転職したい人にも、そうでない人にも不可欠!

終身雇用が当たり前ではなくなり、転職という選択肢が一般化した時代だが、転職市場での自分の価値を高めるためには、どのような働き方をすればいいのだろうか? 転職希望者はもちろん、転職を考えていない人も知っておくべき、そのポイントを、ハイクラス人材の転職サービスなどを提供している「iX」の統括編集長・清水宏昭氏に聞いた。

今もらっている給与で、自分の市場価値は判断できない

転職市場における自分の価値を客観的に判断できている方は、私の体感では、2~3割もいないと思います。多くの方は、実際よりも高く見ています。

自分の市場価値は、今もらっている給与を基準にして考えてしまいがちですが、給与というものは「曲者」です。ビジネスの構造上利益率が高く、全体として給与水準が高い業界の会社に勤めていれば、自分の給与も高くなります。その給与は、個人の能力に対する評価とは言えません。

逆に、実際よりも低く、自分を評価している方もいます。専門職や研究職に多いのですが、「自分の能力は社外では役に立たない」と思い込んでいるのです。

例えば画像解析の研究者は、確かに10年前や20年前なら、採用したいという会社は多くありませんでした。「この会社にしか仕事はない」と思い込んでも仕方がなかったかもしれません。しかし今や、自動運転をはじめ、様々なビジネスで画像解析技術に注目が集まっており、その研究者は引く手あまたです。

他の専門領域についても、同様のことが起こっていますし、これからも起こっていくでしょう。

あなたのテクニカルスキルは、どこまで「ポータブル」か?

では、転職市場における市場価値は、どのようにして決まるのか。私は、「テクニカルスキル」「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」の3つで決まると整理しています。

テクニカルスキルとは、業務を遂行するために必要なスキルのことです。

皆さんが経験されてきたように、ある会社に新卒で入社し、自分が担当する仕事を与えられたら、それをするために必要なスキルがあります。そのスキルは、会社が研修を行なったり、上司や先輩が教えてくれたり、あるいは自分で試行錯誤したりして、身についていきます。これが、テクニカルスキルです。

市場価値を高めるために重要なのは、テクニカルスキルの中でも、ポータブルなものです。ポータブルとは、他の会社や業界でも通用するということ。ある会社でしか使えないテクニカルスキルは他社では評価されませんし、ある業界でしか使えないテクニカルスキルは、他の業界では評価されません。

例えば、紙媒体に記事を書く記者のスキルは、ウェブ媒体に記事を書くことにも使えますから、その点ではポータブルなテクニカルスキルです。しかし、記者から全く別の職種に転職しようとしたら、自分の持っているテクニカルスキルがその職種においてどのように活かせるか検討する必要があります。

また、かつてガラケーが普及した時期には、ガラケーのプログラミングの技術が非常に高く評価され、数多くの企業から求められました。しかし、スマホが台頭し、ガラケーを使用すること人が以前よりも少なくなった今は、ガラケーのプログラマとして働ける会社は当時よりは少なくなってしまいました。このように、世の中の変化によっても、あるテクニカルスキルがポータブルかどうかは変わっていきます。

実際には、なんらかの工夫をすることで、ある会社で身につけたテクニカルスキルを別の会社や業界にも応用できることが多いのですが、自分のテクニカルスキルがどこまで通用するのかを考えておくことは大切です。

会社は教えてくれないコンセプチュアルスキル&ヒューマンスキル

続いて、コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルについて説明しましょう。

コンセプチュアルスキルとは、戦略を立てたり、企画を立案したりするスキルのことです。つまり、ビジョンを策定し、それと現状とのギャップを分析して、ビジョンの実現のためには何を解決しなければならず、どうすれば解決できるのかを考える能力です。

そして、それを実行するために組織を動かすスキルが、ヒューマンスキルです。

テクニカルスキルを教える体制は多くの会社で整備されていますが、コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルについては、社員にきちんと教育している会社はほとんどありません。事業部長クラスになって、やらなければならなくなったけれども、教えてもらったことがないので戸惑い、前任者などを見様見真似する、というケースがほとんどでしょう。

だからこそ、早い段階から自ら訓練をすることで、自分の市場価値を高めることができます。

では、コンセプチュアルスキルを高めるためには、どうすればいいのか。

「戦略を立てる訓練なんて、若いうちはできない」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、担当している商品の売行きが計画よりも悪ければ、その原因を分析し、どうすれば売上げを上げられるのかを考える。少なくともここまでは、決裁権がなくてもできることです。

こうした思考法について書かれたビジネス書はたくさん出版されていますし、セミナーも多く開講されています。それらを読んだり、受講したりして、実際に仕事の中で実践することも、コンセプチュアルスキルを高めるために有効です。

実際に転職活動をすると、コンセプチュアルスキルの高さは面接でわかります。これまでに関わった仕事で、どのようなビジョンを持ち、それと現状とのギャップをどのように分析して、ギャップを埋めるために何をしたのかを理路整然と話せれば、コンセプチュアルスキルが高いと判断されるわけです。

ヒューマンスキルも同様です。管理職でなくても、チームの一員としてメンバーとのコミュニケーションをうまく取ろうという意識を持って行動することで、高めることができます。

コーチングやファシリテーションのセミナーも数多く開講されていますから、それらを受講して、学んだことを仕事で実践するのもいいでしょう。PMP(Project Management Professional)というプロジェクトマネジメントの国際資格など、資格を取得するのも有効です。

また、人間の心を理解することも重要です。人によって、どうすれば動いてくれるのかは違います。

ヒューマンスキルが高くなってくると話し方などが変わり、雰囲気も変わってきます。それは転職活動の際に面接官にも伝わります。

「どれか」ではなく、3つすべてのスキルが必要

社員を専門職と管理職とに分けている会社もありますが、市場価値を高めるためには、専門職に求められるテクニカルスキルと、管理職に求められるコンセプチュアルスキルとヒューマンスキルの、すべてを高める必要があります。

かつての日本企業は、稼ぐ仕組みをいったん作れば、それを効率的に運用するだけで利益を出せていました。専門職は戦略など考えずに担当業務に専念していればよかったし、管理職は現場の細かい技術的なことはわからなくてもよかったのです。

しかし今は、世の中の変化が激しく、いつまでも勝ち続ける仕組みなど存在しません。稼ぐ仕組みを短期間で作り変え続けなければならない。そのためには、管理職も技術がわかっていなければならないし、専門職もマネジメントができる必要があるのです。

40歳くらいになって転職しようとするなら、実績も不可欠です。ただし、「ビッグプロジェクトに参加していました」ということが重要なのではありません。勤めている会社によってプロジェクトの大きさは変わってきますから、プロジェクトの大きさが個人の能力の尺度にはなりません。重要なのは、テクニカルスキル、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキルを、どのように発揮したかです。

これらを高いレベルで発揮していれば、たとえ過去に参加したプロジェクトが失敗していたとしても、そこから学びを得て、次は成果を上げてくれることが期待できます。転職で重視されるのは、過去の成果ではなく、これから成果を上げてくれるかどうか。そして、そのために必要なスキルを持っているかどうか、です。

また、40歳くらいなら、実際にマネジメントをした経験も重視されます。今は社員の年齢構成が逆ピラミッド型になっている会社が多く、40歳くらいになっても部下を持った経験がない方が少なくありません。そんな中、マネジメントの経験があれば、大きな強みになります。

以上のことは、転職するつもりがない方にも無関係ではありません。先ほどもお話ししたように、勝ち続ける仕組みがない時代ですから、今勤めている会社が10年後も20年後も存在し続けている保証はないのです。意図せずとも、転職を余儀なくされることは十分に考えられます。

既に転職を考えている方なら、転職サイトに登録し、どのくらい声がかかるかを見て、自分の市場価値を判断できるでしょうが、そうでない方は、どのようにして自分の市場価値を判断すればいいのか。

なかなか難しいのですが、一つの方法は、テクニカルスキル、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキルのそれぞれについて、自分は何ができていて、何ができていないのかを、チェックすることでしょう。欠けているところがあれば、それを意識的に補強するべきです。

また、副業やボランティア、NPO活動をするのもいいと思います。自分が持っているスキルが社外でどれだけ通用するのかが実感できますから。

清水宏昭(しみず・ひろあき)
パーソルキャリア〔株〕iX統括編集長
1973年、千葉県生まれ。1998年、立教大学社会学部観光学科を卒業し、〔株〕オリエンタルランドに入社。東京ディズニーランドのスーパーバイザーを経て、マーケティング部へ異動。東京ディズニーリゾートの事業戦略およびマーケティング戦略の責任者として、企画立案から実行までを統括。在任中に、東京ディズニーシー限定キャラクター「ダッフィー」のブランドマネージャーとして、関連売上げを2倍に引き上げる。2015年、〔株〕インテリジェンス(現・パーソルキャリア〔株〕)入社。転職サービス「DODA」(現・「doda」)のブランド力向上や戦略課題の解決を目的としたリブランディング計画の立案・実行・推進と同時に、広報部の立ち上げにも従事。広報部長として戦略的PRに取り組む。2018年より新規事業開発責任者に就任。ハイクラス人材のキャリア戦略プラットフォーム「iX(アイエックス)」を立ち上げる。(『THE21オンライン』2020年01月23日 公開)

提供元・THE21オンライン

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