新型コロナウイルスの感染拡大が続き、収束のめどが立たない中、観光業は大きな打撃を受けています。

アフターコロナ、ウィズコロナでは、観光業が旅行者に提供できるサービスに制約が生じてしまいます。

そのような状況下、比較的長期に滞在する旅行者「ロングステイヤー」が、観光業の現状を打破するためのキーワードとなるかもしれません。

目次
ロングステイヤーとは?

 ▶︎ロングステイヤーの事例
「ワーケーション」を実践していたデジタルノマド
 ▶︎デジタルノマドのメッカ、タイ・チェンマイ
 ▶︎エストニア「デジタルノマドビザ」、ジョージア「ノービザで1年滞在可能」
 ▶︎日本国内でもすすむ、ワーケーションの動き
日本はロングステイヤーの目的地となれるか

ロングステイヤーとは?

ロングステイヤーとは、移住や永住ではなく、自国への帰国を前提として、海外に2週間以上など比較的長期に滞在する人のことです。

政府の認可を受けた公益法人として、ロングステイに関する情報収集・提供や、ロングステイヤーのサポートなどを行うロングステイ財団では、ロングステイを下記のように定義しています。

  1. 比較的長期にわたる滞在
  2. 海外に「居住施設」を保有、または賃借する
  3. 「余暇」(自由時間)を目的とする
  4. 「旅」よりも「生活」をめざす
  5. 生活資金の源泉は日本

ロングステイ自体は、すでに以前より注目されている概念ですが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、観光地でロングステイヤーを呼び込もうとする動きが見られています。

新型コロナウイルスの流行によって人の往来が制限される中、旅行者の数を従来のように確保することはできなくても、より長く滞在してくれるロングステイヤーに観光収入を期待できる可能性があります。

ロングステイヤーの事例

実はロングステイは2013年頃から大手旅行会社JTBのサイトで紹介されており、タイやマレーシアでロングステイをする日本人がいました。

近年、ロングステイの目的は異文化交流、避暑や避寒といった健康、留学、介護など多様化しています。ロングステイヤーの高齢化が懸念される一方、ボランティアなど海外で働く若い世代も増えています。

ロングステイ先としては「安く」「近く」「暖かい」国や地域が人気で、タイ、マレーシア、フィリピン、オーストラリアなどを選択するロングステイヤーが多いようです。

ロングステイヤーへの訴求要因としては、リーズナブルな滞在費用、高い医療水準、文化やアクティビティを楽しめることなどが挙げられます。

最も日本人のロングステイヤーが多いとみられるタイは、これらの条件を満たしているといえるでしょう。

「ワーケーション」を実践していたデジタルノマド

新型コロナウイルスの流行により打撃を受けている観光業ですが、宿泊施設や観光地を、感染拡大を防止しながら利用、訪問する方策が検討されています。

日本政府はリゾート地や温泉地などで余暇を楽しみながらテレワークで仕事をする「ワーケーション」や、同様の地域に展開する企業の拠点「サテライトオフィス」の普及に向けて取り組む考えを示しています。

これまでにも、主に個人事業主として働く人により「デジタルノマド」という働き方が実践されてきました。デジタルノマドはワーケーションを実践してきたといえるでしょう。

デジタルノマドのメッカ、タイ・チェンマイ

デジタルノマドとは、働く場所を自由に選びながら、インターネットを利用して業務を遂行するリモートワーカーのことです。

ロングステイヤーに人気のタイでは、北部の都市チェンマイが、デジタルノマドのメッカとして知られており、無料で利用できるWi-Fiや電源設備を備えたカフェが充実しています。

一方で、デジタルノマドとして働くためには、その国のビザが必要になることがほとんどで、例えばタイの場合は30日以上滞在する場合は、ビザを取得する必要があります。

エストニア「デジタルノマドビザ」、ジョージア「ノービザで1年滞在可能」

ビザの問題で滞在期間が限られてしまう課題を解決する手法として注目されているのが、北欧のバルト三国のひとつ、エストニアによるデジタルノマド向けのビザ「デジタルノマドビザ」です。

6月3日、エストニア「デジタルノマドビザ」発給の要件を盛り込んだ外国人法が成立し、7月1日より施行されました。エストニアの内務省は、エストニアがデジタルノマドビザの枠組みを作る最初の国のひとつになるとしています。

デジタルノマドビザを取得すれば最大1年滞在が可能になると見られ、年間1,800人のビザ発給を想定しているということです。

また東欧のジョージアでは、日本人はビザを取得せずに1年間滞在することができ、無料のコワーキングスペースなど、デジタルノマドが働きやすい環境が整っています。

日本国内でもすすむ、ワーケーションの動き

ワーケーションとは、「ワーク(Work・仕事)」と「バケーション(Vacation・休暇)」を組み合わせた造語で、リゾート地や地方などで休暇を過ごしながら、間に仕事をする仕組みです。

日本政府もワーケーションへの支援に力を入れ始めています。

環境省は2020年度の補正予算案にワーケーションの推進事業として22億円を盛り込み、約500の団体を採択し、計1千人以上の観光事業者らの雇用確保を目指しています。

同省が所管する国立公園のキャンプ場などでテレワークに適した通信環境を整備するほか、ツアー事業者などに補助金も支出します。

また、日本各地で運営する家に定額で住める他拠点コリビングサービスも、ワーケーションに関連したサービスとして注目されています。

海外には日本の生活環境を評価する人も少なくないため、ビザの取得や滞在先確保といった手間が解決されれば、渡航の正常化のあとに「ワーケーション」先として日本各地を検討する外国人も出てくるでしょう。

日本はロングステイヤーの目的地となれるか

今回取り上げたエストニアやジョージアのように、ノマドワーカーを受け入れる体制が整っている国や地域では、ロングステイヤーの獲得がこれから進んでいく可能性があります。

日本でも、海外からノマドワーカーを受け入れることで、観光業の回復の一助となる可能性があるでしょう。

ただしノマドワーカーが長期に働くためにはビザ取得の手続きなど、様々な準備が必要になります。例えばタイでロングステイビザを取得するためには、ビザ申請書やパスポートの他、英文履歴書や犯罪履歴証明、英文の健康診断書など様々な書類が必要になります。

日本では、タイなどを筆頭に日本人によるロングステイの実績があることから、日本人がタイのどこに惹かれているかを参考にして、ターゲット市場を定め、魅力を創出していくことができる可能性があります。

たとえば日本からのロングステイ先が「安く」「近く」「暖かい」国が人気があることを考えると、地理的に近く、富裕層も多いシンガポールなどは候補に挙がるかもしれません。暑い国の人にとって、季節によっては日本は避暑に適しており、自国にはない「雪」も、魅力として訴求できる可能性があるでしょう。

日本が今後ワーケーションやロングステイヤーの目的地になれるかは、政府による推進に加え、各事業者の取り組みも大きな役割を果たすはずです。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

【関連記事】
【2020年上半期最新版】訪日ラボ恒例「インバウンド業界カオスマップ」を公開!東京オリンピックを迎えうつ、約1,400サービスを完全網羅
インバウンドで人気の観光地ランキング TOP30
2019年インバウンド業界「流行語大賞」発表!2位は「東京オリンピック」1位は?:業界最大級メディアだからこそわかる本当のトレンドを分析!
中国人が殺到!中部国際空港のセブンイレブンで1時間待ってでも買いたいものとは?
訪日旅行「現地生活」がこれからの魅力に?外国人が知らない日本のルールやマナーをおもてなしに活かすには