一流コンサルタントのラクして成果を上げる考え方

社会構造やテクノロジーの進化によって、私たちの働き方や時間の使い方は変わりつつある。ただ、今はその過渡期にあって、未だに「アップデートしきれていない感」が否めない。それではこれからの時代、キャリアは先細る一方だと指摘するのは一流コンサルタントの山口周氏だ。新しい時代を生き残るために、私たちはどんなことに時間を使えばいいのだろうか。

「時間のラベル」の貼り方を再考しよう

通勤時間を減らす「職住近接」が注目される中、山口氏は郊外に暮らしている。都心に住んでいた頃と比べて、時間の使い方は変わったのだろうか。

「都心に住んでいた頃とあまり変わりませんし、移動の不便も感じていません。通勤時間は、読書や睡眠に充てるので、都心にいた頃より充実しています。

移動時間の単純な比較に意味はありません。問題は、その時間をどう定義するか。『時間のラベルの張り方』なんです。

移動時間は、2種類あります。一つは、自分のいる空間そのものが移動する時間。もう一つは、自分が実際に身体を動かして移動している時間です。1時間半座りっ放しと、職場まで30 分でも乗り換えが多くて歩き通しでは、その間にできることが大きく違います。

言葉だけで捉えると、本質を見誤ります。実際はどんな時間の使い方をしているのか、中身を再考することが大切です」

「逆張り」を意識した効率的な時間の使い方

山口氏は、移動に時間がかかることで、効率的に時間を使う圧力がかかったという。 「今は『本当にこの人と会いたい』という以外は、会食をお断りしています。お酒を飲むと、内容を忘れることもありますし。

また、会議も減らしました。都心へ出かける頻度を下げ、会わなくても済む用事は電話で済ませます。一方で、都心に出るときは、アポイントをひとまとめにするよう調整しています」

一つひとつの案件にも、制限時間を設けている。「ミーティングは、15分か30分。多くの方は、1時間ワンユニットで考えますが、それはナンセンス。時間を短くすれば、議論のポイントをシャープにせざるを得ないので、参加者の当事者意識が高まり、有意義なミーティングができるのです」

また、山口氏はインフラの使い方がカギを握ると指摘する。

「交通機関や宿泊施設といった社会資本にはキャパシティが存在します。それを、みんな同じタイミングで利用すると、有用性が下がるのです。

典型的なのがランチ時のレストラン。同じ時間に全員食事をすると、処理効率が落ちて列に並ぶことになります。

むしろ、みんなが電車に乗らない時間に移動したり、お昼の時間帯を避けて食事すれば、貸し切りのような状態になることもあります。逆張りを意識するだけで、効率的な時間の使い方ができるようになるのです」

正しく「手抜き」をするマインドを身につけよ

ただ、技術が進化したのに、労働時間が一向に減らないのはなぜなのだろう。

「イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは『このまま生産性が上がれば、100年後には1日3時間しか働かない社会がくる』と予言しました。確かに、昔と比べて生産性は上がりましたが、労働時間はあまり変わっていません。価値や意味を生まない、クソ仕事を余計にしているからでしょう」

クソ仕事はどのようにして減らせばいいのだろうか。

「どこまで手を抜いたら、この仕事はストライクゾーン(許容範囲内)を外れるのか。そのギリギリを攻める。

例えば、ミーティングは、2~3回行かなければ、自然と呼ばれなくなります。やりすぎると職場にいられなくなるので見極めが必要ですが。

ちなみに、編集者の箕輪厚介氏と対談した際、彼は『仕事を意識したミーティングはパフォーマンスが落ちる。ワクワクしなければ、ミーティングに行ってはいけない。このままではダメだ!』と言っていました」

山口氏にとって、会社員時代のクソ仕事は経費精算だった。

「タクシー移動が多かったのですが、私はこの精算が大嫌いでした。手帳と突合せながら、どこで誰と何をしていたのかを記載し、計算するだけで半日はかかります。でも、経理部は予定表と行先の突合せをしておらず、金額と行先だけ確認していた。それなら、走行距離と価格帯を対応したデータベースを作ればいいだけで、突合せする必要はありません。これで、半日の作業を20分に短縮できました。

クソ仕事は真面目に取り組むものではありません。なのに、日本人は昔から『辛い方がいい』と考えている気がします。

象徴的なのが、日本で馬車が生まれなかったことです。イノベーションの研究家エベレット・ロジャースは、西洋で馬車が生まれ、自動車へと進化していく中、同時代に日本ではなぜ人が籠を担いで移動していたのか疑問を投げかけています。

ラクして成果を上げるのは悪ではない。そう考えれば、イノベーションも生まれ、労働生産性も向上するはずです。 

成長につながらない仕事をどれだけ嫌がるか。それをどうなくすのか。今後の働き方に、この視点は欠かせないでしょう」

伝説のF1エンジニアが引退した理由とは?

では、クソ仕事を撲滅できたとして、効率化できた時間でどのような仕事をすべきだろうか。

「仕事と遊びの境界戦が曖昧になる中、今後は自分にとって意味のある仕事、ワクワクする仕事に集中すべきだと思います。

逆の例で恐縮ですが、こんな話があります。1980年代末、F1マシンのエンジニアであるゴードン・マーレイが、史上最高と呼び名が高い『MP4/4』を設計しました。異次元に速いマシンを生み出し、ワールドチャンピオンになりましたが、レギュレーションによって使用禁止に。それ以降、協会が規定したルール内でタイムを縮めるよう規制がかかり、これを契機にマーレイは引退しました。最後にこんな言葉を残しています。

『今のF1にはまったく興味がない。風洞実験を2000時間やってラップタイムが1秒縮まったとか、そんなクソ仕事やるくらいなら家でロックを聴いてる方がいい』──。

今はこうした『クソ改善仕事』が横行しています。マーレイはこれに辟易したのでしょう。彼にとって、身の毛もよだつようなすごいアイデアを生み出し、実現することこそが、意味のある仕事だったのだと思います。

そうした仕事に集中することが、今後のキャリアを切り開くヒントになります。今の仕事が、果たして人生をかけるべきものなのか、再考したほうがいいかもしれません」

教養人=高尚な趣味を持つ人とは限らない

一方で、オフの日はどうだろう。山口氏は、休日をどう過ごしているのだろうか。

「オンの日もオフの日も時間の使い方を明確に分けません。仕事をしたり、気持ちが乗らなければ泳いだり、走ったり、車の整備をして遊んだり──を繰り返す「まだらな時間の使い方」をしています。

働くといっても、平日にできる仕事はやりません。私は、短期と中長期で効く仕事の色分けをしていて、平日は短期の仕事をしています。具体的には、会議やミーティング、資料作成、ワークショップデリバリーといったアウトプット系の仕事です。

休日は中長期の仕事で、将来のキャリアについて考えたり、教養を高める時間に充てます。中長期の仕込みをしないと、知的生産の畑が枯れてしまいます」

私たちは、休日を漫然と過ごしてしまうことも少なくない。

「イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは、『怠惰への讃歌』で次のように指摘しています。『働く時間を減らすのは人類に与えられた最大の課題の一つ。では、なぜ減らせないのか。それは教養が足りないからだ』と。

労働時間が減り、自由と閑暇を手にしても、多くの人は何をすべきかわからず、時間を持て余します。閑暇を有意義に過ごすには、教養が必要なのです。

余談ですが、ラッセルは当時アメリカで誕生したビジネススクールについて、次のような皮肉を残しています。閑暇を語源とするschool は本来、暇な時間を知的に使う方法を学ぶ場所のはず。そこに、忙しさが語源のbusinessを結びつけるとは、撞着語法※として、こんなにセンスがいいものはない──。

ただ、高尚な趣味を持つ人が真の教養人であるというわけではありません。自分が楽しめる奥行きのある趣味があれば、その人は立派な教養人です。

ロックンロールも盆栽も、ジャズもぜんぶ教養です。電車の時刻表を見ているだけで幸せ、これも教養です。なんの役に立つのかはわからないけど、ワクワクするから探求する。これでいいのです。そもそも、楽器やスポーツ、哲学や幾何学といった教養は、古代ギリシアで暇つぶしとして発達したものです。

こうした時間の使い方を知っている人は、人生を豊かにできるのではないでしょうか」

※撞着語法:反意語を組み合わせる文学的技法のこと

『THE21』2019年12月号より

取材構成 野牧 峻
写真撮影 まるやゆういち

山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー・ヘイグループ参画を経て独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(光文社新書)『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)などベストセラー多数。(『THE21オンライン』2019年11月08日 公開)

提供元・THE21オンライン

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