「センターピン」を見つけて、その1点に集中しよう

仕事終わりに帰宅して、何気なくつけたテレビを長く見てしまう……。夜寝る前にスマホでSNSをチェックしていて、夜寝るのがついつい遅くなってしまう……。皆さんも仕事に影響してしまうような、やめたい習慣を一つや二つお持ちではないだろうか。約2万人に「習慣化」の指導を行なってきた古川武士氏に、悪い習慣をきっぱりやめる秘訣をうかがった。(取材・構成 杉山直隆)

ダメな習慣がやめられないのは当然

SNSやネットのニュースを漫然と見続けている、ダラダラとテレビを見ながら夜ふかしをしている、いつも終電ギリギリまで飲んでいる……。時間を浪費する習慣をやめたいと思いながらも、一向にやめられない。 

1、2日はやめられるのだけど、三日坊主の繰り返し……。そんな自分に失望している人は少なくないでしょう。

しかし、そうしたダメな習慣をスッパリやめられないのは、仕方のないことだといえます。 

例えば、時間の浪費に過ぎなかったとしても、その習慣があることで、今のあなたは、心身のバランスが取れた状態だからです。人間は本能的に変化を恐れるので、ダメな習慣をやめると不安になります。だから、元に戻そうとしてしまうのです。

ただ、コツさえつかめば、誰でも、ダメな習慣をやめることができます。「心身のバランスを崩す恐れがあってでもやりたいこと」を持つのが一番手っ取り早いのですが、そこまでやりたいことがなくても、きちんとステップを踏めば、誰でも、悪循環から抜け出せます。その方法をお教えしましょう。

「放電」と「充電」を棚卸しする

まず、ファーストステップとして取り組んでほしいのは、「自分にとっての『放電』と『充電』を棚卸しすること」です。

「放電」とは、自分のエネルギーを奪う行為や時間のこと。一方、「充電」とは、自分にエネルギーを与える行為や時間のことです。

何が放電で何が充電なのかは、人によって異なります。自分の基準で良いので、次ページの表のように、放電と充電を思いつくまま箇条書きしてみてください。どんなに小さな行為でも構いません。「いつもの電車に乗り遅れた」といった、自分の日常の行動に関することでも、「子供を叱ってしまった」といった周囲の人との関係のことでも、なんでもOKです。

同じ行動でも、突き詰めて考えてみると、「放電」にも「充電」にもなります。例えば、お酒を飲みに行ったとき、記憶が無くなるぐらい飲んでしまい、翌日ひどい二日酔いになったら「放電」ですが、適度な酔いで楽しく飲めれば「充電」でしょう。その場合は、放電と充電の両方に分けて、書いてください。

こうして、放電と充電となる行為を思いつくだけ並べていくと、何が自分にエネルギーを与え、何がエネルギーを奪うのかが、はっきりと見えてきます。 

また、ダメな習慣に見えていた行動も、実はムダではなかった、ということもわかります。何がムダなのかが、鮮明になるわけです。

センターピンを見つけ、それだけに集中する

自分にとっての放電と充電がわかったら、次のステップに移ります。生活の中の放電を少しずつ減らして、充電を少しずつ増やしていきましょう。

すると、生活に充足感が得られて、ダメな習慣をどんどんやめようという気になります。放電をゼロにするのは難しいので、放電1:充電3ぐらいのバランスを目指すと良いでしょう。

もっとも、「すべての放電をやめよう」というように、あれもこれもやろうとすると、必ず失敗します。ポイントは、「センターピン」となる行動を探し出して、それをすることだけに集中することです。

センターピンとは、「そのルールを守ると、全体的に良くなり、自分とっての理想の生活に近づく」習慣のことです。

例えば、「早起きをしたい」という場合、多くの人は「朝6時に起きる」と起床時間を目標にしがちです。しかし、夜遅く寝ていたら、朝早く起きるのは難しいですし、もっと言うと帰宅時間が遅ければ、さらに遡ると、残業していたら、早く寝るのは無理です。そうなると、センターピンは「毎日19時には退社する」と考えられます。

このようなセンターピンを一つ守るだけなら、心身のバランスを崩す恐れが少ないので、取り組みやすくなります。しかし、一つだけでも、きちんと守れば、大きな効果があることに気づきます。放電が減って、充電が増えるのです。

センターピンがわからなければ、「片づけ」「早起き」「運動」のいずれかをするのがお勧め。それを一つ続けるだけでも、生活が良くなることを実感できるはずです。

放電・充電日記を毎日つける

放電を減らし充電を増やす上で、もう一つ効果的なのは、「放電・充電の日記をつけること」です。今日、どんな放電があり、どんな充電があったのかを、寝る前に書き出すのです。

こうして放電を言語化してみると、「今日もこんなことをやってしまったな……」と適度な反省につながり、放電が減っていきます。

一方、充電を見つけ出して、目に見える形にすると、「思ったほど悪い日ではなかった」と気づけますし、「何が自分のテンションを上げるのか」がわかってきます。すると、充電となる行動を積極的に取るようになり、充電が増えるというわけです。

それに加えて、「将来、自分はどういう生活を送りたいのか」という未来日記を書くこともお勧めです。すると、放電を減らして充電を増やそう、という意欲が高まるでしょう。

このように放電を減らして充電を増やしていくと、生活に充足感が出てきて、前向きに毎日が送れるようになります。その過程で、「本当にやりたいこと」が見つかることもよくあります。 

それが見つかれば、ますます放電をやめる気になり、やりたいことが実現できるという好循環に入れるというわけです。

センターピンの見つけ方をお伝えしますので、参考にしてください。

【スマホ・ネットの見過ぎをやめる】

目標:スマホ操作を1日30分に抑える

目安:1カ月

SNSの投稿やニュースをダラダラ見続けるのをやめる場合、「1日2時間までにする」「23時以降はやらない」というように、「時間やタイミングを制限する」のは一つの手ですが、それだけだとあっさり破ってしまいがちです。

センターピンとなるのは、「やりにくい環境を作ること」です。例えば、「アプリをアンインストールする」。あるいは、「SNSを毎回ログアウトする」のも良いでしょう。すると、いちいちログインするのが面倒くさくなり、それだけでも大幅に見る時間を減らせます。まずはそれに集中しましょう。

加えて、「熱中できるスイッチング行動」を見つけられると、より見る時間を減らせます。スイッチング行動とは、その代わりになる行動のことを指します。運動や読書などなんでも構いませんが、「SNSやニュースをダラダラ見ることよりもやりたいと思えること」というのが鍵です。何が自分にとって熱中できるのか、色々と試してみましょう。

【先延ばしをやめる】

目標:重要な仕事を締め切りの3日前に終える

目安:1カ月

提出が必要な書類を溜めてしまう。苦手でついつい後回しにしていた仕事を締め切りギリギリで始める。

このように、仕事を先延ばしにしていると、焦って締め切り直前に取りかかることで仕事の質が落ちてしまったり、最悪の場合、期限を過ぎてまったりします。

この先延ばしをやめるためのセンターピンとなるのは、「ベイビーステップで行動すること」です。例えば、入ってきた仕事に対して、「5分だけ手をつけてみる」といった時間の限定。また、「企画書のタイトルだけ書いてみる」といった難易度の低いことに集中するのも有効です。

我々が先延ばしをしてしまう原因は、遠すぎる完成イメージとそこまでのプロセスを想像し、作業を逆算しているから。その結果、「面倒くさい」「気が重い」という感情が生まれ、それを避けるために先延ばしが発生してしまうのです。

そこで、行動する前に設定する結果を簡単なものにすれば、その「気持ちの重さ」を感じなくて済みます。しかも一度手をつけてしまえば、少しずつ調子が出てくるので、続けやすくなります。

【ムダ遣いをやめる】

目標:月の衝動買いを1万円以下に抑える

目安:1カ月

趣味で使用する道具やファッションの最新シリーズが発売されていることを見つけて、予定になかったのに購入してしまう。

仕事帰りに寄ったコンビニで、毎日のようにスイーツやお菓子を買ってしまい費用が積み重なる。

このような衝動買いをやめるためのセンターピンとなるのは、「使える予算を事前に決めること」です。例えば、必要品を買う財布と衝動買い用の財布を分けて作っておくと良いでしょう。

衝動買い用の財布には、ひと月に抑えたい目標金額のお金のみを入れておきます。

あえて、専用の財布を用意して、リミットを設けることで、節約がはかどるのです。財布を分けておけば、面倒なお金の管理をしなくて済むのも便利です。

最近は、ネットやコンビニなど、すぐにモノを購入できる環境が整いすぎ、誘惑も多くなりました。先々に後悔するお金の使い方をセーブして、少しでも本来目指す目標のためにお金を使ってください。

『THE21』2019年12月号より

古川武士(ふるかわ・たけし)
習慣化コンサルタント
関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。数多くのビジネスパーソン育成・コンサルティングの経験を経て、日本で唯一の「習慣化」をテーマにしたコンサルティング会社を設立。独自の理論をもとに、個人・企業に向けて習慣化講座や行動定着支援を行なう。『力の抜きどころ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか著書多数。(『THE21オンライン』2020年01月15日 公開)

提供元・THE21オンライン

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