2020年1月25日、アニメ界のアカデミー賞と称されるアニー賞の授賞式が行われ、日本国内での話題作『天気の子』がノミネートされましたが、受賞には至りませんでした。

海外における日本のアニメ人気が高まるなか、日本の有力作品が多数ノミネートされたにもかかわらず受賞に至らなかった背景について、アメリカとフランスでの評価を参考に解説していきます。

目次

「天気の子」

『天気の子』は、世界的に注目される新海誠監督が、前作『君の名は。』から3年ぶりに発表した最新作です。2019年の邦画興行収入において『天気の子』は年間で140億2,000万円と、第一位を記録しました。全国448スクリーンで公開され、『君の名は。』以来3年ぶりに邦画の興行収入100億円を突破しています。

劇中で登場する廃墟ビルのモデルとなった「代々木会館」は、聖地巡礼スポットとして外国人ファンからも人気を集めるなど、社会現象にもなりました。

2020年1月15日には北米の1,019館でも上映が開始され、新海誠監督の映画『天気の子』が初登場2位を記録し、初日2日間で興行収入3億円を突破しました。その後25日までの10日間で7.2億円を記録するなど、『君の名は。』の勢いを超えた好成績となっています。

アメリカの映画評

米国の各新聞の映画評は上々で、The Wall Street Journalは「新海誠の天気にフォーカスしたロマンティックファンタジーの映像美は、稲妻のような衝撃である」と評価しました。1月17日のL.A. Timesでは紙面の半分以上を割いて『天気の子』を紹介しており「この作品は新海誠がアニメ界における新世代のリーダーの一人であることを確認するものだ」とコメントしました。

ストーリーについては「複雑なうえ、必ずしも効果的でない形で話が行ったりきたりする」とNew York Timesで指摘されたほか、クライマックスは「日本のポップソングを流しつつ、運命や悲恋などいろいろ語ろうとして、ばらばらな感じ」といった辛口の批評も寄せられました。

アメリカで人気のアニメは、スーパーマンシリーズなど、正義が悪を裁くスカッとするような勧善懲悪のストーリーが目立ちます。さまざまなメッセージが込められた複雑なストーリーのアニメは、比較的人気が出づらい傾向にあるため、『天気の子』には上記のような辛口批評が集まったと考えられます。

一方、フランスでは…

フランスでは2020年1月8日から『天気の子』が公開されており、1週目には9万5,545人を動員してこの週のベスト8を記録するなど、『君の名は。』を凌ぐ勢いとなりました。映画評もおおむね好評で、「日本のアニメ界の新たなマジシャンが、エコロジカルな寓話に挑戦。まばゆいほどの美しさ」と評価しています。

その一方で、辛口の批評が寄せられているのも事実です。「壮大な前作と比べると失望させられる。新海は今回再び、災害と恋人たちの再会を扱っているものの、新境地を開拓することはできなかった」といった批評もあり、フランスでは賛否両論のある作品となったことがうかがえます。実際に新海監督自身も、『天気の子』について「賛否が分かれる映画になった」と発言していることから、批判も想定内といえるかもしれません。

とはいえ、フランスでは、アニメは子どもだけでなく大人も観ることが前提にあるため、過度なエンターテイメント性やわかりやすさを念頭に置く必要はないとされています。そのため、アメリカと異なりストーリーのわかりにくさで批判されることはなく、日本のアニメのオリジナリティや映像的技巧は高く評価されています。

「アニメ界のアカデミー賞」受賞逃す

優れたアニメ作品や監督に贈られるアニー賞の授賞式が1月25日、アメリカ・ロサンゼルスで開催され、日本からは2019年に公開された『天気の子』『若おかみは小学生!』『プロメア』の3作品がノミネートされていました。

いずれも日本国内でのヒット作・話題作であり、『天気の子』は海外でも興行が好調でしたが、3作品とも受賞には至りませんでした。作品賞をはじめ7部門を受賞したのは、スペインの『クロース』で、このほかにもフランスの『亡くした体』がインディペンド作品賞を受賞しており、どちらもNetflixが独占配信したオリジナル作品です。

近年では海外の長編作品は劇場ではなくNetflixのような配信プラットフォームで流通しているため、日常的に接触しやすい形になっています。そのため、観客にも馴染みがあり評価も可視化されている作品と、審査段階で初めて目にする作品である時点で、すでに差がついてしまっていたことも、受賞に至らなかった一因と考えられます。

日本のアニメの独自性には熱狂的なファンがいることも事実ですが、世界の賞レースで勝ちを取るためには、さらなるテーマ性の獲得が重要となるでしょう。日本のアニメは、漫画を原作として人気を拡張してきた歴史があります。しかし今後は原作抜きで、海外にも通用する普遍性を備えたテーマを、いかにストーリーへ反映できるかが鍵となるでしょう。

まとめ:日本アニメファンを惹きつける旅行コンテンツの充実へ

日本のアニメはNetflixなどの配信プラットフォームでも展開されており、さらなる認知拡大が見込まれます。アメリカとフランスにおける『天気の子』への反応の違いからもわかるように、各国で「ウケる」テイストは違い、各国の中でも好みはさまざまであるといえます。

インバウンド市場では、基本的には「日本が好き」な人が顧客となります。世界的に評価が分かれたとしても、それぞれの作品のファンがいると考えられるため、こうした層に響く聖地巡礼などの旅行コンテンツをしっかり理解し、おもてなしに繋げるのが効果的です。

アニメの聖地巡礼をPRする際には、地域の名所や特産品なども楽しんでもらえるよう、広域観光ルートの造成や公式ツアー商品の開発、多言語でのSNSを通した情報発信などが求められます。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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