真面目な人ほど陥りやすい「焦りグセ」に要注意

職場でも家でもやることが多すぎて時間がない!と悩んでいる人は多いのではないか。でも、実はそれ、単なる思い込みかもしれない。真面目な日本人が陥りやすい「焦りグセ」とは?精神科医の水島広子氏に教えていただいた。

「忙しさのメガネ」を通していないか?

いつも「時間がない」と焦りを感じている人は少なくないのではないでしょうか。

例えば、今日中にやらなくてはならない仕事があるのに、他の仕事が気になって集中力が散漫になり、目の前の仕事が進まない。あるいは、半年間続いたプロジェクトがやっと終わって、肩の荷が下りるかと思ったのもつかの間、それまで保留にしていた仕事に取りかからないと間に合わない気がして、焦りから抜け出せない。

こういう人は、実際、物理的に忙しいとしても、それ以上に「私は忙しい」という「忙しさのメガネ」を通して現実を見て「忙しい感」を増しているのかもしれません。

「忙しさのメガネ」とは、「あれもやらなければ、これもやらなければ」「あれも終わっていない、これも終わっていない」という思考のフィルターを通して現実を見るメガネのことです。余計なことを考えずに目の前の資料作成に集中すればいいのに、「請求書を作らなきゃ」「あの本読んでない」など「終わっていないこと」が気になってしまい、必要以上に「忙しい」と感じてしまうのです。

そして、常に「終わっていない」という意識のため、仕事を片づけても達成感が得られません。そればかりか、新しい仕事が入ってくると、それにどのくらいの時間がかかるのかを冷静に考えることができなくなり、頭が真っ白になったり、「ただでさえ忙しいのに!」と怒りを感じてしまうこともあります。

「足りないところ探し」という現代病

こうした「焦りグセ」は、どのような人がなりやすいのでしょうか。

焦りグセのある人に共通するのは、「完璧主義」なことです。物事には完璧があると思っていて、それと比べて自分に「足りないところ」を探すから、「あれもやらなければ、これもやらなければ」という感覚に陥ってしまうのです。人間は完璧ではありませんから、「足りないところ」を探し始めたらきりがありませんし、いつまでたっても自分が思う「完璧」には到達しません。私はこれを「自虐的完璧主義」と呼んでいます。

この「足りないところ探し」は、他人との比較から生じることが多いものです。特にSNSを通して周りの人とつながろうとする現代人は、他人との比較に陥りやすいと言えます。

SNSでは、「こんな趣味を楽しんでいる」「こんな資格を取った」など、様々な“リア充”アピールが発信されています。こうした投稿を目にして、「自分は何もしていない、このままではダメだ」と衝撃を受け、「自分も趣味を持たなきゃ」「資格を取らなきゃ」と焦ってしまうのです。その趣味や資格が自分にとって必要なのか、という視点は置き去りのまま。発信者に都合よく情報を“盛れる”SNSは焦りグセを生み出す大きな要因になっているのです。

また、40代という年代は、焦りグセに陥りやすい年代と言えます。40代は「人生の折り返し」を意識し、仕事でもプライベートでも残りの人生のことを考えたり、やり残したことに挑戦する最後のチャンスと感じたりする年代でもあります。

しかも、このくらいになると、身近なところでも、仕事やプライベートで差が生まれてきます。管理職になった人、転職に成功した人、結婚している人・いない人、子供がいる人・いない人など多種多様で、それぞれ良い悪いがあるのに、つい他人の良い部分にばかり目がいき、「足りないところ探し」を始めてしまう。

仕事も家庭もすべてを完璧に成し遂げられる人などいないのに、身近な人の中に「自分にないもの」を見つけてしまうと、「なんで自分はできていないんだ」「自分の人生、このままでいいのだろうか」と焦りをより加速させてしまうのです。

「今やるべきこと」に集中するコツ

では、「あれもこれも」の焦りグセから抜け出すには、どうしたらいいのでしょうか。

最も大切なことは、やることに優先順位をつけ、「今やるべきこと」に集中することです。複数の仕事を抱えているなら、締め切りに余裕のある仕事のことはいったん忘れて、目の前の仕事を片づけることだけに集中します。他の仕事は、引き出しや箱の中にしまうなどして、目に入らないようにするだけでも効果があります。

優先順位をつけるとは、仕事や人生にメリハリをつけることでもあります。優先順位の高いものに集中し、低いものは誰かに任せる、完璧のレベルを下げるなどして「手放す」のです。すると、「忙しい時間」と「忙しくない時間」がはっきりして、「今やるべきこと」に集中しやすくなります。

もし上司から急な仕事をふられたときは、自分の状況を説明したうえで「どれから先に手をつければいいか」と、上司に優先順位をつけてもらうといいでしょう。そうすることでパニックにならず、一つずつ片づけていくことができるはずです。

また、優先順位は高いのに、苦手な仕事や気乗りしない仕事はつい先延ばしにしがちです。先延ばしすると、「あぁ、あれもまだやってない」ということが常に心に引っかかり、焦りグセを悪化させることになりかねません。

この場合、「とりあえずやる」ことが解決策として有効です。「この仕事が終わったらやる」では、いつになるかわかりません。日にちや時間を決めて「とりあえずやる」ことを繰り返し、「積み重ねていく」ことが重要。

その際、得意な仕事と同じような目標設定にしてはいけません。30分続けたらよしとする、休憩をいつもより取るなど、自分を甘やかしてOK。そうすることで、メリハリが出ると同時に、達成感も得やすくなります。

このように、自分ができる範囲で目標を設定し、それを積み重ねながらゴールを目指すやり方を、「自虐的完璧主義」に対し、「できるだけ完璧主義」と名づけました。一般的に、真面目な日本人は自虐的完璧主義のタイプが多いのですが、このように少し視点を変えるだけで、焦りグセは緩和されてくるでしょう。

完璧を目指して丁寧に仕事をすることは決して悪いことではありません。ただ、視点を少しだけ変えてみましょう。そうすることで、「時間がない」と常に焦り、追われている感覚がなくなり、目の前の仕事にも集中できるという好循環が生まれてくるはずです。

水島広子(みずしま・ひろこ)精神科医
慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。慶應義塾大学医学部精神神経科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長。慶應義塾大学医学部非常勤講師。2000~05 年、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正をはじめ、数々の法案の修正に尽力。『焦りグセがなくなる本』(PHP文庫)をはじめ、著書多数。≪取材・構成:前田はるみ≫(『THE21オンライン』2018年12月号より)

提供元・THE21オンライン

【関連記事】
仕事のストレス解消方法ランキング1位は?2位は美食、3位は旅行……
就職ランキングで人気の「三菱UFJ銀行」の平均年収はいくら?
職場で他人を一番イラつかせる行動トップ3
2019年に始まる「5G」とは何か?
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング(PR)