脳の特性をうまく使って、男女のすれ違いを0にする

「報告が長い、しかも結論が見えない」「いつの間にか会話の地雷を踏んで嫌われる」……。女性部下や同僚とのやりとりに頭を悩ませる男性は多いだろう。しかし「脳の違い」を知れば、たちまちその壁は乗り越えられる。脳機能論のエキスパート・黒川伊保子氏に「女性から好かれ、女性に活躍してもらう」ために女性の心を動かすコミュニケーション術をうかがった。

「男性脳」は問題解決を「女性脳」は共感を重視

男性が「なぜそこで怒る?」と戸惑い、女性は「なぜわかってくれないの?」と苛立つ──そんなギャップの原因は、「男性脳」と「女性脳」の違いにあります。

男性脳・女性脳とは、「情報処理時に脳内で走る電気信号の、典型的な2パターン」のこと。

男性=全員男性脳、女性=全員女性脳というわけではありませんし、一人の脳の中でも両パターンを行き来することはあります。

しかし男女間でギャップが起こるときは、総じてこの「二つの典型」がぶつかり合っているのです。では、その典型とはどのようなものでしょうか。

男性脳の情報処理は俯瞰力に長け、素早く状況を把握して問題解決を図ろうとする方向性を持ちます。人類史の大半において「狩り」をしてきた性ならではの特徴です。

一方、女性脳は物事の細部や推移を認識する能力が高く、共感を求める特性がある。男性が狩りに出ている間、女性同士集まって一緒に子供を育てる、という環境下では密なコミュニケーションと助け合いが必須。

「共感」はいわば命綱だったのです。

つまり男女のギャップは、問題解決脳と共感脳のすれ違いと言えます。男性が女性から悩みを打ち明けられ、「じゃ、こうしたら」と解決策を示したら、「聞いてほしかっただけよ」と怒られるのはそのせいです。

ここはまず「そうか、辛いねえ」と、共感を示すことが必要なのです。

「報告にはキャッチコピー」を職場のルールに

職場でも、女性に好かれるには共感が必須。しかしこれはなかなか簡単にはいきません。

例えば「話が長くなる問題」。物事の推移に敏感な女性脳はプロセス重視の脳でもあるため、「報連相」の際も、ことの発端から経緯を細々と話しがちです。

もし部下から「最近疲れていて、辛くて、こんなミスも……」と長々と話されたら、途中で「こうすればよかったんだよ」と言いたくなるはず。

しかしこれは失敗のモトです。相手は「『業務量を減らして』と言いたかったのに、途中でダメを出された!」と傷つき、悪くすると怒り出します。

なんと理不尽な、と思われるでしょう。確かにその通りです。本来は部下のほうが簡潔な話し方を心がけるべきです。

そこで上司の方々にお勧めなのは、普段から「報連相は結論から述べ、次いで要旨を端的に言う」ことを職場のルールにすることです。

さらに良いのは、結論に「キャッチコピー」をつけさせること。

例えば「意欲向上と効率化のため、業務量を減らしてください!」というふうに、勢いのあるワードが添えられていると聞く側の関心も高まり、お互いに満足度が上がります。

長々と話されたときの、とっさの対応策もあります。「ほう、それで君はどうしたの?」と聞けば良いのです。話を一気に核心に近づけられると同時に、相手への関心も示せます。この殺し文句で、円滑かつ迅速に情報を引き出しましょう。

事実の文脈か心の文脈かを見極める

もちろん女性側も、毎回こうした話し方をするわけではありません。相手が「事実の文脈」「心の文脈」のどちらで語っているかを見極めましょう。

出来事メインで淡々と進む話なら、解決策を述べるだけでOK。対して、「びっくり」「面白い」「もう嫌~」など感情を表す語が頻繁に入るなら、「驚いたね」「面白いね」「大変だねえ」と根気よく共感すること。

必要に応じて前述の「君はどうしたの」で短縮、最後は「よく頑張ったね」とねぎらって締めれば完璧です。区別がつかないときは後者の対応を。いずれの場合も、共感は必ずプラスに働くでしょう。例外は「悪口」。

女性が誰かの──とりわけ同性を悪く言ったときは要注意です。「彼女はひどいんです!」と訴えられたら同調も反論もせず、「そうか、うーん」とまずは無難な相づちを打ち、次いで「じゃ、君は彼女との間で何ができる?」と聞くのが正解。

「彼女と一緒にできる作業は?」「どこまでなら我慢できる?」と、落としどころを探りましょう。

それでもダメなら二人を離すしかありません。この場合は訴えてきた側がチームから外れるのが筋ですが、本人の戦力が必要なら「君にはここで力を発揮してほしい。もうひと息我慢できないかな」という殺し文句が効きます。重要性を認められると、女性はがぜん頑張れるものなのです。

褒めた回数のチェック表を作ろう

重要性を認めることは、「デキるけどキツい女性」に特に有効。ともすると攻撃的になったり、「もっと評価して」と不満を募らせたりするこのタイプには、責任を与えるのが一番です。

チームリーダーを任せる、大事なプロジェクトを預けるなどが常道ですが、高等テクニックとして「同じタイプの後輩を育てさせる」手もあります。

問題児の教育係という難役をさせることで責任感を喚起できますし、似た相手の姿を通して自分を客観視させ、反省を促すこともできるでしょう。

なお性格や性別を問わず、部下をこまめに褒めることは必須。そのうえで「喜ばれる褒め方」の違いも知っておきましょう。

男性脳には「公平性」を求める傾向があり、頑張りや成果に応じた評価や賞賛をもらうことで、満足感を覚えます。

対して女性脳は「平等性」を求めます。成果の度合いは別として、「皆と同じように」褒められたいのです。得てして「あの人ばっかり褒めて」「私だけ何も言われない」という不満が出るのはそのせいです。

これを避けるには「褒めた回数チェック表」が便利。誰を何回褒めたかをチェックし、回数を平等にすれば、部下間の嫉妬やモチベーションの低下を防げます。

「女性脳」は企業に必要不可欠な戦力

最後に、女性上司の下についたときの心得もお話ししましょう。管理職ともなれば、性差よりも個人ごとの才覚や価値観のほうが前面に出ますが、それでも「女性脳ならでは」の特性が現れる場面もあります。

例えば、AとBの2案を提示し、メリットとデメリットを説明したとき、しばしば女性上司は「で、あなたはどちらがいいの」と聞くことがあります。

女性脳は比較検討より、直感的選択を重視します。相手にもそれを期待するため、即答しないと「真剣さが足りない」と思われかねません。「Bです」など、事前に答えを用意しましょう。

ちなみに、そう答えたとたん上司が「Aにする」と言うことがありますが、部下をないがしろにしているわけではありません。上司はむしろ、真摯に考えた部下に好感を持っています。出した答えがたまたま別でも、傷つく必要はありません。

──さて、ここまで紹介した数々のワザを「面倒だ」と思った方も多いはず。「ビジネスは迅速な問題解決こそ命なのに、共感なんて」と感じられたかもしれませんね。

その考え方も一理ありますが、ビジネスには、女性脳が役立つ場面も多くあります。直観力や発想力は女性の得意領域ですし、愛着を持った仕事には途方もない集中力を示します。それがイノベーティブな発案につながることは珍しくありません。

共感は、その能力を引き出すための栄養分。日頃のやりとりにひと手間かければ、女性はのびのびとその才能を発揮するでしょう。合理性の型にはめようとする前に、「急がば回れ」のこの選択、ぜひお試しください。

文・黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
感性リサーチ代表取締役社長/感性アナリスト
1959年、長野県生まれ。栃木県育ち。奈良女子大学理学部物理学科卒業。㈱富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて人工知能(AI)の開発に従事。2003年に㈱感性リサーチを設立、脳機能論と人工知能の研究成果に基づく五感分析法を開発し、マーケティング分析に生かす。性別や年代による脳の性質の違いを軽妙な語り口で解説、講演やセミナー、テレビ出演等幅広く活躍。『キレる女 懲りない男』(筑摩書房)ほか、著書多数。(『THE21オンライン』2019年5月号より)

提供元・THE21オンライン

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