わらしべ長者的キャリアの「3つの極意」
金融、物流、マーケティング、さらには教育と、まったく異なる分野でキャリアを重ね、グロービス経営大学院客員教授として教壇にも立つ伊藤羊一氏。著書『1分で話せ』は35万部のベストセラーになった。そんな伊藤氏が実践してきた「わらしべ長者的キャリア」とは?
※本稿は、伊藤羊一著『やりたいことなんて、なくていい。』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
わらしべ長者的キャリアの極意 1.クオリティを徹底的に上げよ
私のキャリアは、must を積み上げ、その場その場で「たまたまやらなければならないこと」をやってきた結果、なんとなく形になったもの。
これが、「わらしべ長者的キャリア」の本質です。
ただ、「その時々で与えられた仕事に全力を尽くせ」「そうすれば勝手に次のステップは見えてくる」と言うだけでは、あまりにも漠然としたアドバイスですよね。
そこで、私が経験から学んだ「わらしべ長者的キャリア」を築くための3つの極意を説明していきます。
まず当然ですが、仕事のクオリティは高くなくてはいけません。
プロフェッショナルの仕事として、相手が認めてくれる、顧客のためになる、一緒に仕事をする人の成長につながる……そういう仕事をしよう。
プロフェッショナルとして、恥じないスキルを持ち、アクションをしよう。
このような意識がなければ、そもそも成果を出すことは難しいでしょう。
クオリティを上げるために、私の経験から言えることは、繰り返しになりますが、とにかく現場でリアルな経験を積み上げること。
その上で、もう1つ重要なのは、その貯まっていったリアルな経験を抽象化、ノウハウ化して人に伝える訓練をすることです。
もちろん、本を読んだり人の話を聞いたりして、はじめからきれいなノウハウを学ぶことも悪くはありません。ただし、それだけでは、使えるノウハウにはなりません。
やはり重要なのは実践を通しての経験。
そして、その自分の経験を、うまく解釈して言語化し、人に伝えていくと、それはとても優れたノウハウになっていくのです。
経験を積み、自分の経験に基づいて語るならば、そのコンテンツのレベルは、自分の経験を積めば積むほど、高まっていくわけです。
アウトプットを意識して、徹底的にインプットすると言っても良いかもしれません。
私の場合で言えば、プレゼンテーション、リーダーシップ開発。
いずれの場合も、リアルな事例に大量に触れる機会に恵まれました。
事例を積み重ね、それを抽象化してコンテンツにしていくことでクオリティがどんどん上がっていったのです。今でもどんどん、成長している実感があります。
そしてこれは、別に私に限らず、誰にでもできることのはずです。
なぜなら、誰にでもリアルな現場、すなわち目の前の仕事があるから。そこで多くの事例を経験しながら集めていけばいいのです。
コンテンツのクオリティを上げるということは、言い換えると、「現場に触れまくる」ということでもあります。
ただし、一生懸命仕事をして、現場で経験を積みまくっていても、事例を集めたところで終わってしまっている、という人が意外と多いものです。
そんな人は、「So what?」と自分に問いかける習慣を身につけましょう。
「So what?」とは、「それで?」とか「つまり、どういうこと?」という意味。
経験を積んだ上で、自分自身に「それで?」「つまり、どういうこと?」と問いかけることで、自分なりの一般論、教訓を導く機会を意識的に設けるということです。
私は、プレゼンテーションにしても、リーダーシップ開発にしても、人前で話す機会、つまりアウトプットの機会を繰り返す中で、この「So what?」を自分自身に問いかけるようにしました。
「So what?」と自分に問いかけ、たくさんある事例を考え直し、「これとこれは同じことだ」「この事例とこの事例からこんな教訓が引き出せる」といった一般化をすることによって、他人に伝わるコンテンツになります。
まず、現場に触れまくって経験、事例を自分の中に蓄積する。そして、アウトプットの機会を設けて「So what?」で経験を一般化し、コンテンツ化し、他人に伝える。さらに現場に触れて、経験し、「So what?」でコンテンツのクオリティを上げていく。
クオリティを高めるためには、このサイクルが必要不可欠です。
アウトプットの機会は、人に教える、講演や勉強会での発表などに限らず、同僚との対話でもいいでしょう。
何かしらの形でいいので、このアウトプットとインプットのサイクルを回していくことが、最終的な仕事のクオリティを上げる上でポイントになるのです。
わらしべ長者的キャリアの極意 2.常に人を驚かせよ
「わらしべ長者的キャリア」の2つ目のポイントは、他人を驚かせること。
仕事のクオリティを上げた上で、今度はそのクオリティによって相手が驚くような「特異点」をつくってアピールしましょう。
自分自身で「これはよくできた」と思う仕事をするだけでなく、他人にインパクトを与えられると、口コミで人に伝わり、そこから次のステップに仕事が広がっていったりするからです。
私が「驚かせること」の重要性を最初に感じたのは、「KDDI∞Labo」というスタートアップ支援プログラムで、プレゼンの稽古をしたときのこと。
このとき頼まれたのは、スタートアップの起業家たちへのプレゼン稽古。私の仕事はデモデー(発表会)1週間前の、講義と個別の稽古です。
ところが、講義と個別の稽古を終えて、デモデーが前々日に迫ったときのことです。彼らに状況を聞いたところ、「全然うまくいかない」と言うのです。みんなそれぞれにプレゼンの練習をして、クオリティを高めようとしてはいるのに、どうにも思うようなプレゼンにならない、と。
そこまで言うなら、と私はデモデーの前日、たしか日曜日だったと思いますが、「本番に向けての練習をやろう」と呼びかけて起業家たちを集めました。
もちろん、事務局からは何も頼まれていません。私の自主的な活動です。
この前日の練習で、彼らのプレゼンのレベルはぐんと上がりました。
その結果、翌日のデモデーは大成功し、プレゼンも好評を得てプログラムを終えることができました。
事務局はびっくりしたようです。講義と個別の稽古を1週間前に頼んだら、デモデーの前日に自主的に練習をしてくれた。しかも、本番を迎えたらプレゼンのレベルが明らかに上がっていたからです。
私からすると、彼らのプレゼンのレベルを上げることが自分の責務なのだから、「なんとかしなくちゃ」と思ってやっただけのこと。
けれども、相手は驚き、喜んでくれたのです。
「100%とか120%の成果を出すだけじゃダメで、200%ぐらい、ドーンと成果を出さなければダメなんだ」
そう気づいた瞬間でした。
これは極端な例かもしれませんが、とにかく、相手が驚くくらいのことをやる。
その意識は今でも私の心に根付いています。
実際、その後、「KDDI∞Labo」でプレゼンのレベルがそれまでより圧倒的に上がったというのが口コミで広がり、他のプログラムでもトレーナーとして呼ばれるようになりました。
「そうか、びっくりすると、人はそのことを誰かに話すんだな」
これも、このとき気づいたことです。
ここまで聞いて、ハードルが高いと思われた方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
基本的には、仕事のクオリティを上げまくっていけば、相手がびっくりするポイントは何かしらできます。そこで突き抜ければいいのです。
つまり、わらしべ長者的キャリアの極意1「クオリティを徹底的に上げよ」を追求していけば、自然と極意2にもつながるのです。
ただ、1つ意識しておかないといけないことがあります。
「自分なりにがんばる」ことだけを考えるのではなく、「他人はどうされると嬉しいか」を考え、きちんと理解することです。
先の例で言えば、事務局は参加者のプレゼンのレベルが上がれば嬉しいわけです。
この意識を持って、どうすれば喜んでもらえるかを徹底的に詰めていく。
すると、相手(ユーザー、顧客など)が喜ぶことがわかってくるので、びっくりするポイント、特異点が自然と生まれます。
そして、仕事のクオリティによって他人を驚かせることは、口コミにつながり、よりいっそうチャンスを増やしてくれる。これがこの経験を通じて私が学んだことです。
わらしべ長者的キャリアの極意 3.食わず嫌いせず、何でも引き受けよ
最後のポイントは、「頼まれた仕事は、まずは全部引き受けること」。
非常にシンプルですが、とても大事なポイントです。
口コミであなたの評判が広がれば、仕事を頼まれる機会は自ずと増えていきます。
「やってみないか」「やってくれないか」と言われた仕事は、損得勘定を考える前に、まずは断らずに全部やってみるようにしましょう。私は、そうしてきました。
食わず嫌いをせずに、何でも引き受けているとどうなるか。
「あの人は、頼めば引き受けてくれる」という評判がまた広がり、さらに頼まれやすくなります。
誰しも経験があるでしょうが、「あの人、引き受けてくれるかなあ」「渋い顔をされたりしないだろうか」などと、心配になる相手には頼みごとをしづらいものです。
これに対して、何を頼んでも「喜んで!」と引き受けてくれる相手には頼みやすいもの。当然ですね。
ですから、最初はできるだけ「頼みやすい人」と評価されるよう、頼まれるハードル自体を普段から下げていくことをおすすめします。
私の経験上、何でも引き受けていると、さらに色々なことを頼まれるようになります。
すると、よりいっそう、多様な経験を蓄積していくことができるようになる。色々なボールを貯めることができるようになる。
現場に触れまくることによって、仕事のクオリティはますます上がっていく……。
先に話した「インプットとアウトプットのサイクル」が、自分でも気づかないうちに「高速化」していくこと、間違いありません。
もちろん、それを続けていると、パンクするまで引き受けることになります。それでも引き受けていると、生産性を高めないと続かないので、どんどん仕事の質が上がっていきます。
それでも引き受けていると本当にパンクするので、そのときはじめて、仕事を取捨選択していけばよいのです。その頃には、その判断がつくくらいにはクオリティが上がっています。
以上、「わらしべ長者的キャリア」の説明をしてきました。
「やりたいこと」や目標、志はあれば素晴らしい。
けれども、なくたって大丈夫。
そのかわり、足元の仕事を120%の力でやる。
これが、私なりのキャリア論のスタート地点です。
目の前の仕事を徹底的にやれば、リアルな経験がどんどん貯まっていく。
経験を貯めていった先で「突き抜ける」ことができるのです。
具体的な努力の仕方としては、「わらしべ長者的キャリア」の3つの極意、「クオリティを徹底的に上げる」「常に人を驚かせる」「食わず嫌いせず、何でも引き受ける」ことを心がけてみてください。
すると、より幅広く、より深い経験を貯めていくことができるはずです。
そして、徹底的に貯めていった経験は、自分では想像もしていなかったキャリアを開いてくれます。私自身、そもそもこうしてキャリア論を語っている自分なんて、想像していませんでした。
やりたいことはなくていい。目標もはっきりしていなくていい。そのせいでモヤモヤすることもあるでしょう。私もさんざんモヤモヤしてきました。
モヤモヤしながらでも全然構いません。目の前の仕事で経験を貯めましょう。まずは、そこからです。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月09日 公開)
提供元・THE21オンライン
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