リクルートホールディングス(HD) <6098> といえば、就活サイト「リクナビ」やアルバイト求人サイト「フロムエー ナビ」を想い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、バブル世代の筆者はそれとは違った特別な想い入れがある。同社はベンチャー企業として大成功しただけでなく、創業者の故・江副浩正氏の起業家スピリットを受け継ぎ、「リクルートのDNA」を有する数多くの経営者を輩出してきたからだ。

そうした中で注目されるのは、リクルートHDの株価が上場来の高値を更新したことである。今回は日本の「ベンチャー精神の原点」ともいえるリクルートHDを取り上げたい。

リクルートは「大学発ベンチャーの元祖」

1960年、リクルートは当時東京大学に在籍していた江副氏が、東京大学新聞の広告代理店「大学新聞広告社」として創業した。まだ戦後15年目のことであり、大学発ベンチャーの元祖といっても差し支えないだろう。就職情報、住宅情報、フロムエー、ab-road、とらばーゆ、カーセンサー、ホットペッパーなどオリジナルの雑誌媒体を次々に創刊し、広告事業の拡大とともに業績を伸ばしていった。

創業から20年後の1980年代、当時大学生の筆者にとって江副氏はカリスマのような存在だった。年功序列の日本社会にありながら、リクルートは「アイディアをもった若い社員に新規事業を任せる会社」として大変な評判だった。新しい分野に挑戦するアニマル・スピリットに満ちあふれた会社として人気が高く、筆者の周りでも起業指向の強い友人はリクルートへの就職を目指したものである。江副氏は今でいうフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏のような存在だったのだ。

実際、「元リク」と呼ばれるリクルートOBにはUSEN-NEXT HOLDINGS <9418> の宇野康秀氏、リンクアンドモチベーション <2170> の小笹芳央氏、LIFULL <2120> の井上高志氏、ゴールドクレスト <8871> の安川秀俊氏のほか、上場企業の創業者・経営者が多数名を連ねる。多くのベンチャー企業の経営者が「リクルートのDNA」を有しているのだ。

ちなみに、『リクルートのDNA』(角川書店)は江副氏が2007年に自伝的ビジネス書として執筆した本のタイトルである。副題は「起業家精神とは何か」、ベンチャー企業としてのリクルートの誕生秘話や失敗談、ビジネス発展の秘訣などが語られており、「なぜ、成功するベンチャー企業にはリクルート出身者が多いのか?」理解できる良書だ。起業を志す人に、ぜひ一読して欲しい一冊である。

就活戦線解禁、働き方改革がフォローの風

ところで、先週23日にリクルートHDの株価は3000円の大台を突破し、上場来の高値を更新している。5月に入ってからの上昇率は実に19%だ。背景には好調な業績に加えて、大型M&Aを挙げることができる。

6月から本格化する「就活2019」では、過去最高の内定率となった「就活2018」を超える売り手市場が想定されている。リクナビでは企業の登録数のさらなる増大が期待されるほか、国会で「働き方改革法案」が通過する見通しも追い風となった。同法案は副業の後押し、人材の流動化をもたらし、人材マッチングや人材派遣市場の拡大が期待されるからだ。

5月15日、リクルートHDが発表した2018年3月期決算は売上が11.9%増の2兆1733億円、最終利益が11.0%増の1516億円で、いずれも過去最高を更新した。同社は2019年3月期についても売上で5.9%増の2兆3020億円、最終利益0.9%増の1530億円を目指す計画を明らかにしている。

リクルートHDの事業「3つの柱」

ちなみに、リクルートHDの事業は「3つの柱」で構成される。その一つがHRテクノロジー事業だ。HRテクノロジー事業はIndeedを主軸とした人材採用関連事業で、主に海外でのネット経由の人材マッチングだ。Indeedは2012年に約965億円でM&Aをした米求人検索の大手である。2018年3月期の売上は64.7%増の2285億円(売上構成比約10%)と急成長を続けている。

もう一つの柱はメディア&ソリューション事業である。メディア&ソリューション事業の売上はリクナビやフロムエーのほか、住宅、結婚、旅行、飲食、美容などの各部門で構成されている。2018年3月期の売上は3.3%増の6799億円(売上構成比約31%)となっている。

そして3つめの柱が人材派遣事業である。リクルート・スタッフィング社、リクルートキャリア社などを主軸とした人材派遣業で2018年3月期の売上は10.9%増の1兆2988億円(売上構成比約59%)、そのうち7895億円が海外派遣売上だ。

新しいことに挑戦を続ける「ベンチャー精神」

上記の通り、Indeedと海外派遣の売上を合わせた「海外売上」は約1兆円規模(売上構成比約46%)に達しており、いまや海外展開はリクルートHDの重要な成長戦略となっている。

5月9日、リクルートHDは米求人情報検索のGlassdoorを約1300億円で全株を取得し子会社化したと発表した。Glassdoorは2007年設立の会社で、Indeedとは競合関係にある。ただ、Indeedが人材マッチングを主力とする一方で、Glassdoorは口コミによる企業情報のデータベースに定評があり、両社のシナジー効果を想定しているようだ。

過去の成功体験に捉われることなく、グローバルベースで新しい事業への挑戦を続けるリクルート。日本の「ベンチャー精神の原点」がここにある。創業者・江副浩正氏から継承される「リクルートのDNA」は現在も健在だ。

文・ZUU online編集部
 

【関連記事】
ネット証券は情報の宝庫?日経新聞から四季報まですべて閲覧可!?(PR)
ミレニアル世代の6割が「仕事のストレスで眠れない」試してみたい7つの解消法
みんながやっている仕事のストレス解消方法1位は?2位は美食、3位は旅行……
職場で他人を一番イラつかせる行動トップ3
「ゴールドマン、Facebookなどから転身、成功した女性起業家6人