国が勧める副業解禁を含めた「働き方改革」は、日本における就業の考え方を大きく変えるといわれている。企業の考え方によって差が生じるが、数年もすれば副業が「業務時間以外でビジネスキャリアを構築するもの」と、当たり前のものとして認められる時代も到来するだろう。

ところで、副業解禁のように会社廻りの常識が大きく変わる場合、政府と経営陣、そして「現場」に話が繋がる時間差、そして理解して貰える時間差に気をつける必要がある。国の政策として全面的に副業が解禁され、経営陣が本格的に導入することが告知されても、それが現場に浸透するまでにタイムラグが生じるというものだ。

ここは数年後、実際に副業を導入したA社の現場の話をして、シミュレーションをしてみようと思う。

2019年、副業を全面的に解禁したA社の話

東京オリンピックを翌年に控えた2019年、数年前から国が力を入れていた副業解禁も少しずつ企業の世界に浸透し、解禁を表明する企業も増えてきた。そんな中、前年に経営陣が副業解禁を表明したA社。この会社に10年勤める中堅会社のBさんが、所定のルールに則って会社に副業を申請。午後5時には退社し、次の勤務地に向かうようになった。それほど革新的な会社ではないA社ということもあり、Bさんは副業組として口火を切った形だ。

ところが仕事が残っていても退勤せざる負えないBさんに対し、部課内から「暗に」抗議の声があがるようになった。Bさんとしては今やA社も、同様に副業先も力を抜くことのできない勤務先。午後5時に移動することは予め申請した動きであり、何も責められるものではない。

ただし現場側から見ると見解は少々異なる。副業解禁前に唯一の勤務先だったところは優先されるべきであるし、会社側も時間外手当等により対価を発生させてきた。また副業はあくまで「個人に利益が還元されるもの」であり、ワークシェアというマクロの視点が論じられたところで現場が理解することは難しい。

そのような状況が続き、A社における副業解禁の流れは次第に有名無実化していった……。

副業を開始したとき、「現場」に伝えるポイント

会社として副業解禁を導入する時点と、現場が副業をする社員に「慣れる」時点。暫くの間、副業をするものは、どうしてもタイムラグを意識して副業を展開することになるだろう。インターネットがそれまでのアナログ的な方法に変わったように。海外展開の一端として一部の企業で社内英語化が進んだように。副業と、そして副業をめぐる働き方の変革、そして現場の理解は、長い時間をかけて浸透していくものと予想される。

経営者や管理者の立場からは、会社として取り入れた考え方が現場に浸透するまで、時間があることを理解して社内にメッセージを発信しなければならない。そして副業に対し前向きな人材も、抵抗を持つ人材も納得できるような環境づくり、仕組みづくりをすることが大切といえるだろう。

そもそも副業は、本業以外にお小遣い口を設けられる個人にのみメリットのある話ではない。社内では得られない知識や人脈、仕事に対する考え方の違いなどは個人にプラスの経験となるものの、それを持ち帰ることによって会社にとっても還元される話になってくるはずだ。

従業員それぞれが当事者となる「税務面」のメリット

加え、副業拡大は従業員にとって更なるメリットを生む効果がある。それは「税金の知識が増えること」だ。

副業分の報酬は給与所得として受ける場合と、給与所得以外の報酬として受け取る場合がある。この場合、社員は「雑所得」として、原則20万円以上の場合に、確定申告をする必要がある(厳密には細かい条件があるが、本稿では本旨ではないため言及しない)。それまで税金関係は勤務先の人事部に「丸投げ」をすることが当たり前で、年末調整の時期になると生命保険料控除証明書など、扶養親族の証明書を提出することで「完了」している人が多いのではないだろうか。

副業になると所得になるため、ここに「必要経費」という考え方が生まれてくる。その報酬を得るのに支払った経費はどれくらいなのかを認識することで、大きく税金を抑えることが可能になる。その癖が本業に活きると、会社のお金として、どこか自分事で考えることのできなかった経費の考え方も、大きく変化するようになるだろう。そのようにして、本業にプラスの状況となって初めて、副業も「現場」で、広く認められるようになっていくのかもしれない。

文・工藤 崇(FP-MYS代表取締役社長兼CEO)/ZUU online

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