夏場以降、ユーロ圏の一部の国では、新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加している。背景には、5月以降の経済活動再開で人の移動が活発化してきたことがある。8月から9月にかけての感染第2波により、フランス、スペインなどにおける新規感染者数は、4月のピークを上回る水準まで増加した。

 しかし、よほど感染者数の急増が見られない限り、ユーロ圏各国が国家レベルでの外出禁止、工場閉鎖など都市封鎖措置の再開に踏み切る可能性は低い。都市封鎖措置に伴う大幅なマイナス成長や追加的な経済損失に耐えられない上、ショックを緩和するための財政的な余裕も失われつつあるからだ。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「制限措置に伴うコラテラル・ダメージ(巻き添えの損害)が甚大であることから、国家レベルでの再封鎖はできない」と述べ、都市封鎖措置再開の可能性を否定している。

 感染再拡大のユーロ圏経済への影響は、これまでのところ限定的である。夏場のユーロ圏経済は回復しており、景気との連動が強い購買担当者景気指数(PMI)は、4月を底に上昇に転じ、7月、8月は景気判断の節目となる50を上回った。都市封鎖措置解除後の経済活動再開に伴う生産の反動増が大きいが、7月にはドイツによる総額1,300億ユーロの追加経済対策の効果が加わった。9月にはフランスで総額1,000億ユーロの追加経済対策が発表され、来年以降の景気を押し上げる公算が大きい(図表)。

 両国の経済対策は、規模は同程度だが、その内容は異なっている。ドイツの経済対策は需要喚起策が中心である。付加価値税の一時的な引き下げ(19%→16%)、子ども手当、電気自動車購入に対する補助金の増額などが含まれる。これに対してフランスの経済対策には供給側の構造改革が盛り込まれた。企業向け地方税である企業付加価値負担金(CVAE)や企業不動産負担金(CFE)の軽減といった企業競争力の強化策や、中小企業のIT化投資、職業訓練、若年層支援などが含まれている。建物のエネルギー効率化など環境関連支出も盛り込まれ、この点はドイツと共通している。

 みずほ総合研究所では、2020年・21年のユーロ圏GDP成長率をそれぞれ前年比9.1%減、5.1%増と予想している。ドイツとフランスの経済対策が一定の効果を発揮し、20年後半以降のユーロ圏の景気を下支えする見込みである。

 ユーロ圏経済は、新型コロナの感染再拡大ペースに左右されながらも、緩やかに回復するだろう。GDPが19年10~12月期のコロナショック前の水準に戻るのは22年後半になると予想している。

きんざいOnline

(画像=きんざいOnlineより引用)
文・みずほ総合研究所 欧米調査部 上席主任エコノミスト / 吉田 健一郎
提供元・きんざいOnline

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