モノやサービスは、所有から「共有」「利用」へ

皆さんは「テクノベート(Technovate)」という言葉をご存じだろうか。これは、テクノロジー(Technology)とイノベーション(Innovation)を組み合わせた言葉で、主にITに代表されるテクノロジーによって進化、あるいは変化していく新しい経営の在り方を指す言葉である。

そんなテクノベート時代には、当然テクノロジーへの理解も欠かせない。ビッグデータ、ブロックチェーン、RPA、MaaS……そんな必須の基本用語をわかりやすく解説して1冊にまとめた『テクノベートMBA 基本キーワード70』(PHP研究所)から、今回は「シェアリングエコノミー」「サブスクリプション」についての解説を一部抜粋して紹介する。

なぜ、「シェア」は注目を集めているのか?

シェアリングエコノミーとは、モノやサービスを特定の個人・団体が独占的に保有・使用するのではなく、多くの人々の間で共有(シェア)することで成り立つ経済圏を指す言葉です。近年、ITの活用による最適なマッチングが可能になったことから、利便性が向上し注目されています。

シェア(共有)という活動自体は、昔から存在していた概念です。たとえば、パソコンが普及する前は、大型計算機センターのコンピューティングパワーを、多くの利用希望者が時間を分けてシェアするといったことは一般的でした(タイムシェアリングシステム)。

それに対し、近年のシェアの特徴は、パソコンやスマートフォンなどを用いて最適なマッチングが図られる点にあります。また、貸し出す側(元々の保有者)が、高額のモノを買えるだけの資金力のある企業や公的機関だけではなく、一般の個人に広がっている点も特徴的です。

その代表例は、ウーバーやリフトに代表されるライドシェアや、エアビーアンドビーに代表される民泊です。民泊を例にとれば、家の持ち主は、自分が使っていない間、自宅を貸し出すことができれば、保有資産を有効活用してお金を得られるというメリットがあります。借主にとっても、オンデマンドで通常のホテルより安くサービスを利用できることは魅力的です。このように、お互いの利害が一致する結果、シェアが活発に行われることになります。
 

サブスクリプション,シェアリングエコノミー,嶋田毅
(画像=THE21オンラインより)

その他にも、あるビジネスパーソンが仕事の空き時間を、コンサルティングや社外取締役として他企業に貸すことを仲介するサービスなども生まれています。また、ベンチャーを立ち上げた起業家に向けて、オフィススペースを共同で貸し出すサービスなどもあります。

ITの普及がシェアの利便性を加速した

シェアの概念がこれだけ普及した背景には、下記のようにいくつかの要素があります。

・人々の「モノの保有」への欲求が弱まり、必要な時にサービスが利用できればいいという意識が広まった。

・社会の持続可能性(サステイナビリティ)を考えた時、稼働率の低いものを保有者のみが用いることは、環境などにとって優しくないという意識が広まった。

・自分の保有するノウハウや時間を、社会的に意義のある活動に用いることで自己実現を図りたいという人々が増えた。特に、引退したビジネスパーソンや、能力があっても労働時間が制約されているビジネスパーソン(育休中の女性など)において、そうした意識が高まった。

・テクノロジーの進化により、物理的な距離を乗り越えることが可能になった(例:オンライン英会話教室など)。

・ITの普及でマッチングそれ自体が容易になった。加えて、レビューやレイティングが可視化されることで、貸し手、借り手双方にとって、利用のリスクが下がった。

特に最後のポイントは、シェアリングエコノミーが発達する上で非常に重要です。なぜなら、特に貸し手が個人の場合、ITの力なしに、不特定多数の中から信用できる借り手を探すことは非常に難しいからです。

仲介業者であるウーバーやエアビーアンドビーが、短期間で企業価値数百億ドルの企業にまで成長した理由も、この最後のポイントにあります。彼らのビジネスが成り立つためには、多くのユーザーのニーズに応えられるだけの「サービス提供者」や「物件」の数があることが前提条件です。それがマッチングの可能性を増し、ユーザーの便益を上げることにつながるのですが、その時に必要なのが、マッチングのための良い仕組み(アプリなど)およびレイティングの仕組みなのです。

彼らは、レイティングについて独自の仕組みも導入しています。たとえばエアビーアンドビーであれば、貸し手と借り手が双方を評価します。したがって、高いレイティングがついていれば、貸し手も借り手も安心してそのサービスを利用できるわけです。

また、このレイティングの仕組みは、サービスの質そのものを上げる効果もあります。中国のライドシェアなどは、当初は愛想の悪い運転手も多くいましたが、レイティングが浸透するにつれ、劇的にサービスのレベルが向上しました。メーカー側からは、新製品が売れなくなって困るという声もありますが、一方で、すでにシェアを前提とした製品・サービスの開発も進んでおり、今後より一層シェアの流れは加速することが見込まれています。

サブスクの本質は「利用権」の売買にあり

サブスクリプションとは、モノやサービスを買い切るのではなく、利用権を定額で買う(売り手にとっては与える)課金モデルを指す言葉です。近年では、モノやIT 関連製品がパッケージ化されたサービスについての定額利用を指すことが多くあります。

サブスクリプションの浸透も、先ほどのシェアリングエコノミーの浸透理由と同様、モノやサービスは所有せずとも好きな時に利用できれば十分という消費者の意識変化を反映したものと言えます。また、デジタル商材の場合、追加の限界費用の小ささも重要なポイントとなります。
 

サブスクリプション,シェアリングエコノミー,嶋田毅
(画像=THE21オンラインより)

サブスクリプションは、ユーザー側にとっては、買い取るというリスクを冒すことなく、手軽にサービスを利用できるというメリットがあります。近年はいろいろなサービスがパッケージ化して提供されており、ユーザーは利用することによる便益をこれまでより手軽に得ることができます。

特に、ウェブ雑誌やコミックス等に見られる、一定額(通常は月単位)を支払えば、あらゆる本や雑誌を無制限に利用できるサービスは、ユーザー側にとってもお得感が高いため多用されています。この「○○放題」型のサービスはデジタル商材で先行しましたが、現在はモノの分野でも始まっています(例:定額を支払えば好きな乗用車を適宜利用できる)。

サービス提供側のサブスクリプションのメリットは、安定収益が手に入ることです。特にデジタル商材の場合、限界費用はほぼゼロのため、コスト高にはなりません。つまり、ユーザーの満足度を高めて数を増やし、損益分岐点をいったん超えれば、その後は非常に高い収益性が期待できるのです。

文・嶋田毅(グロービス経営大学院教授)(『THE21オンライン』2019年06月07日 公開)

提供元・THE21オンライン

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