所有者不明の土地が増えているという。増田寛也元総務相ら民間有識者でつくる研究会が2017年6月に、「所有者がわからなくなっている可能性の土地が、全国で約410万ヘクタールある」と発表している。

ここで言う「所在者がわかなくなっている土地」とは、登記簿上に所有者の名前が記載されていても、その人が既に亡くなって数十年以上経っている状態を指している。つまり、相続などの際の名義変更を行わないで放置している土地のことである。なぜこのような事態になっているのか、そのままにしておくとどのようなデメリットがあるのか、詳しく見ていきたい。

所有者不明の土地が増える理由

所有者不明の土地(厳密には所有者が亡くなっても長年名義変更をしていない土地だがここではこのように呼ぶ)が、なぜこのように増えているのか。それには大きく分けて2つの理由が考えられる。

まず一つは、所有者が変わったら、すぐに法務局で所有権の移転登記をしなければならないとする規則がないからだ。しかし、この理由を聞いて疑問を持つ人がいるかもしれない。売買契約で土地を買った場合、すぐに登記するのではないか、と。

確かにそのとおりである。売買契約で土地が自分のものになった場合、いち早く移転登記の手続きを行うのは常識となっている。しかし、これは法律で決められたものではなく、不動産の場合、第三者に対する対抗要件は登記だからである。

例えば、眼鏡屋さんから眼鏡を買ったとする。代金を支払い眼鏡屋さんから眼鏡を受け取る。ここで、売買契約が完了し、眼鏡は買った人のものになる。ここで、買った人が眼鏡をかけることで、その人の所有物ということが、誰の目にも明らかになる。

土地や建物を不動産と言い、それ以外を動産と言うが、動産は所有者が持っておくことで、第三者に「自分のものだ」ということを示すことになる。民法では、所有権は絶対的なものであり、誰も侵害することができない。一時的に眼鏡を外して会社のデスクに置いていても、勝手に持って行くことができないのである。

しかし、不動産、土地や建物はそういうわけにはいかない。道を歩いていて、空き地を見つけても、所有者が誰かわからないのが一般的である。そこで、登記と言う制度が作られている。

これは、不動産がある住所を管轄する法務局に、登録するもので、一般的に「登記」と呼ばれている。従って、不動産の持ち主を知りたいときには、法務局に行って、手数料を払い、登記簿謄本を取り寄せれば、その不動産の所有者がわかる仕組みになっている。

誠に便利なシステムであるが、実は「不動産の持ち主は登記をしなければならない」とする決まりがあるわけではない。ここはやや専門的な話になるが、不動産の登記は第三者に対する対抗要件になるからである。

つまり、不動産を手に入れて登記をしないままにしておくと、前の持ち主が勝手に他の人に譲り、買った人が先に移転登記をしてしまえば、その人に所有権が移転してしまうのである。いくら自分が先にお金を払って買ったと主張しても、法的には登記の名義人が「真の所有者」とされる。

以上のように、土地の所有者が変わった場合、名義を変更しなければ不都合が生じるということがわかっていても、特に決まりや罰則がないため、そのままにしておくのである。

もう一つの理由は、費用の問題である。先程から説明しているように、不動産の名義変更は法務局で行う。その際、登録免許税を必ず納めなければならない。

その金額は、不動産の評価額や所有権が移転する理由によって変わってくる。相続によって移転登記する場合は、評価額の1,000分の4、つまり0.4%、相続以外、例えば売買や贈与によって移転登記する場合は、評価額の1,000分の20、つまり2%の金額を納めることになる。

例えば、1,000万円の土地を移転登記する場合、相続では4万円、それ以外では20万円の登録免許税となる。しかも、この手続きを司法書士などの専門家に依頼するとなると、その報酬としてさらに平均で5~6万円程度が必要になる(相続人や不動産の数など、案件の内容によって報酬額は異なる)。

専門家に依頼せず、自分で手続きをすることは、もちろん可能だ。ただ専門知識が必要になるし、さらにネックとなるのが、法務局の開庁時間である。通常、平日の午前8時30分から午後5時15分までが手続き可能な時間帯であるから、一般の会社員であれば、直接法務局に足を運ぶことすら難しい。

従って、多くの人は司法書士などに依頼せざるを得なくなる。登録免許税が必要なうえに、司法書士などに報酬を支払うことになると、かなりの金銭的負担である。

不動産の所有者が亡くなり、所有権移転登記をしない場合、亡くなった人宛に固定資産税の支払明細書がくる。しかし、残された家族がそのまま支払い続ければ、特に支障はない。そうなれば、敢えてお金を支払って名義変更することもない、と考える人が少なくないのが現状なのである。

デメリット1 子供や孫に大きな負担に

ところで、不動産の所有者が亡くなった後、名義変更をしなければどのようなデメリットがあるのだろうか。

まず、デメリットの一つ目は、子どもや孫に大きな負担がかかる点が挙げられる。例えば、ある人が亡くなり、その人の土地を名義変更しないまま、放置していたとする。さらに、その人の相続人(子ども)3人が、移転登記しないまま、全員亡くなったとする。

それぞれに3人ずつの子どもがいた場合、その土地の相続人は3×3=9人になってしまう。この時点で、その土地の名義変更をする場合、まず全相続人9人の所在を確認する必要が出てくる。そのうえで、誰がどのような割合でその土地を相続するかを話し合わなければならない。

だれか一人が相続するにしても、相続人全員の同意が必要であるから、基本的には全員が集まる必要がある。もちろん、所在地がばらばらで集まることが不可能な場合には、電話連絡などで意思確認を行い、話し合いがまとまった後で、「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名捺印すればいい。

ただし、すぐに全員の所在地が判明するとは限らない。調査にはかなりの時間と労力を要する。さらに、全員の所在地がわかったとしても、ほとんどあったこともない人と土地の相続の話をすることになるので、なかなか進展しないことも多い。

以上のように、長年移転登記を放置したことで、子どもや孫に多大な手間や煩雑な手続きを負わせることになるのである。

デメリット2 登記は遅くなるだけ費用がかかる

次のデメリットとしては、移転登記が遅くなればなるほど、費用がかかる点である。

先程も説明したように、所有権移転登記は基本的に司法書士などの専門家に依頼することになる。もちろん、専門家に支払う報酬を節約するために、自分たちで手続きを行うことも考えられる。しかし、移転登記を長年放置し、相続人がどこに、何人いるのかわからない状態の場合、素人が移転登記の手続きを行うことは至難の業である。

まず手続きの端緒としては、不動産の所有者の戸籍謄本を取り寄せる必要がある。この場合、その人は既に亡くなっているから、その人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本が必要になる。

これだけ聞けば簡単なようだが、実は意外と難しく煩雑な手続きが待っている。その人がかなり前に亡くなっていた場合、戸籍に記載されている住所が、現在存在していない可能性がある。なぜかと言えば、日本では数十年ごとに市町村が合併したり、区画整理などで地域名が変更されたりしているためだ。

また、かなり以前に亡くなった人の戸籍謄本を取り寄せる場合、除籍謄本や原戸籍が必要になってくる可能性もある。除籍謄本とは、在籍している人が誰もいなくなった戸籍のことである。

ご存知のように、戸籍は夫婦と子どもが記載されているが、子どもが結婚した場合には、新たに戸籍を作るため、元の戸籍から抜けることになる。その後、夫婦ともに亡くなった場合には、その戸籍の生存者がいなくなり、空の状態になる。これが除籍謄本である。

また、戸籍法という法律が改正される度に戸籍の様式が変わったり、コンピュータ化されることで新たな様式になったりしているが、それまでの古い様式の戸籍(これを原戸籍という)を自治体が保存している。かなり以前に亡くなった人の戸籍謄本を取り寄せる際には、その原戸籍までさかのぼる必要がある。

もしその故人に、既に亡くなった相続人が5人も10人もいて、その中に個人がいる場合には、その人の戸籍謄本を取り寄せる必要もあるから、手続きはさらに膨大なものとなる。考えただけでも、気の遠くなるような作業であり、専門家でなければ難しいことは容易に想像がつく。

結局専門家に依頼することになるが、ある人が亡くなってその子どもが相続するといった、単純な手続きではないため、自ずと支払う報酬(調査費用など)は高くなる。また、5人、10人の相続人と話し合うための費用、例えば交通費、出張費、文書費なども高額になってしまう。

このように、長年移転登記手続きを放置したことで、高額な出費を余儀なくされるのである。

デメリット3 事情が分かる人がいなくなるかもしれない

三つ目のデメリットとしては、資料の散逸などによって、不動産の事情を詳しく知っている人がいなくなるかもしれない点である。

これは実際に私が相談を受けた事例だが、その相談者の祖父が所有していた田畑があった。祖父は50年以上前に亡くなっているが、その子ども、つまり相談者の父親が所有権移転登記をしないままにしていた。

1年前に父親がなくなり、自分の代で所有権移転登記をしようとした相談者は、意外な事実に驚いて、私の事務所に相談に来たのである。実は、長年祖父の畑だと思っていた土地が、祖父の弟名義の土地だったのである。

祖父の弟も既に亡くなっているが、名義変更をしておらず、そのままになっている。そして色々調べてみると、祖父と祖父の弟が親から相続する際に、お互いの畑を相手の名義にして登記していたことが判明した。

このことは、当事者(祖父、祖父の弟)の間で悩みの種となっており、土地の交換登記をしなければという話は持ち上がっていたものの、そのままになっていたということである。

一番簡単な方法としては、今からお互いの土地を交換登記することであるが、既に双方の当事者が亡くなっており、容易にはいきそうにもない。そもそも、両方の所有者が勘違い(法的には「錯誤」という)をして、登記をしたという事実を証明することもできない。それを示す資料が残っていないのである。

そこで、色々と検討した結果、お互いの相続人が、一旦お互いの土地を相続した後で、間違った土地同士を交換するという方法をとることで落ち着いた。しかしこの方法だと、費用(登録免許税、報酬など)がかかってしまう。それでも、今やっておかないと、今後ますます収拾がつかない事態になることは目に見えている。

長年、移転登記を放置した結果招いたトラブルであることは間違いない。せめて、錯誤の登記だったという資料が残っていれば、対処できたのにと、悔やまれる事案である。

子や孫のために今からできること

以上のように、土地の移転登記を放置しておくと、後々に多大な影響が出てくる。最も理想的な方法は、現金などの遺産の相続手続きを行ったら、時間を置かずに移転登記手続きを行うことである。

もし、親や祖父母が土地の所有権移転の登記をしていなかったらどうすればいいだろうか。まずやるべきことは、資料集めである。土地の権利証(登記済証)、市区町村役場から毎年送られてくる固定資産税明細書があれば、相続対象の土地が特定できることになる。

そのうえで、専門家(司法書士、弁護士、行政書士など)に相談することをお勧めする。前述したように、費用(相談料、報酬、調査費、出張費、登録免許税など)はかかるが、時間が経てば経つほど益々費用がかさみ、手続きは煩雑になってしまうので、早いに越したことはない。

土地の所有権移転登記は、時間との勝負である。時間が経てばそれに比例して、費用や煩雑さが増していく。まさに、放置している不動産の移転登記のタイミングは、思い立った時がベストなのである。

文・井上通夫/ZUU online

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