ある日突然、部下が「会社を辞めたい」と言ってきたら、どう対処すべきだろう。有能な社員が退職を申し出た場合、カウンターオファーで引き留めにかかる企業は多い。しかし、実際のところどれだけの効果があるのだろうか。その有効性について考えてみる。

61%がカウンターオファーを辞退

カウンターオファーとは、転職希望者を引き留めるために会社側が条件を提示することだ。昇給や昇進、社内での異動など、対象者に応じたさまざまな条件提示で慰留をはかる。

外資系人材紹介会社ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンの調査によると、日本での転職経験がある人のうち「カウンターオファーは提示されたが辞退し退職した」と回答した人は全体の61%にのぼった。

また、同調査によると、「カウンターオファーを受け入れ12カ月以上その会社に留まった」という人は回答者全体の21%、「カウンターオファーを受け入れたが12カ月以内に退職した」という人は18%だった。一度はカウンターオファーを受け入れたとしても、短期間で退職してしまうケースが多いという実情が見える。

部下から何の前触れもなく退職の意思を告げられたとき、カウンターオファーという手段は最善策かもしれない。しかし、退職希望者の6割以上が引き留めを断り、受け入れたとしても1年以内に相当数が辞めてしまうのだから、カウンターオファー自体の有効性を疑ってしまう。

カウンターオファーのタイミング

カウンターオファーが抱える一番の問題は、そのタイミングの遅さにある。退職希望者はすでに、会社を辞めることを決意してしまっているのだ。

ヘイズの日本代表であるマーク・ブラジ氏は、「カウンターオファーを辞退した人の場合、大抵はそのタイミングが遅すぎます。キャリアの次のステップに進みたいと考えている場合でも、自分の専門分野を広げたいと考えている場合でも、他社の求人に応募した時点ですでに転職の意思は固まっており、別の業界への転身を図る場合や、単に現在の仕事に不満を抱いている場合も同じです」と述べている。

就職は、恋愛や結婚によく例えられる。就職することが恋愛の成就や入籍に似ているのであれば、離職は2人の別れと言えるだろう。「もう別れよう」と相手に告げるのは、思い悩んだ末に意を決したからだ。気持ちが冷めてしまってからでは、いくら引き留められても関係の修復は難しい。

引き留めに成功する可能性と弊害

別の角度からも見てみよう。エン転職が2016年9月~10月に実施した「転職のきっかけ」についてのアンケート調査によると、転職を考えたきっかけで最も多いのが「給与・待遇への不満」、次いで「仕事内容への不満」、「成長実感が持てない」となっている。

転職したい理由が「給与・待遇への不満」だとする社員には、カウンターオファーはある程度有効かもしれない。満足できる給与や待遇を会社が用意してくれるのであれば、退職を踏みとどまる人も増えそうだ。「仕事内容への不満」についても、改善できる可能性はあるだろう。

ただし、カウンターオファーには危うい面もある。たとえ引き留めに成功したとしても、退職を考えていたという事実は消えない。周りは「結局、すぐに辞めるのでは?」と疑心暗鬼になりがちだ。また、「良い条件で引き留められた」という噂が広まることで、不公平を感じる社員も出てくるだろう。どちらのケースも、会社にとってはマイナス要素になり得る。

どうやらカウンターオファーには意味がない

カウンターオファーについてここまで見てきたが、退職を決意した社員を引き留めてもあまり効果がない、どうやらカウンターオファーには意味がない、と言えそうだ。では、どうしたらいいのか。会社として事態を改善していく方法を2つ挙げてみる。

まず1つは、退職希望者を引き留めずに「快く辞めさせる」という方法。社員の退職後を応援するというスタンスだ。強引な慰留は会社の評判を下げるが、辞めていく社員の未来を快く応援することは、会社のイメージアップにもつながる。戦力を失うことで一時的な損失は生まれるかもしれない。しかし、企業のブランド力を上げていくことで、新たに優秀な人材を集めることもできるだろう。

もう1つは、「辞めたくならない職場づくり」だ。これまで離職していった社員たちが、どんな理由で去って行ったのかを分析しているだろうか。たとえば、キャリアアップを望む人が多いなら、資格取得の支援制度を整備する必要がある。また、待遇面に不満を感じている人が多いなら、早急に対策を検討していくべきだ。辞めたい人を引き留めるのではなく、辞めたいと思わせない環境をつくっていくことが大切なのではないだろうか。

退職の意思が固まってからカウンターオファーを提示しても、そのタイミングでは遅すぎる。最も理想的なのは、直属の上司が早い時点で部下の悩みに気づくことだ。会社やチームの業績にばかり目を奪われると、つい小さなサインを見落としてしまう。働き方が多様化していくこれからの時代、個々の管理能力はますます問われることになるだろう。

文・渡邊祐子(フリーライター)/ZUU online

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