スタートダッシュが、その後のキャリアを決める

新卒で入社した企業で定年まで勤め上げるのが当然視されていた時代が終わり、30~40代での転職も当たり前になってきた。しかし、幸いにして好条件で転職ができたとしても、若手の転職とは違う難しさが待ち構えているのが現実だ。幹部人材の紹介事業などを展開している〔株〕経営者JPの社長・井上和幸氏に、30~40代で転職する際のポイントを教えてもらった。

30~40代の転職は急増している

ひと昔前までは「35歳転職限界説」が言われていましたが、30~40代の転職は、今や一般的、積極的なものとなっています。

総務省の労働力調査によると、2018年の転職者数は全体で329万人。年齢別では45歳以上の転職者が124万人で、5年前に比べて3割以上増えています。日本人材紹介事業協会がまとめた人材紹介大手3社の紹介実績でも、2018年10月~19年3月の41歳以上の転職者数は5,028人と、前年同期比で40.4%も増えており、これは世代別で最も伸び率が大きいとのこと。

一方で、転職しやすくなっているぶん、入社後の「こんなはずではなかった」も急増しています。当社のエグゼクティブサーチ事業(幹部人材の紹介事業)においても、この数年で非常に増えたのが、転職したばかりの30~40代の方々からの「入社してみたら間違っていたので、改めて早期に転職し直したい」というご相談です。これは、どうしたことでしょう?

オファーの金額が高い会社に飛びつかない!

30~40代が転職先を決めるポイントとして比重が高いのは、やはり年収です。家庭がある方も多く、お子さんの学費なども一番膨らむ時期ですから、それは当然と言えるでしょう。A社とB社から内定が出て、どちらかを選ぶかというときに、(家族との協議で奥様のご意見も強く……)どうしてもオファー金額の大きいほうを選択することが多くなるのは、我々も理解できます。

しかし、そうして入社してみたところ、職場の雰囲気に馴染めない、上司との相性がしっくりこない、職務内容に希望とズレがある、会社の方向性に必ずしも共鳴できない……といったことに気がつき、辛くなる……。年収を最優先して新天地を選択した場合、入社後によく起こるのは、こうしたミスマッチです。

いくら入社時に他社よりも高い収入があったとしても、これではその後の活躍も給与アップも望みようがありません。結局、転職によって大きく年収を落としてしまった、ということになったりもします。

「入社はゴールではない」「給与・年収は、短期的ではなく、中長期的観点から考えて試算する」。ぜひ、転職先を選択する最終決断の前にこのことを重々認識して、しっかりと自分の働きやすい職場、成果をしっかり出せると思える職場を選択してほしいと思います。

転職先で浮いてしまう人の行動パターン

30~40代で転職して、入社後にうまくいく人といかない人の差は、当然のことながら、新しい職場に入っていく“新参者”である転職者自身の立ち回り方にあります。

幹部クラスとして入社される方も多いこの世代には、新たな部下たち、若手たちの前に、ドンと座りたい気持ちがあるかもしれません。しかし、自ら率先して主要な社員と関係構築ができるか否かが、その会社でリーダーとして活躍していけるか否かを左右します。

会社側や職場の上司、同僚の方々が受け入れに気を使ってくれるケースも少なくありませんが、待ち受けるのではなく、転職者のほうから積極的に、「ぜひ一度、担当されている業務についてお聞かせください」「部門のことについて教えてください」「食事をしながら色々とお話ししましょう」と、上司部下を問わず、また部署を越えて、キーパーソンと思われる人たちに働きかけましょう。入社後すぐにこのような行動を起こしておくと、その後、巡航モードに入ってから、とても楽になるものです。

また、特に部署内の人たちや直接に業務で関係している人たちに対して、サポーティブにどんどん動けるか否かも、その後に大きく影響します。入社後一定期間は、意識的に、あえてフォローする側に徹するのが得策でしょう。「返報性の原理」と言いますが、色々と手伝ってくれる人、助けてくれる人だという認知を得れば、「そんな相手にお返しをしなければ」と潜在的に思ってくれる味方ができます。これが、転職先の会社での仕事のやりやすさへとつながるのです。

転職先でうまくいかない人は、この逆で、「受け身」「協業する姿勢がない」ということで孤立してしまい、社内で浮いた存在となってしまうパターンです。

ただ、積極的な姿勢を取る際に気をつけていただきたいことが1点あります。それは、「前職前例主義」です。特に大手企業から中堅中小企業やベンチャー企業に転職した場合、「前の会社ではこうやっていた」を権威のように振りかざす人が、嫌われ者のパターンのNo.1です。「前の会社がやっていたから」ではなく、「このようにしたほうが、さらによくなりそうですよね」というような提案型スタイルでいくよう気をつけましょう。

転職した目的を意識的に思い返そう

30~40代で転職してうまくいくかどうかは、突き詰めれば、「この人は何をする人なのか」を、周囲に広く、早期に認識させられるか否かにかかっています。「あの人、なんの人?」「どこから来たんだろうね?」「どれくらいのレベルの人なの?」。どの会社においても、新たに転職してきた人には、悪気なく、社員たちはそのようなことを思い、“お手並み拝見”しているものです。変に気負いすぎるのは逆によくありませんが、何事も最初が肝心。転職においては「最初の90日が、その後のすべてを決める」と言われます。しっかりスタートダッシュをかけましょう。

また、新会社に着任して、入社後の忙しさが少し落ち着いたタイミングで、ぜひお勧めしたいのが、「そもそも今回、なぜ転職したのか」について改めて思い返してみることです。

入社後の手続きや受け入れ研修、新部署の業務や同僚たちとのコミュニケーションに追われて、スタート当初はかなり忙殺されたり、気を張って精神的にも疲れたりする時期があるはずです。そのために、ともすると、転職の大きな目的を忘れたまま、新しい日常に入ってしまうということがよくあります。スタートの時期にこそ、改めて、転職してどのような仕事をし、どのようなキャリアを目指そうと志したのか、しっかり認識し直しましょう。その会社を選択した最終意思決定ポイントとのズレは起きていないでしょうか?

転職によるキャリア形成には、自らが望む、自分にとって望ましい職務へと、積極的に舵取りの主導権を執るという良い面があります。だからこそ、年齢が上がれば上がるほど、転職後の成功と失敗がもたらす、その後のキャリアへのインパクトは、乗数的に大きくなります。ですから、最も大事なことは、実は、転職後よりも、転職活動時に、選択ミスを絶対にしないことです。30~40代の転職こそ、「転職は慎重に」なのです。

文・井上和幸(いのうえ・かずゆき)
〔株〕経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、〔株〕リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、〔株〕リクルート・エックス(現・〔株〕リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に〔株〕経営者JP( https://www.keieisha.jp/ )を設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。(『THE21オンライン』2019年07月25日 公開)

提供元・THE21オンライン

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