本社以外の事業拠点「サテライトオフィス」の設置を拡大する企業が増えています。新型コロナウィルス感染拡大防止のために推進するテレワークに加え、サテライトオフィスを設置することによって、働き方を多様化する狙いがあります。中規模商業ビルにとっては需要の追い風になるのか?サテライトオフィスをめぐる企業の最前線を探ります。

コロナ対策で定着したテレワーク

2020年は新型コロナウィルスの感染が拡大し、公共交通機関を利用する出勤リスクが高まったことを理由に、テレワークを導入する企業が急増しました。内閣府のデータによると、2020年6月21日に公表した時点で、全国のテレワーク実施率は34.6%となっています。

テレワークの普及は、これまで順調に低下していたオフィス空室率を上昇させました。テレワークで働き方が大きく変わった結果、企業のオフィス戦略も変更を余儀なくされたのが原因です。

一方で、テレワークのあり方を見直す動きもあります。テレワークを実施した結果、会社や社員にとって不都合な点が表面化したためです。1つは、テレワークは自宅だけでなく、人によってはカフェや図書館で業務を行う場合もあるため、セキュリティに不安があることです。

また、自宅勤務の場合は時間管理が難しいという問題があります。必ず8時間など規定時間分の仕事をするという保証がなく、成り行き次第ということになりかねません。さらに社員側の事情としては、住宅の間取りによってはビデオ会議システムに参加しにくいという問題も考えられます。

そこで、注目を集めているのが、自宅以外の近い場所で勤務できるサテライトオフィスです。

サテライトオフィスの設置を拡大する企業が増えている

「企業のオフィス戦略」と聞いたとき、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。東京都心に本社を置き、埼玉・千葉・神奈川の首都圏に支社をネットワーク化するのが一般的な形として思い浮かぶでしょう。

ところが、最近ではサテライトオフィスの設置を拡大する企業が増え、従来のオフィス戦略が変化しつつあります。社員数の多い大型電機メーカーや、遊休スペースの活用に悩む銀行業界などがサテライトオフィスを設置してより生産性を向上させる戦略を打っています。

では、サテライトオフィス導入にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

サテライトオフィスのメリット・デメリット

サテライトオフィスは企業としてメリットが多く、社員には働き方の選択肢が増える点で恩恵があります。ただし、デメリットもあるので、注意点に配慮しながら運営することが大事です。メリット・デメリットとして、以下のような点が考えられます。

【メリット】

オフィスの設置コストが少ない

これまでの支社とサテライトオフィスの違いは、規模と利用目的です。支社の場合は業務全般を行える設備が必要ですが、サテライトオフィスはパソコンと電話、印刷機など最低限の設備があれば機能を果たすことができます。会議室や倉庫なども不要なため、大規模ビルに入居して高い家賃を払う必要がありません。

移動コストや時間の削減で生産性が向上する

移動コストと時間を削減できるのも大きなメリットです。たとえば、横浜まで出張した社員が、東京の本社まで戻るのは時間のロスが大きいでしょう。電話とデータ送信で済む業務なら、横浜のサテライトオフィスで仕事を済ませて自宅に直帰したほうが効率的です。社員は自分の時間が増え、会社は移動コストや残業代を削減できることで生産性が向上します。

社員の離職を防止できる

会社にとって社員の離職は悩ましい問題です。本社だけしかなければ状況を変えることは難しいですが、サテライトオフィスを設置することによって改善できる問題もあります。

一例を挙げれば、子どもを保育園に預けて働く女性社員にとって、勤務先が遠いことが離職する原因の1つになっていました。しかし、サテライトオフィスが数ヵ所あり、保育園に一番近いオフィスを勤務地に選択することが可能になれば、離職の防止につながるでしょう。

【デメリット】

社員とのコミュニケーションがとりにくい

デメリットとしては、どうしても本社とのやりとりがWeb中心となるため、コミュニケーション不足になることが挙げられます。本社や支社に出社したときは必要なことを十分に話し合うことで、コミュニケーションを深めることが大事です。

データ管理などセキュリティに不安がある

ある程度きちんとした業務体制が敷かれている支社と違い、サテライトオフィスは簡易な業務環境ですので、データ管理などセキュリティの確保は十分配慮する必要があります。とくにレンタルオフィスは不特定多数の人が出入りするので要注意です。