米国でクレジットカードの利用に急ブレーキがかかっている。背景には債務残高の膨張とクレジットカードの貸倒償却率の上昇があり、金融機関の収益とともに個人消費の先行きに暗い影を落としている。さらに、自動車ローンも膨らんでいることから、過剰債務が家計の重しとなり、消費を抑制する可能性が高まっている。

債務膨張で「返済を優先する」動きが表面化?

1月の米消費者信用残高は年率換算で前月比1669億ドル増と12月(2305億ドル増)から大きく減速した。伸び率で見ると12月の6.0%増から1月は4.3%増と低下、年明けとともに情勢に変化が生じている。

特に注目されるのがクレジットカードを含むリボ払いで、前月比0.8%増と前回(7.2%増)から大幅に縮小している。文字通り急ブレーキがかかった様相であるが、昨年10~12月期のリボ払いは前期比10.4%増と急拡大していたことから、その反動が出た可能性もないとはいえない。

ただし、米家計債務は10~12月期まで4四半期連続で過去最大を更新中であり、債務拡大の原動力はクレジットカードや自動車ローンといった「消費者信用の拡大」にあった。消費者が積み上がった債務への危機感から返済を優先した可能性も否めず、調整が長引く恐れも否定できない。

信用リスクは「サブプライム層」から始まる

クレジットカードの利用に急ブレーキがかかっている原因の一つとして有力視されているのが「米銀の貸倒償却率の上昇」である。

昨年10~12月期のクレジットカードの貸倒償却率は、金融機関全体では3.6%と7~9月期から横ばいとなった。ただし、1年前の3.4%、2年前の2.9%からは上昇しており、ここ数年で見た長期トレンドは上昇基調にある。

特に小規模銀行に限ると貸倒償却率は7.2%に跳ね上がり、1年前の4.5%、2年前の3.4%からこの2年で大きく伸びている。

全体の貸倒償却率が低いことから、問題視しない向きも少なくないのであるが、小規模銀行の動きは「炭坑のカナリア」の役割を果たすと考えて警戒する向きも多い。

大手銀行ほど魅力的なオファーを出せないことから、小規模銀行はどうしても信用力の低い顧客にも貸出しをせざるを得ない。「信用リスクの始まり」は、当然のようにサブプライム層から始まると考えられるので、小規模銀行の貸倒償却率の上昇が大手銀行にも波及するリスクを軽視すべきではないだろう。

実際、フェドサーベイをみても、大手銀行のローンオフィサーの半数が2018年の貸倒償却率について、さらなる上昇を見込んでいる。

仮想通貨の取引減少も影響している?

このほか、ウォール街では「仮想通貨が影響がしているのではないか?」との指摘もある。

仮想通貨を取引所で購入する際にはデビットカードが利用できるほか、直接代金を振り込むことも可能である。だが、一般的な買い物と同様、米国民が最も利用しているのはクレジットカードでの支払いと考えられる。統計が整っていないことから、はっきりとは言えないのであるが、ビットコインの急落で仮想通貨の取引量は大きく減少、その影響がクレジットカードの利用減にまで及んでいるとの見立てだ。

さらに上記とあわせて注目されるのは、仮想通貨の購入にクレジットカードの使用を禁止する金融機関が相次いでいることである。

たとえば、2月2日にはシティグループとバンク・オブ・アメリカが、3日にはJPモルガンチェースが仮想通貨の購入を目的とするクレジットカードの使用を禁止している。

もちろん、これがすべてとは考えづらいが、仮想通貨の市場規模は少なくとも数千億ドルへと成長していることから、昨年の盛り上がりとその後の停滞は「クレジットカードの利用とある程度リンクしている」としても不思議ではないだろう。

自動車ローンの返済額が過去最高

また、自動車ローンの積み上がりも消費の先行きに暗い影を落としている。

エクスペリアンによると、2017年10~12月期の新規自動車ローンの支払い額は月額515ドルと前年比8ドル増えて過去最高を更新した。既存の返済額も前年同期比8ドル増えて月額371ドルとなり、こちらも過去最大となっている。

支払いが増えている背景には金利の上昇がある。新車のローン金利は5.11%と前年より37bps上昇、中古車は8.84%と同30bps上昇している。なお、新車のローン金利のほうが低いのは購入者のクレジットスコアが高いからであり、新車だから低いわけではない。

新車購入でのローン金額は平均で3万1099ドルと前年比509ドル上昇、中古車も平均1万9589ドルで317ドル上昇している。金利上昇に加え、購入価格そのものが上昇していることも消費者に負担を与えていると考えられる。

ちなみに、価格や金利の上昇に対する「苦肉の策」なのか、ローン期間が長期化する傾向にある。新規ローンの返済期間は平均で69カ月と1年前と比べて0.5カ月分長期化しているほか、信用の低い層に限ると72カ月を超えている。

ひと昔前であれば、自動車ローンは5年が主流であったが、今では7年や8年のローンも珍しくはなくなった。最近では8年以上のローンも増えている。

2017年の米新車販売は8年ぶりに前年を下回ったが、2018年に入っても苦戦が続いている。2月の新車販売は前年同月比2.4%減であり、回復の見通しが立たない情勢だ。

新車販売の苦戦は氷山の一角であり、消費全体が低迷する危険性を示唆しているのかもしれない。

「生活防衛的」な消費態度が浮き彫りに

米家計はこれまで、貯蓄率の低下と借入れの拡大で「所得を上回る消費」を続けてきたが、クレジットカードの利用減少や自動車販売の不振などを考え合わせると、こうした消費行動に曲がり角が訪れていると考えられる。

1月の米個人消費は前月比0.2%増と12月の0.4%増から鈍化し、昨年8月以来の低い伸びとなった。また、実質では0.1%減少と昨年1月以来のマイナスである。一方、1月の個人所得は前月比0.4%増と高い伸びを維持したものの、同時に貯蓄率も3.2%と12月の2.5%から大きく上昇している。

つまり、所得が伸びても、消費を切り詰め、貯蓄を増やすという「生活防衛的」な消費態度を浮き彫りにしているのが現在の状況なのだ。これは債務が膨らみ過ぎたことから、借金の返済を優先させ始めたと言い換えることもできる。

GDPの約7割を占める個人消費は昨年10~12月期に3.8%増と高い伸びで成長をけん引していた。これは、10~12月期の消費者信用残高の高い伸びとも符号しており、消費者信用残高の鈍化はそのまま個人消費の失速を招く恐れがある。

米貿易赤字の拡大で成長率が押し下げられる公算が大きい中で、1月は耐久財受注や鉱工業生産もマイナスとなっている。ウォール街では個人消費の減速と合わせて「1~3月期のGDP成長率が想定外の低い伸びにとどまるのではないか」と懸念する声も出始めており、米株価の先行きにも暗い影を落としている。

文・スーザン・グリーン(NY在住ジャーナリスト)/ZUU online

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