ミスゼロを自ら破ろう!
ミスゼロ運動や事故ゼロ運動をしている会社、ミスに対して激高し部下を恐怖に陥れる上司、過度にコンプライアンスにこだわる企業や団体では、その意図に反して「ミスの隠ぺい」が起こりがちだ。
※本稿は、吉田幸弘著『リーダーの「やってはいけない」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
防げたはずの重大なミスを、なぜ防げなかったのか?
ある会社で、重大なミスが発生しました。
初めて取引が決まったA社との契約書を、担当の営業マンが社内で紛失してしまったのです。しかも、かなり大口の取引が望めるお客様でした。
慌てて再発行のお願いをしたものの、先方の法務部が「そのようなだらしない会社とは取引しない」と激怒してしまい、せっかくコンペに勝ったにもかかわらず、同業他社に契約が変更になってしまいました。
その後、ミスをした担当の営業マンは常日頃から忙しく、毎日夜遅くまで残業を続けていたということがわかりました。
しかも、実は今回の騒動の2カ月前に、別の会社との取引でも請求書を紛失していて、再発行してもらっていたということが判明しました(その会社とは取引が長く、相手も細かい人ではなかったので「再発行しますね」で済んだとのことでした)。
担当の営業マンは、この件を周囲の同僚や先輩、上司に報告していませんでした。
なぜなら、その支店では、「ミスゼロ運動」を熱心に続けていたからです。
それは、営業支店ごとに行われていたキャンペーンで、その支店がミスゼロを6カ月連続で達成すると、本社から表彰を受けるという制度でした。
結局、このケースでは6カ月目に契約書紛失事件が起きたので、表彰はされませんでしたが、もっと前にミスは起きていたにもかかわらず、「ミスゼロ」を徹底するあまりに、自分からミスゼロを言い出せない空気が出来上がっていたのです。
誰かが起こしたミスを他の人がしないための対策を
「ハインリッヒの法則」をご存知でしょうか。これは、1件の重大な事故・災害の背後には29件の軽微な事故・災害があり、さらにその背後には300 件の異常がある、というものです。
今回のケースでいえば、2カ月前に起こった請求書の紛失は、ハインリッヒの法則でいう「異常」に当てはまります。
結果的に大事には至らなかったものの、一瞬ヒヤリとしたことやハッとしたこと、いわゆる「ヒヤリハット」を防ぐことは、リーダーの仕事でもあるのです。
「ヒヤリハット」の段階で、ミスを報告してチームで共有することができれば、正しい対策を立てることができ、再発を防止できていました。
もちろん、ミスゼロや事故ゼロの徹底、表彰制度自体は素晴らしい取り組みです。コンプライアンスをしっかり守っている会社を悪く言うつもりはありません。
しかし、ミスを隠ぺいしてそのような評価を受けるのは、言い方は悪いですが、「こっそりカンニングして成績優秀者」になっているのと同じです。
一方、できるリーダーは、ミスをどんどん自己開示します。
以前研修でお会いした方の中には、ミスゼロ運動を掲げている最中に、リーダー自らミスの申告をメンバーの前でした、という方もいらっしゃいました。
しかも、その内容は、メールで添付ファイルを送る際、パスワードを付与しなければならないというルールを破ったという、不謹慎な言い方かもしれませんが、些細なミスでした。しかし、彼はミスをしたとみんなの前で申告したそうです。
その理由を尋ねてみると、「以前、メールを間違えて依頼先ではなく、同業のライバル会社に送ってしまい、機密情報が知られて問題になった経験があったから。同じようなミスを部下にさせたくなかったから」ということでした。
チームで誰かが起こしたミスやヒヤリハットは、他のメンバーにも起きる可能性があります。したがって、ミスが起こったとき、内容やその原因を開示し、今後の対策がすぐに立てられるような環境を、リーダーは整えておくべきです。
*リーダーの「やってはいけない」
吉田幸弘 発売日: 2019年03月19日
×「やってはいけない」リーダーの行動/○「実はうまくいく」リーダーの行動……その「紙一重の違い」を、徹底比較!
吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)
リフレッシュコミュニケーションズ代表
1970年、東京都生まれ。大手旅行代理店を経て、学校法人、外資系専門商社、広告代理店で管理職を経験。「怒ってばかりのコミュニケーション」で降格を経験したことからコミュニケーションを学び、2011年に独立。現在はコーチングの手法を駆使し、経営者や中間管理職向けにコンサルティング活動を行なう。(『THE21オンライン』2019年10月11日 公開)
提供元・THE21オンライン
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