サラリーマンやOLなど給与所得者は給与から様々な税金が引かれていることを知っているはずだ。給与明細を見てみると、「住民税」や「所得税」そして「社会保険」などが差し引かれている。

この各種税金は、「前年の給与所得」をベースに金額が決定される。しかし、サラリーマンの場合、前年に稼いだ金額全てが税金の課税対象になるわけではない。そこから「給与所得控除」というものが差し引かれるからである。給与所得控除とは何なのか、どうすれば計算できるのだろうか。

給与所得控除とは何か?

給与所得控除とは、給与所得者の収入から一定額差し引かれる控除のことだ。サラリーマンの場合は、収入から給与所得控除が引かれた「給与所得」で所得税や住民税といった税金の額が決まる。式で表してみると、以下のようになる。

収入-給与所得控除=所得(課税対象)

ちなみに収入に計上されるのは毎月もらえる基本給のほか、ボーナスや交通費、住宅手当や家族手当も含まれる。

給与所得控除が持つ意義とは?

なぜ給与所得控除というものが存在するのだろうか?それには「サラリーマン」と「個人事業主」の違いが関係している。

●給与所得控除はサラリーマンにとっての「経費」

サラリーマンやOLなどの給与所得者にとって、「確定申告は会社が行うもの」だろう。所得税などの各種税金は「源泉徴収」という形ですでに給料から引かれているので、わざわざ自分で確定申告をする必要がない。

対して、個人事業主は自分で確定申告をする義務がある。自分がその年にどのくらいの金額を稼いで、どのくらいの経費を使ったかを税務署に報告することで、税額が決定されるからだ。つまり、個人事業主にかかる税金は、

売上-必要経費=所得(課税対象)

このような式で出される所得をベースに決定されている。

経費とは「業務に必要な費用」のことだが、サラリーマンでも経費がかかる場合があるはずだ。例えば、スーツやネクタイ、通勤用の靴などは、明らかに業務に必要な費用だろう。しかし、サラリーマンは会社が確定申告を行うため、それを経費に計上できない。

そういったサラリーマンの業務にかかる経費を考慮して「給与所得控除」というシステムがある。給与所得控除は確定申告をしないサラリーマンの「経費」としての役割を持っているのだ。

●給与所得者の公平性を保つため

給与所得控除には「サラリーマンやOLのような給与所得者との公平性を保つ」という意義もある。サラリーマンと違い、個人事業主は「経費」の範囲を広く設定することが可能だ。

例えば自宅が職場であれば「家賃」なども経費として計上できる場合もある。そうなると給与所得者は圧倒的に不利だろう。個人事業主の課税対象となる金額がサラリーマンよりずっと少なくなるからだ。

そこで、給与所得控除を差し引くことで、サラリーマン・OLと個人事業主の公平性を保っている。

「所得控除」とは別のもの

給与所得控除はよく「所得控除」と間違えられるが、実際はまったく別のものだ。所得控除とは、給与所得控除のほかに「ある一定の条件を満たすと控除される金額」のこと。代表的なものを挙げれば、「扶養控除」や「配偶者控除」、「社会保険料控除」などだ。

基本的に所得控除は申請がないと受けられない。年末になると会社から扶養控除などの書類をもらうことがあるだろう。扶養家族がいる場合は書類に情報を記入して申告するはずだ。

ざっくりと違いを説明するとこうなる。

・給与所得控除……無条件に給与から差し引かれる控除
・所得控除……ある一定条件を満たし、申告した人が差し引かれる控除

ただし所得控除の一種である「基礎控除」はこの例外となる。これについては後述する。

給与所得控除の計算方法

続いては具体的な給与所得控除の計算方法について説明する。

給与所得控除の金額は収入によって異なる。まずは収入ごとの控除額を見る。

●2018年分の給与所得控除早見表

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)……給与所得控除額
180万円以下……収入金額×40%(65万円に満たない場合には65万円)
180万円超~360万円以下……収入金額×30%+18万円
360万円超~660万円以下……収入金額×20%+54万円
660万円超~1000万円以下……収入金額×10%+120万円
1000万円超……220万円(上限)

このように、収入が多いほど控除率が少なくなるのが特徴だ。この早見表を参考にして、実際に給与所得控除を計算してみる。

●年収400万円の人の計算例

収入が400万円のサラリーマンの場合。収入が360万~660万円の控除額は「収入金額×20%+54万円」。この式に400万円という収入を当てはめてみると、

400万円×20%+54万円=134万円

となる。年収400万円の場合の給与所得控除額は「134万円」ということが分かる。

年収400万円の人の給与所得は以下のようになる。

400万円-134万円=266万円(課税対象)

年収400万円を稼いでいても税金がかかるのは266万円分だけだ。

●年収800万円の人の計算例

次は年収800万円の場合で考えてみる。収入が800万円の控除額は、「収入金額×10%+120万円」だ。この式に800万円の収入を当てはめると、

800万円×10%+120万円=200万円

年収800万円の給与所得控除額は「200万円」であることがわかる。年収400万円の場合、給与所得控除額は134万円だった。年収が倍になったからといって、控除額が倍になるわけではない。

そして800万円の収入がある場合の課税対象は、

800万円-200万円=600万円(課税対象)

ということになる。

基礎控除も加わる

給与所得控除の計算方法について述べた。だが実際には給与所得控除の他にも、「基礎控除」というものが収入から引かれることになる。基礎控除とは、扶養控除などと同じく「所得控除」の一部だ。前述したように本来、所得控除は申請しなければ受けられないが、この基礎控除に関しては申請が不要で誰でも受けられる。

基礎控除には「38万円」と「33万円」の2種類がある。所得税を計算する際には38万円が控除され、住民税の計算では33万円が収入から控除される仕組みになっているのだ。

ちなみにこの基礎控除は給与所得控除と同様、パートやアルバイトにも適用される。

たいていの人は、「扶養に入っている人は103万円を超えて稼いではいけない」ということを聞いたことがあるだろう。

給与所得控除の最低額(65万円)と、基礎控除(38万円)の合計額のことなのだ。これを越えるとたとえ扶養内でも所得税が発生してしまう。

住民税に関しては、給与所得控除が65万円、基礎控除が33万円なので、合計は98万円となる。

しかし住民税のボーダーラインは98万円ではない。住民税には35万円の「非課税限度額」というものがあり、給与所得控除65万円が差し引かれた金額が35万円以内であれば非課税となる。したがって65+35=100万円までは課税が免除されるのだ。子供や配偶者がいる場合は、合わせて覚えておきたい。

特定支出がある場合は控除額が変わる

給与所得控除が「サラリーマンの経費」として機能していることについては触れた。だがなかには、実際に経費として使った金額が給与所得控除額を上回ってしまったということもあるだろう。

そういう時は「特定支出控除」という制度が役に立つ。実際に経費として使った金額が給与所得控除額の半分を超えている場合、その上回ってしまった金額も収入から控除できるシステムのことだ。特定支出とは、以下のような出費を指す。

・「通勤費」……通勤に必要な費用。定期代、バス代、電車代など
・「転居費」……転勤に伴う転居のために必要な費用。引越し代。
・「研修費」……勤務に必要な知識を付けるために必要な費用。講習や研修。
・「資格取得費」……勤務に必要な資格取得にかかった費用。
・「帰宅旅費」……単身赴任している人が、一度家に帰る際にかかった旅費。
・「勤務必要経費」……書籍、衣服、取引先との交際費など、勤務に必要な費用。(65万円が上限)

●具体的な計算例

文面だけでは想像しづらいので具体的な計算例をご紹介する。

例えば年収400万円の人が単身赴任にかかる引っ越し、帰宅旅費などで年間120万円の経費がかかったとしよう。

計算例で触れたが、年収400万円の場合、給与所得控除は「134万円」だ。特定支出控除は、給与所得控除の半額より上に適用されるので、この場合の基準値は「67万円」。

この人の場合は年間120万円経費が発生しているので特定支出控除の適用対象となる。半額の67万円を超えた経費の計算はこうなる。

120万円-67万円=53万円(特定支出控除)

53万円を上乗せして控除できるわけだ。これを考慮して給与所得を出すと、以下のとおり。

400万円(収入)-134万円(給与所得控除)-53万円(特定支出控除)=213万円(給与所得)

最終的に課税されるのは213万円のみということだ。特定支出控除は税金を節約できる制度なので、サラリーマンなどの給与所得者にはぜひ覚えておいて欲しい。

給与所得控除は変動するので注意

給与所得控除額は、頻繁に変更されるので注意が必要だ。最近では、2014年、2017年、2018年と5年間で3回も控除額が変わっている。ただ「年間の収入額が180万円以下の場合は収入の40%」、「65万円に満たない場合は65万円」という項目は、本的に変わらない。

しかしほとんどのサラリーマン・OLはこれよりも収入が多いはず。給与所得控除が変わった時には控除率に目を通しておきたい。

文・ZUU online編集部

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