「節税対策」として人気化した。ところが、2017年度の税制改革で見直されたことにより、節税対策の仮需は見込みづらくなっている。

節税対策とともに人気を支えたのが、中国富裕層を中心とする「爆買い」である。チャイナマネーが首都圏のタワーマンション及び首都圏・地方都市の商業地価の上昇を支えた側面がある。

中国では2008年の北京五輪前に不動産ブームが発生したが、そのタイミングで中国の富裕層は資金を大きく増やしたという。その資金の一部が東京五輪を決定した日本に回ったと考えられる。

中国富裕層がタワーマンションを「爆買い」したのが2013年~2014年。つまり、今年から来年にかけて爆買いから5年が経過することになる。居住用不動産の売却時の税金は5年以下の保有だと39.630%なのだが、5年以上は20.325%となる。このタイミングで爆売りがでるかもしれないとの懸念が、もう一つの「2019年問題」だ。

冒頭でも述べた通り、「株価は経済の鏡」とも呼ばれるが、同時に「株価は実態経済に先行する」側面もある。住友不動産の株価はどのような「不動産市場の未来像」を映し出すのだろうか、注意深く見守りたい。

文・ZUU online編集部

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