【日本経済分析②】日本人の給料が上がらないワケ ~逆ケインズ問題~

2020.2.12
ビジネス・キャリア
(画像=Getty Images、The Motley Fool Japanより引用)
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2013年4月から始める現黒田日銀の政策はどのようなものだったのでしょうか?

以下で、そのことを説明しますが、その過程で金融政策の背後にある理論や、浮かび上がってきた構造的な問題である「日本人の給料が上がらない」ことの理由も解説していきます。

2013年4月、量的・質的金融緩和開始

2013年1月、日本銀行は初めて物価の目標を消費者物価指数の前年比上昇率2%と設定し、2年程度の時間的視野を念頭に置いて、できるだけ早期に実現することを明示しました(インフレ・ターゲティング政策)。
 
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(画像=表3:総務省統計局より執筆者作成、The Motley Fool Japanより引用)
インフレ・ターゲティング達成の主な手段として2013年4月、日銀はQQEを実施しました。

当時、理論的には長期国債の購入で(リスクプレミアムが低下し)長期金利が低下し、物価に波及すると考えられました(メカニズムの詳細は、第一弾の「②資産買い入れ」)。

また、物価上昇と金利の低下から円安になると考えられていました(円安になると日本経済は良くなります)。

2013年4月以降、実際に市場は円安に動き、2013年度の1年間は2020年の東京オリンピック開催決定や2014年の消費増税による駆け込み需要もあり、円安・株高(表4)となり同年度の実質GDPも前年度比+2.65%(表5)、消費者物価指数(除く生鮮食品、表3)も2014年4月が月次ベースで+2.2%になっていました。
 
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(画像=表4:日経平均株価は日経プロフィルより、実質実効為替レートは日本銀行より執筆者作成、The Motley Fool Japanより引用)
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(画像=表5:内閣府より執筆者作成、The Motley Fool Japanより引用)
つまり2013年度の金融政策は低金利と円安をてこにしたインフレ率の上昇を意図したもので、(一時的に)上手くいったのです。

しかし、インフレ率の持続には労働市場における賃金の上昇がなければ目標のインフレ率を達成しても実質賃金が低下してしまいます。

つまり、モノの値段だけ上げても、それを購入するためのお金(賃金)がなければ、みんなモノを買えなくなり、物価が低下してしまうのです。

2014年には消費増税が実施され、実質賃金の低下に拍車がかかり経済成長は鈍化していきました。

さて、以下では2013年4月から始まったQQEの結果を振り返り、「デフレの問題点」、「インフレ目標2%の合理性」、「なぜ日本人の給料(賃金)は上がらないのか」について解説していきます。

なぜデフレは問題?

日銀の政策(2013年~)は「デフレ脱却」から始まりました。

そもそもなぜデフレは問題なのでしょうか?

結論から言うと、「経済が成長しないから」です。

一般的な経済学の考え方では「実質金利=名目金利―インフレ率」というフィッシャー方程式と呼ばれる理論があります。

フィッシャー方程式に照らして考えると、デフレ(つまりインフレ率がマイナス)になると実質金利に対してプラスに影響するようになります。

つまり、「いくら名目金利を0%まで引き下げても、デフレが起きると実質金利がプラスに高止まりしてしまう」のです。

ちなみに、日銀は名目金利だけを操作できるのですが、経済では「実質(物価)」を考えなければいけません。

したがって、デフレが原因で実質金利が0%まで下げられず、企業は金利が高くて資金調達を躊躇してしまい、その結果、経済(GDP)が成長しなくなるのです。

つまり、まとめるとデフレは以下のメカニズムで経済に悪影響を与えます。
 
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なぜ目標物価上昇率が2%なの?

上述したようにデフレはフィッシャー方程式を通じて実質金利を高止まりさせてしまいます。

そこで、日銀は物価目標を2%に設定しました。

なぜ、「2%」なのでしょうか?

現実的な理由は大きく2つあるように思われます。

他国も「インフレ率2%」が目標だから

世界の主要中銀(FRBやECBなど)がインフレ率2%を目指している中で日本だけがその水準より低いと、購買力平価原理を通じて円高になるため(円高になると日本経済は悪くなります)、他国と横並びの物価目標を掲げる必要があります。

ECBは2014年6月に主要中銀で初めてマイナス金利を導入し、中期的な物価安定の目標を「消費者物価指数(HICP総合)が前年比2%未満かつその近辺」という目標を掲げデフレを脱却しました。

また、世界経済の景気減速が見込まれる中、2019年6月に緩和路線を夏以降も継続する方針を明らかにしました。

さらに、11月から就任したクリスティーヌ・ラガルド総裁も緩和路線を継続しています。

金融緩和余地を作る

やや高め(2%)の水準にインフレ率を設定しておくと、将来の不況時に緩和する余地を作れるという利点があります。

2019年9月・10月、FRBは数年にわたる段階的な利上げから、利下げに転じました。

利下げの必要性は6月初旬から議論されていましたが、将来の景気悪化時に利下げ余地がなくなってしまうことから利下げを躊躇していました。

このように、利下げ余地確保のためのインフレ率2%目標はコンセンサスになっているように思われます。

では理論的に物価上昇率2%は妥当なのでしょうか?

嶺山・平田・西崎(2019)による「ニューケインジアン・モデルを用いたインフレと社会厚生に関する分析:日米を事例に」では、社会厚生を最大化するインフレ率は日本において年率1.9%であると結論付けられました。

また、日銀がフォワードガイダンスを行うとインフレ率は年率1,6%で社会厚生が最大化されると述べられていました。

以上から現在のインフレ目標は妥当であると考えられます。

日本人の給料が上がらない理由【逆ケインズ問題】

最近、各経済メディアでは「日本人の給料は上がらない」と騒がれています。

本当にそうでしょうか?
 
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(画像=表6:名目賃金上昇率は毎月勤労統計より、物価上昇率は総務省統計局より執筆者作成、The Motley Fool Japanより引用)
表6は私たちの給料がどの水準で推移しているのかを表しています。

直近の2019年11月時点では、「前年比0.1%」とマイナス圏まで実質賃金が落ち込みそうになっています。

この日本の実質賃金は先進国の中でも最下位レベルとなっており、物価目標が達成できない構造的な問題はここにあるのです。

そこでなぜ賃金が上昇しないのかについて、論文を用いて解説していきます。

尾崎達哉らによる2019年に発表された論文「賃金上昇が抑制されるメカニズム」では、結論として、日本人の給料が上がらない原因が「中高年の雇用流動性の低下」にあると結論付けられています。

具体的には、賃金が上方硬直的(上がらない状況)になっている現在の日本経済について、「40代から50代の男性が働くうえで自分が欲しいと思う給与(適正賃金)」よりも給料が低いにも関わらず、転職をせず会社に居続けるという「雇用流動性の低下」と、企業側の「所定内給与・賞与ともに引き上げない姿勢」が検証されました。

この研究では給料に占めるウエイトが約20%もある賞与(ボーナス)について、景気でどの程度変動するか検証を行ったところ、1年を前半後半に分けて、前半で利益率(売上高営業利益率)が1%減少したときに後半でのボーナスが4~5%削減されることが分かりました。

一方で、利益率が1%増加したときに後半でのボーナスが1~2%しか上昇しないことが分かりました。

全く同じことを以下にまとめてみます。
 
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(画像=The Motley Fool Japanより引用)
つまり、転職をあまりしない40~50代の一般労働者は、所定内給与が適正賃金を下回っていることを許容しているうえに、賞与の非対称性も受け入れていることになるのです。

そこで企業は40・50代が適正賃金よりも実際賃金が低くても企業にとどまることが(経験的に)分かっているので、あまり給料を引き上げないという実態があります。

したがって、この研究では「中高年の雇用流動性の低下」が企業側に所定内給与・賞与ともに抑制させている原因であると述べられています。

まとめ:給料を上げれば物価が改善する

このように物価目標が頓挫している大きな原因は実「賃金が上方硬直的(上昇しない)」であるところにあります。

英経済学者ジョン・メイナード・ケインズ氏は「賃金の下方硬直性」を唱えました。

それにちなんで本記事では、給料が上がらない日本の現状を「逆ケインズ問題」と名付けます。

第3弾では「マイナス金利」について解説していきます。

そして、マイナス金利政策の過程で、最近のメガバンクの「送金手数料引き上げ」のような銀行ビジネスの構造的問題、また、金融政策の行き詰りを解説します。

文・しゅーと/Shuto/提供元・The Motley Fool Japan

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