「学資ローンで破産宣告する人」が米国で増えるかもしれない。米国では現時点では、学資ローンの破産宣告は法的に“ほぼ不可能”とされている。これは学資ローンに関する免責の議論がほとんどなかったことなどが理由だ。しかし2018年2月、米教育省が学資ローンに関する方針の見直しを 発表したことで、今後は可能になるかもしれない。

米国の学資ローン総額は1.49兆ドル(約156兆円)を突破しており、2023年までにそのうち4割が債務不履行に陥ると予測されている(セントルイス連邦準備銀行2017年第4四半期データ)。

ただし連邦準備制度理事会(FED)は「学資ローンは他の負債と同じ」と難色を示しており、今後の行方が注目される。

「破産宣告を学資ローンに適用するのはほぼ不可能」な理由

米教育省は「学資ローンの破産宣告を困難にしている要素」を見直す意向を明らかにしているが、実施に向けて取り除くべき障害物は多いようだ。

学資ローン情報サイト「スチューデント・ローン・ヒーロー」 のパーソナル・ファイナンス専門家ミランダ・マークィット氏はCNBC の取材で、「破産宣告を学資ローンに適用するのはほぼ不可能」とコメントしている。

学資ローンに関する免責について過去に議論されたことがなく、返済者にとって、どこまでが過剰な負担でどこまでがそうでないかの判断基準すら確立していない状況――というのがその理由だ。つまり学資ローンの免責に関してゼロから方針を決めて行く必要がある。

そうした手順を踏まない限り、「Brunner Test」と呼ばれる既存の免責基準が適用されることになる。「Brunner Test」の基準は厳しく、負債を返済すると最低限の生活を維持して行く経済力もなく、かつ過去に返済を試みた履歴ある場合にのみ破産許可が下りる(全国破産フォーラム )。現実的にみて、「学生ローンを返済する経済的ゆとりがない」というだけの理由では、破産宣告は適用されない。

負債額が少ない層ほど不履行に陥りやすい?

しかし学資ローン総額が米国史上最大に膨れ上がった現在、これ以上放置しておけない問題として、解決策を求める動きが活発化している。

米シンクタンク、ブルッキングス研究所 は、教育省のデータに基づき、1995~96年と2003~04年の新入生による学資ローンの返済状況を分析した結果、2004年に大学に進学した米国人のうち4割が2023年までに債務不履行に陥ると予想している。

調査からはローンの借入条件によって、不履行に陥る層が異なることも明らかになった。例えば私立大学の借入者は公立大学の借入者よりも2倍、不履行に陥りやすい。借入12年後の不履行率は前者が52%なのに対し、後者は26%だ。また私立大学が公立大学よりも学費が高いため、借入者の割合は前者が47%、後者が13%とさらに4倍もの差が開く。

人種にも不履行率に影響する。借入12年後、私立大学に入学した白人で不履行に陥った割合はわずか4%だが、黒人の中退者では67%に跳ね上がる。黒人のバカロレア取得者でも、白人の中退者より5倍不履行に陥った割合が高いという事実から、中退そのものが不履行率を押し上げているわけではないことが分かる。

興味深いのは負債額が少ない層ほど、不履行に陥りやすいという事実だ。12年後の不履行率を比較してみると、1~6125ドルの借入者が37%なのに対し、2.4万ドル以上の借入者のは24%におよぶ。

FED議長は否定的「学資ローンは他の負債を同じ」

米教育省が今回の方針見直しによって、学資ローンの免責の基準を下げることを視野に入れているのは明らかだが、マイナス効果への懸念もある。

2018年1月3日の議会公聴会で 、学資ローンの膨張について質問されたジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FED)議長は、長期的な見解から、学資ローンの膨張が経済的リスクになり得る可能性を認めた。しかし学資ローンに破産宣告を適用するという発想については「学資ローンは他の負債を同じ」とし、「何故かと理由を説明しろと言われると戸惑う」と否定的な態度を示した(マーケットウォッチ2018年3月1日付記事) 。

確かに学資ローンが免責の債権に含まれた場合、様々な問題が持ち上がるだろう。ブルッキングス研究所の予想通り、総額1.49兆ドルの4割が債務不履行となれば、一体誰がそれを負担するのか。また破産宣告によって学資ローンの返済が帳消しになった負債者の生計が、本当に楽になるのか、有意義なものになるのか―といった点に、疑問を唱える声もある。

しかし学資ローンの免責は、一部の深刻な経済難に直面している負債者にとって、多少なりとも生計を立てなおす機会となるはずだ。

民主党は解決策のひとつとして、失業保険など社会保障の受給者や兵役による障害などに限り、学資ローンの免責を検討することを提案している。

ブルッキングス研究所の調査を担当した上級研究員スコット・クレイトン氏は、全体的な負債総額を懸念するよりも、私立大学の授業料に上限を設けるなど規制を導入する、学業成績の向上を図る、あるいは所得に応じた返済プランを提案するといった前向きな解決法が必要だと主張している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

文・ZUU online編集部

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