お金では評価されないことを、「感謝」で評価する経済を

私たちが生きている資本主義社会では、いいことをした人が必ずしも報われるわけではない。残念ながら、それが当然のこととして受け入れられている。しかし、Q&Aメディア『OKWAVE』を運営している名証セントレックス上場企業の〔株〕オウケイウェイヴは、いいことをした人に「感謝」を送り、その「感謝」のやり取りで成立する「感謝経済」を実現させようとしている。いったい、どうやって実現するのか? 同社社長・松田元氏に話を聞いた。

感謝の気持ちをトークンで送り、トークンでモノやサービスを買う

――御社が目指している「感謝経済」とは、どういうものなのでしょうか?

松田  仮想通貨交換業の登録ができれば、ブロックチェーンを使って「OK-チップ」というトークンを発行し、まずは当社が運営しているQ&Aメディア『OKWAVE』の中で、その流通量を最大化したいと考えています。『OKWAVE』のユーザー同士が、いい質問やいい回答をした人に、感謝の気持ちとしてOK-チップを送り合うのです。そして、次の段階として、実社会にある様々なお店などで、OK-チップを使ってモノやサービスを購入できるようにしたい。つまり、他の人から感謝される人が豊かになる仕組みを作ろうということです。これが、感謝経済です。

現状では疑似トークンのOK-チップを使っていますが、既に『OKWAVE』のユーザー同士が送り合えるようになっています。昨年11月から、その疑似トークンのOK-チップで、文科省の「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」への寄付ができるようになりました。これは、OK-チップを実社会で使えるようにした例の一つです。

――『OKWAVE』には、OK-チップを送り合う機能が実装される前の2015年に、感謝の気持ちをビットコインで伝える機能が実装されたことがあります。

松田  もともとの発想は、例えば、「『OKWAVE』で質問をしたらブラジルの人が答えてくれたので、お礼として10円を送りたいと思っても、できない」という問題を解決したいというところから来ています。10万円なら送れますが、10円を銀行で送金するのは非現実的です。そこで、ビットコインを送れるようにしたのです。

しかし、ビットコインは実績のある仮想通貨ですが、コストが高かったり、送金が詰まることがあったりと、様々な問題もあります。また、歴史があるだけに、これまでのトランザクションが膨大で、送られた背景を追うことができません。

感謝の気持ちを送るトークンとして使うには、「どういうときに、誰に対して、どれだけの感謝を感じて送られたのか」という、送られた背景となる定性情報が記録されていることが必要です。そのようなトークンとして、OK-チップの発行を考えているのです。

――御社が発行したOK-チップは、最初は誰の手に渡るのですか?

松田  現状では、毎週、『OKWAVE』のユーザーに付与しています。付与されたOK-チップは、そのままでは何にも使えません。人に送ることによって初めて使えるようになり、もらった人はOK-チップを使って、賛同企業が提供する優待を利用することができます。

当社では「ありがとうデータベース」と呼んでいますが、『OKWAVE』上での質問と回答のやり取りが、これまでに約4,700万件蓄積されています。これを、OK-チップの発行上限にするつもりです。

――『OKWAVE』外の実社会でもOK-チップを使うようになったときは、どうするのでしょうか?

松田  ブロックチェーンを使うと、一定の条件を満たした場合にだけ、トークンを使えるようにすることができます。現状では、他の人に送った場合にだけOK-チップが使えるようにしているのですが、実社会では、もっと緻密に条件を設計する必要があるでしょう。

――『OKWAVE』のユーザーにOK-チップが付与されるというのは、実社会で使うようになっても変わらない?

松田  そうです。『OKWAVE』の中で行なわれているのは「対話」です。教育も、キャリアアップも、結婚も、実社会のサービスはすべて対話ですから、『OKWAVE』と同じように、OK-チップが使えるはずです。

――他社のサービスの中でもOK-チップが利用されることがあり得るということ?

松田  そうなればいいな、と思っています。

『OKWAVE』以外でOK-チップを使っていただく場として既にあるのは、自社サービスですが、昨年9月に提供を始めた『OKWAVE GRATICA』です。これは企業などの組織の中で、そのメンバー同士が感謝の気持ちとしてOK-チップを送り合うものです。

――『OKWAVE GRATICA』のユーザーの反応はいかがですか?

松田  非常にいいですね。『OKWAVE GRATICA』は、デジタルグリーティングカードにコメントを書いてOK-チップを添えて送る、という仕組みなので、具体的にどんなことに感謝しているのかも伝えられて、社内コミュニケーションが活性化したと言っていただいています。自然な形で社内の情報がナレッジ化されるのも、評価していただいているポイントです。

今はEtoE(Employee to Employee)のコミュニケーションに使っていただいていますが、お客様とのコミュニケーション(EtoC/Employee to Customer)にも使えるのではないかと検討していただいている企業もあります。

――他社もOK-チップを発行できるようにすることは考えていない?

松田  それは考えていません。感謝経済のトークンは、「ありがとうデータベース」がないとリアリティがないからです。どういうユーザーが、誰に対して感謝して、どういうやり取りをしたのか、というビッグデータがあるからこそ、OK-チップの透明性と公平性が担保されるのです。

――OK-チップの発行を御社だけができるというのは、OK-チップを使う他の企業にとっては不安ではないでしょうか?

松田  ブロックチェーンというのは恣意的に操作できるものではありませんから、そんなことはないでしょう。ただ、感謝経済というプロジェクトの仕掛け人として、当社を評価していただければ嬉しいです。

本当の民主主義もブロックチェーンで実現する

――仮想通貨交換業の登録をしてトークンを発行するとなると、セキュリティも含めて、大きな投資が必要になると思います。それを上回る利益が得られるという見込みがあるわけですよね。

松田  そうです。トークンを発行することで得られる価値は、単純に1トークン=1米ドルだとしても、発行上限が4,700万トークンだと4,700万米ドル、約47億円になります。「ありがとう」が1米ドルの価値しかないということはなくて、僕は1万円の価値はあると思いますから、そうだとすると4,700億円にもなります。

セキュリティについては、パランティア・テクノロジーズという、世界でも有数のサイバーセキュリティ会社と業務提携を結んでいます。

――OK-チップ1トークンが何円なのかは、どうやって決めるのですか?

松田  ブロックチェーンは相対取引きなので、相手が100円だと思ったら100円になるし、1万円だと思ったら1万円になります。ですから、4,700万件の取引きすべてに1万円の価値があるわけではなくて、10円のものもあれば、1億円のものもあるでしょう。1トークンがいくらかは、その平均を取るしかありません。

――OK-チップを送るときに、「これは何円の価値のあるOK-チップです」と相手に言うのですか?

松田  それをやってしまうと野暮なので、あえて明かさない設計にしたいです。できれば、OK-チップを受け取ったときにアラートさえ鳴らないようにしたいとも思っています。1カ月経って見てみると、「知らないうちにすごく貯まっていた」となるようにしたいですね。

――現状では、OK-チップで賛同企業の優待を利用できるというのは、賛同企業の好意?

松田  ありがたいことに、その通りです。賛同企業は約50社あって、その中に、優待を提供していただいている企業もあれば、『OKWAVE GRATICA』を利用していただいている企業もあります。

――そもそもの話になりますが、松田社長が感謝経済を作りたいと思ったのは、なぜなのでしょうか?

松田  会長の兼元(謙任)らと一緒に構想したものですが、僕の場合は、もともと「お金がすべて」のファイナンスの世界にいて、それに嫌気が差したんです。お金では評価できないけれども、いいことをしている人はいっぱいいて、むしろそれが大多数なのに、資本主義の世界では、そういう人たちは搾取され続ける。そういう人たちを救うために寄付をするという方法もありますが、寄付してもらえる人はいいけれども、してもらえない人も出てきます。この難しい問題を解決するイノベーティブなものが、ブロックチェーンだと思ったのです。

――感謝経済は、世界に広げていくことを視野に入れているのですか?

松田  もちろんです。ただ、世界では、何がいいことで、何が悪いことなのかについての対立があります。そこで、宗教や文化ごとに、何がいいことなのかを評価するブロックチェーンのプラットフォームを作ることを考えています。

今、具体的に開発しているのは、マレーシア工科大学との産学連携プロジェクトで、シャリーア(コーランの教え)に基づいて、いいことか悪いことかを評価するものです。今年4月頃に発表できる見通しです。

これを東南アジアで使っていただくと、東南アジアのムスリム社会におけるいいことと悪いことが評価できるようになりますから、それをベースに感謝経済が作れるはずです。他の宗教や文化についても、それぞれ、いいことを評価するブロックチェーンを作っていきたいと思っています。

――誰かが善悪を判断するのではなく、そのブロックチェーンに参加する皆が判断するということですね。

松田  本当の民主主義が実現できるわけです。そうなれば、争いも少なくなると思います。

――感謝経済実現のロードマップは、どのように描いていますか?

松田  世界展開が2022年6月まで。そこから逆算すると、2020年には日本を席巻し、2021年にはアジア、アフリカ、南北アメリカを席巻していないといけません。「善は急げ」です。

松田 元(まつだ・げん)〔株〕オウケイウェイヴ代表取締役社長
1984年、神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒業。在学中より学生ベンチャーを創業。同時期に複数のベンチャー企業におけるインキュベーションを実施。卒業前の2006年2月、アズ〔株〕を創業。12年にアズグループホールディングス〔株〕(現・アズホールディングス〔株〕)設立、代表取締役に就任。16年に〔株〕創藝社代表取締役に就任。17年に〔株〕オウケイウェイヴ取締役に就任。18年に同社代表取締役社長に就任。(『THE21オンライン』2019年02月04日 公開)

提供元・THE21オンライン

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