(本記事は、横山光昭氏の著書『となりの家のざんねんなお金の話』=あさ出版、2019年4月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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貯めた頭金も運用でパー。住宅ローン控除の罠

「住宅ローン控除がお得」なんて嘘?

「住宅ローンは頭金を入れず、全額ローンにしたほうがお得だといわれたんです……」。最近、住宅を購入した人のなかに、こんなふうに頭を抱える人が見られるようになってきました。

これは「住宅ローン控除」という制度があるためです。簡単にいえば、年末のローン残高の1%分の金額を、年40万円を上限として10年間、所得税から控除してくれるというものです。

つまり、住宅ローン金利が1%であれば無利息で借りられることになりますし、金利0・7%などで借りることができれば、0・3%分の金額を得することができます。

こうした制度に目をつけ、利息がかからない状態で借りられるのだから、まとまった頭金を1%でも2%でも利息がつくような形で運用したほうがいいし、還付額が多くなるように「全額ローンで買ったほうがいい」と勧める記事なども目にします。

ところがです。全額ローンにしたことで毎月の返済負担が大きくなってしまい、家計が毎月赤字になってしまったという人が相次いでいるのです。

木村さん(39歳/男性)の場合……
「今、小学生の子どもが2人いるのですが、貯めていた教育資金までも減ってしまって……」

そいって家計相談に訪れたのは会社員の木村さん。

理由を尋ねてみると、まさに「住宅ローン控除が受けられるから、頭金を入れずに全額ローンで家を買ったほうがいいといわれて、その通りにしたんです」ということで、かなり落ち込んでいました。

木村さんは、マイホームの頭金として1100万円貯まったので、住宅の購入を決意しました。そのタイミングで、同僚から全額ローンを勧められ、「貯めた頭金は、別のもので運用して増やせばいいし、繰り上げ返済は控除期間が終わってからでいいんじゃないか」といわれたそうです。

そして、「無利息で借りることができて、10年間税金の還付を受けられる。しかもお金を借りるために必要だった資金を運用してさらに増やすことができる」と安易に考え、飛びついてしまったのです。

ですが、いざ全額ローンで家を購入したら、なぜか頭金として貯めていた貯蓄が徐々に減ってきていることに気がつきました。

「これはやばい」と、貯蓄性のある生命保険にまで、一括で700万円支払って加入してしまいました。しかも、これが外貨建て保険で、10年後にどうなっているかわからないものでした。

結局、その後、生活費が足りなくなってきたため、銀行口座に残していた400万円の教育資金に手を着けざるを得なくなってしまいました。

「貯蓄の一部を子どもの教育資金に当てたいと思っていましたし、控除期間が終了したら頑張って繰り上げ返済して、住宅ローンの早期完済を目指すつもりだったのに……」

木村さんは落胆の色を隠せません。

全額ローンで返済負担が膨らみ家計を圧迫

どうして、このようなことになったのでしょうか。実は、全額ローンにしたことで、毎月の返済負担が大きくなってしまい、その結果、家計が毎月赤字になってしまったというのが大きな原因です。

こうした家庭の多くは、そもそも生活費が収入の範囲内に収まっておらず、そうなるのも必然。なかでも多いのは、税金が還付される仕組みであることくらいは知っているものの、具体的な手続きに関しては、住宅を購入した年に確定申告することさえ忘れなければ、翌年からは年末調整で税金が還付されると思っているくらいの人たちです。

さらにいえば、「お金の計算は専門の人がしてくれ、自動的に還付されるのを待っていればいいんだろうなぁ」くらいに思っている人も少なくありません。そんな軽い気持ちで全額ローンなんて危なっかしくて仕方がありません。

繰り上げ返済か、生活費を圧縮し返済額を減らす

このような状況に陥ってしまった木村さんが今後とれる対策は、控除による還付額を減らすことを覚悟したうえで、繰り上げ返済をして毎月の返済額を軽減させるか、住宅ローン返済はそのままにして生活費を圧縮するしかありません。

ただ、私は住宅ローンの繰り上げ返済をする際、返済額を軽減するのはお勧めしません。なぜなら、よっぽどの金額でないと月々の返済額はダイナミックには減らないからです。

さらに、木村さんのようにローンを返済しはじめてそれほど年月が経っていない人は、期間短縮の繰り上げ返済をしたほうが、10年、20年経ってからやるよりも、多くの期間を短縮でき、返済額も減るというメリットもあります。

そもそも住宅ローンを早期に返済したかった木村さんは、奥さんに状況を話して生活費を圧縮することにしました。もちろん、子どもたちにも事情を話し、協力をしてもらうようお願いしました。

貯蓄は今以上に減らさない、可能であれば少しずつ増やしていくことを目標に努力しているようです。
 
このように、他人がいいといったものをきちんと理解せず、簡単に信用してしまうのは失敗の元です。

実際に行動に移すなら、メリットだけでなく、リスクもしっかり見据えて取り組まなければ、大失敗につながりかねません。

しかも、購入資金がなくて全額ローンを利用するケースと違い、頑張って貯めた大事なお金の使い道なのです。しっかりと勉強して知識を身につけ、むだにしないよう気をつけましょう。

【ココがざんねん】
お得と思える情報ほど、人の話をうのみにしてはいけません。また、家のような大きな買い物は、金額が大きすぎて思考が停止してしまいがち。メリットの裏にあるリスクをしっかり見据えて行動しましょう。

車の「残価設定ローン」に飛びついて大後悔

下取り額を差し引き残りを支払う残価設定ローン

マイカーを購入した方はご存知だと思いますが、車のローンに「残価設定ローン」というものがあります。これは、車両本体価格の一部をあらかじめ残価(=3年後や5年後の予想下取り価格)として据え置き、残りの金額を分割で支払うローンのこと。

通常の分割払いよりも月々の支払い金額を抑えつつ、次の車に乗り換えられるというものです。

簡単にいうと、3年、もしくは5年たったら別の車にやはり残価ローンを使って乗り換えるか、もしくは残った金額を支払って自分のものにするかを選べるローンです。

そのためディーラーは、「一定期間で新しいクルマに乗り換えたい人」「ライフステージに合わせてクルマのサイズアップ、もしくはダウンを考えている人」「月々の支払い金額を抑えながらワンランク上の車に乗りたい人」に向いているなどといって、勧めてきます。

しかし、仕組みをしっかり理解せずに簡単に利用し、3年もしくは5年たって後悔する人が少なくありません。

森本さん(41歳/男性)の場合……
「予定の査定額がつかず、足りない分のお金を追加で請求されたんです。手放して新しい車を買うつもりだったのに、急遽、新たにローンを組んで買い取りにしました。なんだかとても損をした気分です」

そう語るのは、3年前に「残価設定ローン」でマイカーを購入した会社員の森本さんです。

「今は金利も低いし、車体価格の半分だけをローンで支払うので、いつもよりグレードの高い車に乗れますよ」と勧められ、予算より高いものの以前からほしかった300万円の車をローンで購入しました。

頭金を入れなくても、月々の返済額は通常のローンより安く、「生活費を圧迫することもないし、いろんな車種に乗り換えることができて、楽しいカーライフを送ることができそうだ」と思ったといいます。

購入後、ドライブが大好きだった森本さんは、愛犬を乗せて海に山にとさまざまな場所に出かけました。愛犬も車から景色を眺め、風を感じるのが大好きだったそうです。

そうやって3年がたち、期間が満了するころ、再びディーラーを訪れると、査定額が当初の予定よりも低く、差額を請求されてしまったのです。「話が違うじゃないか!」と森本さんは困惑しました。

しかし、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

ディーラーもクレジット会社ももうかる仕組み

森本さんに限らず、こうしたトラブルは少なくないようです。その原因は、森本さんが残価設定ローンの仕組みをよく知らなかったことにあります。

通常のローンは、車体価格やオプション代などを含めた全額を、金利5%などで分割返済します。

一方、残価設定ローンは、3年後に車を買い取る保障額を残価と決め、購入する車の総額からその残価を差し引いてローンを組みます。

残価を差し引いた分、通常より少ない金額でローンを組むことになるので、月の返済額が少なくなり、割安感があります。また、自動車会社によっては「特別金利」を設定している場合が多く、金利も低い傾向にあります。

これだけ聞くと、〝消費者思い〟のローンだと感じるかもしれませんが、実は違います。まず、通常、新車であれば10年くらいは乗り続けるケースが多いところ、残価設定ローンのユーザーは3年や5年といった期間で買い換えるため、買い換えが促進されてディーラーはもうかります。つまり、顧客を囲い込む方法のひとつになっているのです。また、ローン期間中はローン額だけではなく、残価分にも金利がかかっているので、クレジット会社ももうかります。このように残価設定ローンは、こうした業者たちがもうかる仕組みとなっているのです。
 
デメリットはそれだけではありません。あらかじめ走行距離の範囲が決められていて、それを超えると「走り過ぎ」とされてペナルティとなります。事故歴や修理歴もペナルティですし、車内の汚れや臭いもペナルティとなることがあります。

改造していれば元に戻さなくてはいけませんし、購入時に人気車だったとしても、手放すときに人気がなくなっていると、予定より低い査定額となることもあります。

返済額の少なさだけで飛びついてはダメ

森本さんの場合、まず走行距離が規定よりオーバーしていました。また、細い道を走っていた際にこすってしまい、車体に細かい傷がありました。そして、愛犬をいつも同乗させていたことで、臭いもついてしまっていたようです。

こうしたことから、あらかじめ設定した残価より低く査定され、予定外の費用を請求されることとなってしまったのです。

結局、追加費用の請求によって、次の車を購入するために貯めていた頭金もかなり減ってしまったため、購入をあきらめローンを組みなおして買い取ることにしました。

残価設定ローンのメリット、デメリットは、今ではさまざまな所でいわれるようになり、ご存じの方も多くなっているとは思います。ですが、金利が低めで月々の返済額が少ないことで魅力に感じ、利用している人は少なくありません。車の購入を検討している人はご注意ください。

【ココがざんねん】
ディーラー側ももうからなければ、このようなローンは提供しません。「お得」とばかりに飛びついて、後から「こんなはずではなかった」と後悔することがないようにメリット・デメリットをしっかり検討してください。
 

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横山光昭
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表。お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の問題の抜本的解決、確実な再生をめざし、これまで15,000 人以上の家計を再生した。個別の相談・指導で家計の再生と飛躍を実現する活動は業界でも異端児的活動で、各種メディアへの執筆・講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000 円投資生活』(アスコム)や『年収200 万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は累計300 万部となる。お金の悩みが相談できる店舗を展開するmirai talk株式会社の取締役共同代表を務めるなど、個人のお金の悩みを解決したいと奔走するファイナンシャルプランナー。
 

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