ホンネはほんの小さな顔の動きに表れる
私たちは人と話をしているとき、相手の表情を見て反応をうかがっている。しかし、愛想笑いなどによって、表情を読み間違えてしまうこともある。そのために、「喜んでいると思ったのに、まさか怒っていたとは……」と後悔したりすることも。しかし、「微表情」に気づければ、そんな事態は避けられると清水建二氏は話す。
愛想笑いをしても微表情は漏れ出してくる
人の感情は、無意識のうちに、微細な顔の動きに表れます。これを「微表情」と呼んでいます。
ネガティブな感情は、大人であれば、普通はそのまま表に出すことはしません。特に日本人は、愛想笑いによってネガティブな感情が表情に出ないようにする傾向が強い。それでも微表情は、愛想笑いから漏れ出てきます。
写真1は、両側の口角が上がって笑っているようにも見えますが、ホウレイ線が釣鐘型(逆U字のような形)になっているなど、「嫌悪」の微表情が表れている例です。
微表情が表れるのは、従来は0.2秒間だとされていましたが、最近の研究では0.5秒ほど表れるものが多いとされています。ですから、注意深く相手の顔を見ていれば、見逃さずに読み取れることが多いはずです。
実際、私たちが行なっている研修で、映像を見せて微表情を読み取ってもらうトレーニングを1時間集中して行なうと、正解率が平均で40%から80%へと上がります。
これまでの研究で、「幸福」「軽蔑」「嫌悪」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「驚き」の七つの感情の微表情は、万国共通であることがわかっています。また、おそらく万国共通だろうと考えられている微表情は、この他にもあります。
金正恩委員長の口角が右だけ上がった意味は?
微表情から読み取れるのは、相手の感情の動きです。
例えば、昨年、シンガポールで行なわれた米朝首脳会談で、合意文書に両首脳が署名をする際の映像を観ると、金正恩委員長の右側の口角が上がる瞬間があります。片側の口角が上がるのは「軽蔑」、言い換えれば「優越性の主張」です。つまり、金委員長は、この会談で自分が優位に立ったと感じたのです。
今年、ベトナムで行なわれた米朝首脳会談の1日目の映像でも、金委員長の右側の口角が一瞬上がったあと、両方の口角が上がった場面があります。一瞬、「軽蔑」の微表情が出てから、「幸福」の表情になったのです。
ところが、同日のトランプ大統領にも「軽蔑」の微表情が表れる映像がありました。双方が「自分のほうが相手よりも優位だ」と感じるのはおかしいので、それを見たとき私は、「会談はうまくいかないのではないか」と思いました。
結果は周知の通りです。報道によると、米国が寧辺以外の核施設の停止も求め、それを北朝鮮は予想していなかったということです。
感情を読み取ることと「心を読む」ことは違う
2014年のAKB総選挙で、松井珠理奈さんが4位で名前を呼ばれたときのテレビ映像を観ると、一瞬、鼻に皺が寄り、ホウレイ線の皺が釣鐘型になっています。これは「嫌悪」、つまり、拒否を示す微表情です。速報では3位だったそうですから、4位という順位を受け入れたくないという感情が出たのでしょう。
ローラさんが『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の人気コーナー「食わず嫌い王決定戦」に出たとき、嫌いな食べ物を好きであるかのように振る舞うのですが、やはり「嫌悪」の微表情が出ていました。
このような話をすると、微表情から相手の心が読めるのだと勘違いする人がいるのですが、そういうわけではありません。読めるのは、あくまで感情だけです。
例えば、ドーピング疑惑のあるスポーツ選手がテレビ番組でインタビュー取材を受けている中で、「軽蔑」の微表情を見せたことがあります。
しかし、「ドーピングをしていない人間を疑うなんて」という意味での「軽蔑」を示したのか、「この人に本当のことがわかるわけがない」という意味での「軽蔑」なのか、これだけでは判断することができません。つまり、その選手がシロなのかクロなのかは、微表情からだけではわからないのです。
ネガティブな感情を見逃すと致命傷にも
しかし、だからといって微表情を読んでもムダだということではありません。特に、ネガティブな感情の微表情に気がつくことは、ビジネスにおいても重要です。
あるコーヒーショップに行ったとき、レジ横にあるお菓子を指さして、「これ、甘いですか?」と聞くと、店員が申し訳なさそうに「甘いんです」と答えてくれたことがありました。そのとき、私はダイエットをしていたので、甘いものは避けたいと思っていました。ですから、無意識に、「嫌悪」の表情が出ていたのでしょう。「ずいぶん気が利く店だな」と、私は好印象を持ちました。
逆に、「嫌悪」の微表情に気づかなければ、相手の気を悪くさせてしまう可能性もあります。
例えば接待の席で、相手が料理に「嫌悪」の微表情を示したのに気がつかず、また同じ店での接待に誘ってしまったら、相手は良い印象を持たないでしょう。
商談でも、ネガティブな微表情に気がつくことが重要です。
金額を提示したとき、相手が「えっ!?」と言ったとしましょう。
そのとき、相手が写真2の表情をしたら、どう対応するべきでしょうか?
眉が上がって「驚き」の微表情が表れていますが、同時に、上唇が引き上げられ、ホウレイ線が釣鐘型になっており、「嫌悪」の微表情も表れています。
「嫌悪」は拒否を示しますから、こちらが提示した金額を拒否しているということです。ですから、
「ですが、こうすればお値段を下げることができます」
という話をするべきです。
「高いと思われるかもしれませんが、それには理由がありまして……」
と、商品の優れた点の説明を始めても、相手は興味を持たず、商談はうまくいかないでしょう。
商談相手の微表情によって次の言葉を変えよう
商談の場面で、相手の微表情によって、どう対応を変えるといいのか、もう少しお話ししましょう。
相手に商品100個を10万円で売りたいという提案をしたとします。
その商品は特別なケースに入れて運ぶため、ケース代と運送費が別途かかるのですが、そのことはまだ伝えていません。ケースは、1個100~300円の、いくつかの種類があります。
提案に対して相手が、目を見開き、下まぶたに力が込もって、眉が上がって中央に引き寄せられる、「恐怖」の微表情を示した場合は、10万円という金額が相手にとって高いということです。ですから、相手に安心してもらうために、
「ケース代が100円かかるのですが、運送費はサービスさせていただきます」
と伝えるのがいいでしょう。
一方、相手が「軽蔑」の微表情を示した場合は、自分が優位であると感じているわけですから、まだ余裕があります。それなら、
「ケース代300円と輸送費がかかります」
と伝えても、受けて入れてもらえる可能性が高いと判断できます。
人は、必ずしも感情を言葉にしません。隠そうとすることも多い。しかし、何かによって感情が動くということは、その人にとって、それが重要だということです。ですから、微表情から相手の感情をきちんと察知し、対応することが、ビジネスにおいても、それ以外のコミュニケーションにおいても、とても大切なのです。
清水建二(しみず・けんじ)
〔株〕空気を読むを科学する研究所代表取締役
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でコミュニケーションを学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。現在、官公庁や企業で研修・コンサルティングを行なう一方で、ニュースやバラエティ番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、テレビドラマの微表情監修をしたりと、メディアでの実績も多数。著書に、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)がある。(『THE21オンライン』2019年5月号より)
提供元・THE21オンライン
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