「怠惰な多忙」に陥らず、「第Ⅱ領域」の活動時間を意識して増やそう

「人生100年時代」と言われ、働く期間も伸びている現代。活躍し続けるためには、学びも続けなければならないわけだが、40代になると、若手の頃とは学び方を変えなければならないと村山昇氏は話す。どのように変えるべきなのだろうか?

「忙しい」と思う人ほど成長が止まっている

「人は何歳になっても成長できる」というのは、よく耳にする言葉だ。しかし、いざ自分を省みてみると、本当に今も成長し続けているのかどうか、実感を持てない人も多いはず。村山昇氏は、「漫然と生きていれば、誰でもある時点で成長は止まる」と話す。

「若い頃は、会社から与えられた仕事をいかにクリアするか、どう効率的にこなしていくかを必死になって考えて取り組んでいれば、自然と成長することができます。

けれども、社会人になって10年も経てば、仕事をひと通り覚えてしまい、さほど頭を使わなくてもなんでもこなせるようになります。今の自分の力でできることしかやらなければ、当然、成長は停滞します。

ところが多くの人は、成長の停滞期に入ってからも、特に対策を講じようとしません。なぜなら、会社から様々な仕事を与えられ、毎日がそれなりに多忙だから。人は、忙しいと、それだけで頑張っている気になってしまうものです。

これを約2,000年前のストア派の哲学者セネカは、『怠惰な多忙』と呼んでいます。そして、彼はこう書き記しています。

『われわれにはわずかな時間しかないのではなく、多くの時間を浪費するのである。人間の生は、全体を立派に活用すれば、十分に長く、偉大なことを完遂できるよう潤沢に与えられている』(『生の短さについて』より)。

例えば、今、40歳なら、40代の10年間の時間を『立派に活用』した人と、『怠惰な多忙』をむさぼった人とでは、50歳になったときに大きな差がついてしまいます。

前者は、自分の強みや独自の視座を獲得し、組織の中でも『この仕事はあの人でないとできない』と言われるような重要な役割を担える存在になれます。

一方、『怠惰な多忙』で10年間を過ごしてしまった人は、忙しい割には成長できていないので、他の人でもできる仕事しか割り振られません。業績の悪い会社であれば余剰人員と見なされます。また、自らのビジネス人生を振り返ったときに、『本当にこれでよかったのか。自分は何も成し遂げられないまま終わってしまうのではないだろうか』というモヤモヤ感にさいなまれることになります」

40代以降は「在り方」を決めてから学ぶべき

だからこそ、30代後半以降は、自分の成長戦略を自ら練り、学んでいくことが大切になる。

「私はよく『処し方』と『在り方』という言葉を使います。

処し方とは、例えば、『会社から海外赴任を命じられたから英語を勉強する』というように、あるテーマに対してどう処していくかを考えること。在り方とは、文字通り、そもそも自分はどうありたいかを考えることです。

若手の頃は在り方なんて考えなくても、会社から与えられた仕事をどう処理していくかを考えていれば成長できるわけですが、ある一定の年齢に達すると、それだけでは成長できなくなります。また、与えられた仕事だけで勝負しようとすると、自分よりも若い人のほうが頭の回転や記憶力が優れているうえ、新しい物事に順応できるスピードも速いですから、彼らに勝つのが難しくなります。若手と同じ土俵で戦おうとしてはいけないのです。

ですから、ある時点からは、処し方だけではなく、自分の在り方を見つめる必要があるのです」

在り方を見つめるとは、具体的にはどういうことなのだろうか。

「『これから自分がライフワークにしたいテーマはなんだろうか』とか、『自分が生き生きと没頭できるテーマはなんだろう』といったことを考えるのが、自分のありたい姿を見つめることにつながります。

実は私もちょうど40歳前後の時期に、自分の在り方を見つめ直したことがありました。そのときに思ったのは、『東京と地方の2カ所に自宅を持ち、東京では研修講師として、地方では農業をしながら暮らしたい』というものでした。

当時、私は会社員でしたから、これを実現するためには、研修講師として独立を果たす必要があります。そのためには、それまでに培ってきたスキルを体系化したり、著作などの実績を作ったり、また、人脈を作ったりすることが必要でした。田舎暮らしをするうえでの情報収集や現地での人脈作りも大切になりました。

つまり、在り方が見つかると、それを実現するためには何をしなくてはいけないか、どんな知識やスキルを高めなくてはいけないかも見えてくるのです。会社から与えられたテーマではなく、自分で見つけたテーマに取り組んでいるうちに、他の人が持っていない独自のスキルや経験が得られます。

私は、40代からの学びは、若手のときとやり方を変えるべきだと考えています。若いときはビジネスパーソンとしての基本的な知識やスキルを身につけるために、いろんなことを貪欲に吸収することが大切です。しかし40代以降は、在り方を定めたうえで、その在り方を実現するために必要なことのみに、学ぶ内容を絞り込むべきです。

在り方を実現するための学びであれば、たとえそれが大変なものだったとしても、モチベーション高く取り組むことができるはずです」

会社の中にばかりいると視点や発想が広がらない

「自分の在り方を定めることが大事」と言われても、本当にやりたいことやライフワークを見つけることは、多くの人にとってそんなに簡単ではない。

「そうですね。机の前にずっと座って『自分の在り方ってなんだろう』と考えたところで、思い浮かぶものではありません。

私がお勧めしているのは、社外に出ていろんな人と会うことです。

会社というのは非常に同質性の高い集団ですから、その中で1日の大半を過ごしていると、視点や発想が固まってしまいます。

今は副業や兼業がやりやすい時代ですから、例えば起業をしている知人にお願いをして、少しだけビジネスのお手伝いをさせてもらうというのもいいかもしれません。また、異業種交流会やボランティアに参加してみるのもいいでしょう。

社外で出会った人の中には、自分よりもずっと高い視座や豊かな発想を持っている人がいるものです。彼らから刺激を受け、『自分もあんなふうになりたい』『どうすればあんな生き方ができるんだろう』と思うことは、自分の在り方を見つめ直すきっかけになります。そうした体験を重ねる中から、『自分は若い人を育てることに興味があるみたいだ』というように、ライフワークにできそうなことが少しずつつかめてきます。

在り方のヒントが見えたら、そこに向けて、またできることをやってみて、小さな体験を積めばいい。『やってみたけど、ちょっと違うな』と感じたら、軌道修正を図ればいい。そんなことを続けているうちに、会社の中だけにいたときとは異なる考え方や発想ができるようになり、それ自体が学びになります。

また、在り方を考えるときには、自分が所属している会社や携わっている仕事の枠組みの中で考えてみるのもいいと思います。『自分は人間としてどうありたいか』を考えようとしても、漠然としすぎていてまったく思い浮かばない人が多いでしょう。それなら、『会社の中でどうありたいか』や『今、携わっている仕事を通して、何を成し遂げたいか』を考えればいいのです」

グーグルが実践する「20%ルール」とは?

難しいのは、自分の在り方を考え、そこに向けて経験をしてみることが大切であることがわかったとしても、人はつい目の前にある仕事に追われてしまい、その他のことは後回しにしてしまいがちだということだ。

「スティーブン・R・コヴィー氏は『7つの習慣』(キングベアー出版)の中で、縦軸に重要度、横軸に緊急度を取った時間管理のマトリックスを示したうえで、『どんなに忙しくても、第Ⅱ領域(緊急ではないが重要なこと)に携わる時間を必ず確保するようにしなさい』と述べています。在り方を考えたり、実際に行動してみたりすることも、第Ⅱ領域に属することです。

これを企業で実践しているのが3Mやグーグルです。

両社とも、十分に利益を出せる製品やサービスを既にいくつも手がけています。しかし、現状に満足していたら、さらなる成長は望めず、逆に後退するばかりになってしまいます。

そこで、3Mは15%ルール、グーグルは20%ルールを設けています。これは、勤務時間の15%ないし20%を自由に使っていいというものです。社員を第Ⅰ領域(緊急で、かつ重要なこと)の仕事に埋没させず、第Ⅱ領域に取り組ませるための仕組みと言えます。

そして、両社とも、このルールの中から新たな製品やサービスを数多く生み出しています。

個人も同じです。さらなる成長を望んでいるのなら、15~20%の時間を第Ⅱ領域の活動に注ぎ込みたいところです」

「守」を脱して「破」や「離」を目指そう

日本の伝統芸能の世界には、「守・破・離」という言葉がある。「守」とは基本の型を身につける段階のこと。「破」は、身につけた型を応用したり、改良を加えたりする段階。そして「離」は、それまでの経験や学びを統合して、独自の世界を打ち立てることを言う。

村山氏は、30代後半から40代以降は「破」や「離」を目指してほしいと話す。

「ビジネスパーソンで言う『守』とは、会社が設定した目標や仕事のやり方に沿って、その中で成果を上げていく段階のこと。

『破』は、例えば、会社が掲げた目標に対して、『その延長線上に会社の未来はないのではないか。もっとこうしてみたらどうか』といった提案ができる段階のことです。こうした人は、会社を変革できる存在になり得ます。

残念ながら、40代になっても、『守』の段階で成長が止まっている人が多くいます。『守』を脱して『破』に達するためには、先ほどもお話ししたように、社外に出て色々な人と出会い、様々な活動をする場面を増やすことです。会社の価値観とは違う価値観に身をさらすことで、それまでとは違う視点から自分の会社を見られるようになるからです。

自分たちは常識だと思っていることが、社外の人からは非常識に見えることは珍しくありません。会社の中にいると、そのことになかなか気づけないものです」

その次の段階の「離」は、ビジネスパーソンで言えばどういうことか。

「文字通り、今の会社や仕事から離れることです。

『自分はこれをライフワークにしたい』という在り方が定まっていて、なおかつ、その在り方を実現できるだけの知識やスキル、能力も既に備わっているなら、今の会社や仕事に留まる必要はありません。その在り方を実現できる生き方や仕事にシフトできます。

ただ、私は必ずしも会社を辞めることを勧めているわけではありません。自分がライフワークにしたいことを、新規事業のような形で、会社の中で取り組むことができるなら、むしろ会社に残ったほうがいい。ヒト・モノ・カネの資源を会社から提供してもらったうえで、自分の在り方を実現できるわけですから、こんなに幸せなことはありません。

しかし、それが難しいのであれば、起業や独立という選択肢もある、ということです」

40代以降になると、もう一つ考えておかなくてはいけないことがある。

「人間はいくつになっても成長できるとはいえ、若いときのように、なんにでもチャレンジできるわけではありません。歳を取ると、身体のムリが利かなくなりますし、病気がちにもなります。

そこで、『成長』とともに意識してほしいのが、『成熟』です。

成長には、育ち盛りの子供のように、これまでできなかったことがどんどんできるようになっていくというイメージがあります。一方、成熟には、新しい物事が何かできるようになるわけではないが、今、取り組んでいることの中身を濃くするというイメージがあります。

実際に成熟するのは50代や60代に入ってからですが、40代はその準備をする期間にあたります。流行り廃りのあるテーマをあれこれと表層的に追いかけるよりも、いつの時代になっても必要とされる普遍的なテーマを自分の中に定め、そのことについての知識を得たり、思考を深めたりすることが大切になります。成長とともに、成熟も遂げられる人になることを目指してください」

《取材・構成:長谷川 敦 写真撮影:長谷川博一》
《『THE21』2020年1月号より》

村山 昇(むらやま・のぼる)
キャリア・ポートレートコンサルティング代表
組織・人事コンサルタント。概念工作家。1962年、三重県生まれ。86年、慶應義塾大学経済学部卒業。プラス〔株〕、日経BP社、〔株〕ベネッセコーポレーション、〔株〕NTTデータを経て、2003年に独立。1994~95年、イリノイ工科大学大学院Institute of Design研究員。2007年、一橋大学大学院商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書多数。(『THE21オンライン』2020年01月20日 公開)

提供元・THE21オンライン

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