主に大企業社員を対象にした健康保険料率の2019年度平均が、9.218%と過去最高に達した。日本では良質な医療を低コストで受けられるが、医療費増加で医療保険制度の存続を危ぶむ声もある。制度を維持し続けるために、私たちができることは何だろうか。

医療保険制度の仕組み

日本の平均寿命は、世界でもトップクラスだ。それを実現しているのが、国民皆保険制度である。国民は原則全員が公的医療保険に加入し、医療費の1~3割(患者負担)を支払うだけで医療を受けられる。

この医療保険は、会社員が加入する被用者保険(職域保険)、自営業者などが加入する国民健康保険(地域保健)、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度に分けられる。いずれに加入していても、質の高い医療を安い医療費で受けられる。世界的にも優れた制度であるが、医療保険制度を支える財源は毎年増え続けている。

医療保険制度の問題を放置すると現役世代に負担がかかる

日本の医療費は、毎年1兆円を超えるペースで増え続けている。その主な原因は、少子高齢化だ。医療機関にかかりやすい高齢者が急速に増えており、医療費全体の約6割を高齢者が使っている状況だ。さらに、現役世代の少子化によってますます財源が厳しくなるというダブルパンチに見舞われている。

高齢者医療の財源には、現役世代の保険料のおよそ半分近くが回されており、医療費の増加とともに健康保険料は年々引き上げられてきた。それでも医療費の増加に追いつかず、主に大企業社員が加入する健康保険組合の60%超が赤字になるなど、待ったなしの状態だ。

健康保険料の負担増加は、給料にも影響する。毎月の給料から天引きされる健康保険料が増加すれば、給料が多少上がっても手取りは増えないということも起こり得る。健康保険料のおよそ半分を事業主が負担しているため、企業も社員の給料を上げにくくなる。

このまま医療保険制度の問題が放置されると、現役世代に重い負担がのしかかってくることになる。

医療保険制度を維持するためにできる4つのこと

医療保険制度を将来にわたって維持するためには、制度自体の改善が必要であることは言うまでもない。しかし、それには様々な審議や法改正をしなければならず、すぐに改善を望むのは難しいだろう。制度変更以外にできることとして、私たちの意識や行動を変えることも必要だろう。

はしご受診やコンビニ受診を避ける

はしご受診は、同じ病気で複数の医療機関にかかることだ。別の医療機関で同じ検査を受けたり、同じ薬をもらったりすると医療費が無駄になる。よほど心配な症状なら別の医療機関を受診しても問題ないが、通院している医師に紹介状を書いてもらってから行くほうが効率的だろう。

時間外や休日に受診するコンビニ受診もおすすめできない。通常の診察時間以外の受診には割増料金もかかっているためだ。受診に迷ったら電話で症状などを医療機関に伝えて、判断を仰いでもらうのがいいだろう。

ジェネリック医薬品を希望する

新薬には、他の医薬品メーカーが真似できないように特許が申請されている。特許が切れた後に同じ有効成分で作られ、同等の効能や安全性が確認された医薬品をジェネリック医薬品という。ジェネリック医薬品には研究開発の過程がなく、新薬と比べて5割以上安くいものもある。薬代を大幅に抑えることもできるため、医師や薬剤師に希望してみよう。

タバコをやめる

タバコが健康に悪影響を及ぼすことは、誰もが知っているはずだ。禁煙すると健康にプラスになるだけでなく、大金を節約することもできる。

1箱450円のタバコを1日で吸う人が禁煙すると、10年間で約165万円、30年間で約500万円節約できる。禁煙は、タバコ代だけでなく医療費を抑えることにもつながる。禁煙期間が5年未満の人より10年以上の人のほうが、年間医療費は8万円以上も下がることがわかっている。

セルフメディケーションを意識する

セルフメディケーションとは、自分で病気やケガの予防・治療をすることだ。難しいことでなくても、適切な運動や食事、睡眠を心がけて健康を維持することも含まれる。軽い病気やケガなら、薬局やドラッグストアの医薬品で症状を改善させることもセルフメディケーションだ。薬剤師が常駐するドラッグストアも増えてきているため、薬の選び方などわからないことは気軽に相談してみよう。

スイッチOTCと呼ばれる対象医薬品の年間購入額が1万2,000円を超えるようなら、その分の所得税と住民税が軽減されるセルフメディケーション税制も利用できる。生計が同じなら家族の購入分も合算できるため、積極的に活用したい。ただし、従来の医療費控除との併用はできない。

医療保険制度の維持には一人ひとりの関心が必要

このまま医療費の増加が続けば、健康保険料はさらに上がっていく可能性もある。医療保険制度を維持できるようにするのは政府の責務だが、恩恵を受けている私たちも無関心ではいられない。一人ひとりの影響は小さいが、少しずつ意識や行動を変えて大きな流れにすることが必要だろう。

文・國村功志(資産形成FP)
 

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