一般家庭の借金の9割を占めるとされる住宅ローン。「家族の幸せや安心のために」「賃貸で同じ金額を払うくらいなら資産になるものに充てたほうがよい」などさまざまな理由で多くの人が住宅を購入し、ローンを組む。

しかし毎月の返済は平均7万~11万円と家計への負担は大きい。ただし、親や祖父母からの生前贈与が期待できる場合、うまく工夫すれば節税しながら住宅ローンの負担を減らすことができる。

生前贈与は原則として贈与税がかかる

生前贈与で住宅ローンの負担を減らす方法として、真っ先に思い浮かぶのが「親や祖父母からお金をもらってローン返済に充てる」方法ではないだろうか。

ただ、多くの読者がご存じのように、お金をタダであげれば贈与税がかかる。扶養義務者から受け取る生活費など日常使うものにその都度直接充てるためのお金などでない限り、1年間に受けた贈与の財産の総額が110万円を超えたら贈与税を払わなくてはならない。

「肩代わりだったら贈与ではないから大丈夫だろう」と思いたいところだが、これも贈与税の対象だ。債務の肩代わりは「債務免除等による利益」とされ、贈与をしたとみなされるのだ(ただし、債務者の資力喪失により弁済が困難になるなど一定条件がある場合は除く)。

「ならば相続時精算課税制度の非課税枠で2500万円まで非課税なのだからこれを使えばよいだろう」と思われるかもしれない。専門家としては後述する理由によりあまりオススメしない。原則として「ローン返済目的の贈与もローンの肩代わりも贈与税がかかる」と思っておいたほうがいい。

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は住宅ローンに使えない

では、ほかに使える制度はないのだろうか。昨今、現役世代の住宅購入の際、負担軽減だけではなく相続税や贈与税の節税にもつながる「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度が注目を集めている。

この制度を活用すれば、2018年現在一般住宅の場合700万円まで、省エネ等住宅の場合1200万円までが非課税で親や祖父母世代から生前贈与を受けることができる。

「これなら住宅ローンの返済に使えるのではないか?」と考えた人もいるかもしれない。残念ながら、この制度はあくまでも住宅「購入」のためのもので、ローン返済のためのものではない。つまり、生前贈与された全額を住宅購入そのものに充てないと非課税の恩恵を受けられない。

現行の贈与税の制度には、現役世代の住宅ローンを軽減する目的で作られた贈与税の非課税制度はない。ただし、工夫次第では、節税しながら生前贈与を活用しつつ、住宅ローンの負担を減らすことはできる。

方法(1) 住宅取得等資金の贈与税の非課税制度+住宅ローンで負担軽減&節税

先ほど「住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は住宅ローン返済には使えない」と書いた。しかし、住宅ローンと住宅取得等資金の贈与税の非課税制度を併用することはできる。つまり、住宅の購入資金の一部を生前贈与で賄い、残りを住宅ローンにすることができるのだ。

この場合、条件が厳しい方から先に購入資金に充てていくように考える。つまり、贈与された金額すべてを購入費用とすることが条件となっている住宅取得等資金の贈与税の非課税制度を先に充て、残りを住宅ローンとするのだ。この方法だと、頭金のみを生前贈与でもらったお金全額で払い、残りを住宅ローンにすることができる。そうすれば、生前贈与の非課税枠が使えるだけでなく、住宅ローンについては所得税での税額控除で節税することができる。

ただし注意点もある。1つ目は住宅ローン控除の金額に制限が出てくる点、2つ目は両制度の要件だ。

1つ目の住宅ローン控除の金額については、住宅取得等資金の贈与を受けた場合、次のいずれか低い金額が控除対象となる。

・住宅の取得等に係るローン(借入金)の金額
・「住宅の取得等に係る対価の額」から贈与に係る金銭に相当する額を控除した額に相当する金額

通常の全額自己負担の場合より所得税での節税額は少なくなるので注意したい。

2つ目の注意点だが、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度も住宅ローン控除も、適用を受けるための要件がかなり厳しい。例えば、期限に関して、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度では贈与を受けた年の翌年3月15日までに新築・取得を済ませたり、その家屋に居住したりしなくてはならない。住宅ローン控除では新築・取得の日から6か月以内に住み始め、適用を受ける各年の12月31日まで住み続けていることが必要だ。これ以外にも、受贈者の所得要件や物件そのものの要件などがある。制度についてきちんと調べた上で上手に活用しよう。

方法(2) 暦年課税制度の非課税110万円以内でコツコツ生前贈与

贈与税の暦年課税制度では110万円までが非課税となっている。1年単位で見ると金額は少ないが、コツコツと贈与すれば、かなりの住宅ローン軽減につながる。子どもの教育費に自己投資に……とためるより使うほうが多くなりがちな現役世代にとってはたとえ年間110万円でも生前贈与はありがたいものだ。

ただし、注意点がある。1つ目は、連年贈与とみなされること、2つ目は生前贈与加算だ。

1つ目の注意点である連年贈与とは、贈与を毎年繰り返して行うことをいう。たとえば、100万円を10年間にわたって毎年贈与したとすると、税法上ではこれを「1年ごとに非課税枠内で100万円を贈与した」とは考えない。「最初から1000万円を贈与する意図があった」とみなし、「総額1000万円を10年間にわたって分割して受け取る権利を贈与した」と考える。

贈与は「あげます」「もらいます」の双方の合意があって初めて成り立つものなので、贈与契約があった時点で1000万円の贈与があったと考えるのだ。そのため、単にコツコツ110万円ずつ贈与をしても節税にはならない。

連年贈与とみなされないためには、贈与契約書を贈与の都度作成し、公正証書にすることをおススメしたい。なお、あえて贈与額を111万円にして贈与の申告書を作成し、これを贈与があったことの証明書を考える人もいるが、贈与税は理論上、贈与そのものの法律行為の結果にしかすぎない。

申告書は贈与の意思や契約内容の証明にはならないのだ。面倒でも、贈与の都度、それがその都度ごとに双方の意図によって行われたことを示す贈与契約書を作成することが望ましい。

2つ目の注意点である生前贈与加算とは、贈与する親が亡くなってしまった場合、その死亡時つまり相続開始時前3年以内の贈与に関しては、相続財産に加算される税法上の仕組みのことだ。生前贈与加算の対象になると、贈与したこと自体が節税ではなくなってしまう。

以上の理由により、少額コツコツタイプの贈与は長期的視野で検討し、計画的に行いたい。

方法(3) 住宅取得等資金の贈与税の非課税制度+住宅ローン+暦年課税制度非課税110万円で負担軽減&節税

(1)と(2)の組み合わせによる方法だ。住宅取得等資金の贈与税の非課税制度と住宅ローンで住宅を購入し、住宅ローン控除を受けつつ、暦年課税制度の非課税枠内で生前贈与を受けて返済に充てるというものだ。「負担を減らす」という一点に絞るなら効果的かもしれない。ただし、デメリットもある。

1つ目は住宅取得等資金の贈与税の非課税制度を相続時精算課税制度で受けた場合のデメリットだ。暦年課税制度だと非課税枠と合わせて810万円(省エネ等住宅だと1310万円)まで、相続時精算課税制度だと非課税枠と合わせて3200万円(省エネ等住宅だと3700万円)まで受けることができる。

後述するが、相続時精算課税制度の枠組みで住宅取得等資金の贈与税の非課税制度の適用をいったん受けたならば、その贈与をしてくれた親や祖父母からの贈与に関しては、暦年課税制度の枠内で贈与を受けることは二度とできない。そのため、父からの贈与に関して相続時精算課税制度を選択したなら母から暦年課税制度で贈与を受ける、などの工夫が必要だ。

2つ目は、住宅ローンそのものへのダメージだ。住宅取得等資金も受け取ってさらにローンも返済して……というケースだと、そもそも組んでいるローンが相当少額であったり、期間がもともと短かったりする可能性も高い。そのため、さらに生前贈与を受け取って繰り上げ返済すると一気に残債が減り、返済期間が10年以下になることもある。

一方、所得税法上の住宅ローン控除を受ける場合、ローンの返済期間は10年以上が条件だ。また住宅ローン控除が受けられる期間も10年となっている。繰り上げ返済をがんばった結果、返済期間が短くなり、受けられるはずの住宅ローン控除が突然受けられなくなったりすることにもなりかねない。節税とのバランスを加味して検討したい。

相続時精算課税制度はあまりオススメできない

住宅ローンの負担を減らそうとするあまり非課税枠が2500万円もある相続時精算課税制度を検討したくなる人もいるだろう。気持ちは分かるがあまりオススメできない。

理由は3つある。1つ目は節税にならないから、2つ目は一度選択すると二度と撤回できない上に面倒くさいから、3つ目は相続時に値上がりしていないと損をするからだ。

1つ目の「節税にならない」という点についてだが、相続時精算課税制度は暦年課税制度と違い、生前贈与した分については、贈与者が亡くなったときに他の相続財産とすべて合算して相続時の相続財産に係る課税価格を計算する。このとき、課税価格が基礎控除額や税額控除額などの合計額よりも低ければはじめて「相続税はかからない」ことになり、相続時精算課税制度の非課税枠が節税策として活きることになる。

だが、実際にこのようなケースは珍しいと言ったほうがいい。「財産なんてない」と言いながらも、単に意識していないだけで、現実には生命保険や土地建物、退職金やさまざまな権利などを足すと、基礎控除額と税額控除額の合計額を上回るケースが多いのだ。言い換えると「相続時精算課税制度を節税のために使ったつもりがただの納税の先延ばしに過ぎない」結果になりやすい。

2つ目は先述した通りで、相続時精算課税制度を選択するとその関係性では二度と暦年課税制度に変更することはできない。そのため、お祝いとして1年間に10万円もらったとしても、贈与税の申告書を作成して贈与された年の翌年の2月1日から3月15日までに提出しなければならない。110万円以下かどうかは一切関係なくなるのだ。また、2500万円の枠を使い切ったらあとは一律20%で課税される。

3つ目の「相続時に値上がりしていないと損をする」については、相続時精算課税制度が適用された財産を相続財産に持ち戻す際、相続開始時の時価ではなく、生前贈与した時の時価で足し戻す。つまり、時価が「贈与時<相続時」であればその分相続税額を低く抑えることができるし、逆に「贈与時>相続時」であれば相続税額を多く払うことになる。現金を贈与するだけなら時価は「贈与時=相続時」だけだが、これだと1つ目の理由で示した通り「単に納税の先延ばしになっただけ」に終わる可能性がある。

このほかにも、相続時精算課税制度には面倒くささが付きまとう。安易に使うのではなく、一度専門家に相談してから検討してほしい。

生前贈与で住宅ローンの負担軽減だけに目が行きがちだが、思わぬ損をすることもある。「贈与してもらわず自分でローン返済し住宅ローン控除で節税した方がマシだった」ことにもなりかねない。

負担を減らすことだけでなく、さまざまな節税とのバランスや手間なども考慮し、総合的に判断するようにしよう。(鈴木まゆ子、税理士)

文・ZUU online編集部

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