2018年10月、東京都世田谷区にある2つの「企業主導型保育園」で保育士が一斉に退職し、運営が困難になるというニュースが報道されました。これをきっかけに、企業主導型保育園に注目が集まっています。

保育園にはいくつもの種類があり、ちょっとわかりにくいもの。このコラムでは、企業主導型保育園とはどんなタイプの保育園なのかや、メリット・デメリットなどについてご説明します。
 

コラムのポイント

・待機児童問題解消のため、スピーディーな受け皿確保のために2016年度からスタート
・週に数日だけ、土日に預けるなど、親の多様なニーズに応えられる
・規制を緩めているため、保育の質が疑問視される

保育園の種類「認可」と「認可外」って?

保育園には、広さや保育士の人数など国が定める基準を満たした「認可保育園」と、そうではない「認可外保育園」に大きく分けられます。それぞれの特徴を簡潔にまとめてみました。

■認可保育園

・施設の広さ、保育士の数、防災管理などが国の設置基準をクリアしている
・原則として、その市区町村に住んでいる、または勤めている人の利用に限る
・公費運営のため、保育料が比較的安い

■認可外保育園

・保護者の状況(就労など)に関係なく入園できるケースがある
・延長保育や夜間、24時間預かりなどの融通が利く園もある
・認可保育園に比べると保育料が高い

注目されている企業型保育園は、認可外保育園のカテゴリに属しています。
 

(出典:東京都福祉保健局)
(出典:東京都福祉保健局)

さまざまな規制を緩め、スピーディーに新設ができる

企業主導型保育園が作られた背景には、子どもの預け先が不足する「待機児童問題」があります。仕事に戻りたいのに、保育園が見つからない親の悩みは深刻で、早急に受け皿を増やす必要がありました。

「保育園が足りないなら、増やせばいいじゃないか」と思うかもしれませんが、保育園の増設は簡単ではありません。待機児童問題の多くは都市部を中心に深刻化しているため、建てるスペースが足りません。

また土地の値段や人件費が郊外よりも割高で、コストがかかります。人口が密集する地域への建設となると、送迎時間帯の交通量増加や騒音問題を懸念して、近隣住民から反対される可能性もあります。

その状況を改善するために2016年度からスタートしたのが、企業主導型保育園です。広さや保育士資格を持つスタッフの割合を下げるなど保育園新設の規制を緩め、手厚い補助金で事業者に新規参入を促しました。自治体の許可を不要とし、スピーディーに新設しようというわけです。設置場所も自社ビルの一部などを使ってもよく、新たに建設する必要もありません。

預け先が見つからない親にとって、心強い存在

企業主導型保育園には、以下のようなメリットがあります。

・企業の近くだけでなく、従業員が住む郊外にも設置できる
・従業員だけでなく、定員の50%までなら近隣の子どもを受け入れられる
・週に数日、土日だけなど親の多様なニーズに応えられる
・保育士の資格を持つスタッフは半数以上と、規制が緩い

2017年度に新たに増やした保育の受け皿のうち、企業主導型保育園は約4割を占めています。また、不足しがちな1~2歳の定員が多く、待機児童問題の解消に役立っています。

保育の質が保たれないと、親は安心して子どもを預けられない

一方で、「量」を増やそうとするあまり、「質」が置き去りになっていないか、という懸念があります。

保育従事者全員に保育士資格が必要な認可保育園と違い、企業主導型保育園では、有資格者は「半数以上」いればよいことになっています。資格がない人を保育現場に入れるわけですから、保育の質が保てるのか疑問視されるのは当然です。

内閣府から企業主導型保育園事業を委託されている「児童育成協会」が2017年に行った調査によると、432園のうち、およそ7割にあたる303施設で問題が指摘されました。

指導内容の項目には「保育計画等を整備すること」が目立ちます。つまり、保育理念が曖昧なまま開園し、運営のあり方が問われるケースが多いのです。

世田谷区の騒動を受けて、政府は年内に企業主導型保育園のあり方についての有識者会議を行うことを発表しました。

運営者への教育や、保育士の待遇改善も大切である

企業主導型保育園について、ざっくりとご説明しました。

筆者は1歳半の子どもを持つパパ。保活の苦しさを味わっただけに、預け先の選択肢が増えるのはありがたい気持ちでいっぱいです。でも、一番大切なのは保育の質。いくら保育園や定員が増えても、質が伴わなければ安心して任せられません。

この原稿を書いていて、保育計画がないまま開園しているところもあるという事実に驚きました。保育に限らず、何かをスタートするときにはビジョンを持ちますが、理念や計画がない状態で保育園をつくるのは、おかしいと思うのです。

保育の受け皿をつくることは重要です。それと並行して、運営者への教育、保育現場に立つ保育士さんたちのケアや待遇の改善にも力を入れていくことも大切ではないでしょうか。

文・Yuichi Sonobe/提供元・Fledge

【関連記事】
ミレニアル世代の6割が「仕事のストレスで眠れない」試してみたい7つの解消法
みんながやっている仕事のストレス解消方法1位は?2位は美食、3位は旅行……
職場で他人を一番イラつかせる行動トップ3
「ゴールドマン、Facebookなどから転身、成功した女性起業家6人
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング(PR)