全体を俯瞰すれば、解決の糸口が見つかる!

様々な要素が絡まり合った複雑な問題でも、二つの軸を描くだけで解決できる――。プロジェクトマネジメントの経験が豊富な木部智之氏は、そう話す。どんな場面でも使えて、思考を速くする効果もある「2軸思考」の方法について、木部氏に教えてもらった。

複雑な問題を複雑なまま考えてはいけない

複雑な問題や解決困難な問題に直面したとき、皆さんは何から手をつけますか。こんなとき、思いつきで行動すると、時間ばかりが過ぎていき、事態はますます悪化します。

私は、急がば回れで、まずは立ち止まって、問題の全体像を把握することから始めます。

問題が複雑に見えるのは、全体像をつかめていないからです。全体像がわかれば、「色々な現象が起きているけれど、問題の本質はここで、きっとこうすれば解決できるぞ」という突破口が開けてきます。

そこで私は、「全体を俯瞰して、問題をシンプルにしてから行動すること」を、いつも心がけているのです。

では、どうすれば、それが可能になるのでしょうか。それは簡単です。縦軸と横軸の2軸で枠を作って考えればいいのです。

以前、私の部下が、「やらなくてはいけないタスクが30個も溜まってしまい、どうすればいいかわかりません」と相談に来たことがありました。

私は、縦軸にタスク、横軸に「課題の内容」「現在の状況」「担当者」「難易度」「影響度」「優先度」を設定した枠を作って、状況を整理するように指示しました。 そうして全体を俯瞰できるようにし、問題をシンプルにしたわけです。そして、「影響度」や「優先度」が高いものから、順次、片づけさせていくことにしました。

このような思考法を、私は「2軸思考」とか「2軸フレームワーク」と呼んでいます。

マトリクス作りはモレなく、ダブリなく

2軸フレームワークには、2本の軸を左上で交差させる「マトリクスタイプ」や、中央で交差させる「4象限タイプ」などがあります。

このうち、私がタスクが溜まってパニクっている部下に作るように指示したのは、マトリクスタイプのフレームワークです。

マトリクスは、前述のように、問題の全体像を捉えたいときや目の前の雑多な事象を整理したいとき、複数の選択肢に優先順位をつけたいときなどに便利です。

マトリクス作りの際に注意したいのは、縦軸も横軸も、モレなく、ダブリなく、同じレベル感で項目を洗い出すことです。

例えば、クルマの購入を考えている人が、縦軸にメーカー、横軸に「セダン」「クーペ」「ステーションワゴン」といった車種を並べたマトリックスを作って、どのメーカーのどの車種がいいかを比較検討するとしましょう(下図参照)。
 

2軸思考,木部智之
(画像=THE21オンライン)

このとき、「メーカーにホンダを入れるのを忘れていた」というようなモレがあると、重大な失敗につながります。

また、「トヨタ」「ホンダ」「輸入車」といったように項目のレベル感が不揃いだと、的確に比較することが難しくなります。

できあがったマトリクスのマス目を埋めていく際には、律儀にすべてを埋める必要はありません。「クーペにはまったく興味がない」という人であれば、そもそも検討の対象外なわけですから、そのマス目には何も書かなくていいわけです。

ムダなことに思考のエネルギーや時間を使わないことも大切です。

4象限タイプは2軸の設定が鍵

一方、4象限タイプのフレームワークは、様々な事象のポジショニングを明確にしたいときや、そのポジショニングをもとに戦略を立てたいときなどに使うと便利です。

私が以前、20人程度のメンバーがいるシステム開発のチームを新たに受け持ったときのことです。その時点では、メンバーのスキルはまったくわかりませんでした。

チームでシステム開発のプロジェクトに取り組む際には、リーダーシップとITに関する専門スキルがとても重要になります。そこで、複数の人に、各メンバーのリーダーシップとITスキルについて5段階評価で採点をしてもらい、平均点を出しました。そして縦軸に「リーダーシップ」、横軸に「ITスキル」を取った4象限タイプのフレームワークを作り、メンバーのスキルを「見える化」したのです(下図参照)。
 

2軸思考,木部智之
(画像=THE21オンライン)

4象限の右上や左上は、リーダーとしてチームを引っ張ってもらうことが期待できる人材です。また、右下は、ITスキルのスペシャリストとして、専門的な仕事を安心して任せられる人材です。一方、左下の人材は、できるだけ早く右下や左上に移ってもらえるように育成を図る必要があります。

このように、メンバーのスキルを4象限のフレームワークに落とし込んだことで、チームの人材活用や育成戦略を立てることができました。

ただし、私がこの4象限タイプのフレームワークをスムーズに作成できたのは、「システム開発の部署では、リーダーシップとITスキルが重要」であることを、あらかじめ知っていたからです。もし知らなければ、縦軸と横軸を何にするか相当迷ったはずです。

「4象限のフレームワークを作ろうと思ったが、縦軸と横軸を何にすればいいかわからない」というときは、まずはマトリクスタイプのフレームワークを作ることをお勧めします。

メンバーのスキルでいえば、縦軸にメンバーの名前を書き、横軸に「ITスキル」「管理スキル」「リーダーシップ」「コミュニケーション力」「英語」といったスキルを書き出して、マス目を採点した数値で埋めていきます。

そして、完成したマトリクスを眺めながら、「縦軸は『リーダーシップ』として、横軸は『管理スキル』かな?いや、でも何か違うぞ……」というように、試行錯誤を重ねながら、しっくりとくる縦軸と横軸を探すのです。

また、マトリクスを眺めているうちに、「この項目だけ点数のバラツキが激しい」といった特異点が見つかることがあります。そんなときは、特異点のある項目を軸の一つに定めてみましょう。すると、バラツキがあるぶん、それぞれの事象のポジショニングが明確に分かれる4象限となり、事象の整理や分析を行なううえで役立てることができます。

書きながら説明すれば正確に伝わる

私は、同僚や部下とコミュニケーションをする際にも、2軸フレームワークを使っています。

複雑な物事を言葉で伝えようとしても、自分も正確には伝えられないし、相手も正確には理解できません。情報や意思の伝達に必ず齟齬が生じます。

けれども、2軸フレームワークを使って、シンプルな図に落とし込めば、説明も簡単だし、相手も全体像の把握が容易になります。

私はいつも紙に図を描きながら説明をし、説明が終われば、その紙を相手に渡すようにしています。口で発した言葉はすぐに消えてしまいますが、紙なら、捨てない限りは何度でも読み返して再確認できます。それでも行き違いが生じたときには、説明したときに使った紙を持って来てもらって、図を一緒に見ながら再度説明をしています。

2軸フレームワークは、メンバーでアイデア出しをするときも有効です。

アイデア出しのときには、発想の枠を決めずに、メンバーが思いついたことを自由に言い合うブレストがよく行なわれますが、話が飛んだり広がったりしすぎて、非効率になる場合があります。

そこで、例えば出版社の編集者たちが、ある本が売れた理由についてブレストをするのであれば、「テーマ」「タイトル」「カバーデザイン」といったように、あらかじめ話し合いたい項目を洗い出してマトリクスのフレームワークを作り、「では、次はカバーデザインについてアイデアを出してください」というように、枠に沿って議論を進めていくのです。

このやり方だと、枠の中での思考になるため、「そんな視点は今まで思いつきもしなかった!」といったイノベーションは生まれませんが、改善や改良レベルのアイデアを出すには有効であり、効率的です。

このように、2軸フレームワークをマスターすると、物事をシンプルに考えたり伝えたりするのが容易になり、思考や仕事のスピードが加速度的にアップします。

最初のうちはなかなか2軸の図を作れないものですが、自転車に乗れるようになるのと同じで、何度も繰り返すうちに必ず自分のものにすることができます。

ぜひ、日々の仕事に2軸フレームワークを取り入れてみてください。

文・木部智之(きべ・ともゆき)
パナソニック システムソリューションズ ジャパン〔株〕現場プロセスプロジェクト部部長
横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本アイ・ビー・エム〔株〕に入社。プロジェクト・マネジャーとして大規模システム開発プロジェクトに関わってきた。18年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)などがある。《取材・構成:長谷川敦》(『THE21オンライン』2019年3月号より)

提供元・THE21オンライン

【関連記事】
ミレニアル世代の6割が「仕事のストレスで眠れない」試してみたい7つの解消法
みんながやっている仕事のストレス解消方法1位は?2位は美食、3位は旅行……
職場で他人を一番イラつかせる行動トップ3
「ゴールドマン、Facebookなどから転身、成功した女性起業家6人
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング(PR)